チャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグで、マンチェスター・シティは引き分け以上、負けても0-1なら決勝進出が決まる。
今季これまでCLで無敗の彼らが相手だけに、「パリ・サンジェルマンにチャンスはない」と見る声は現地フランスにも多い。
がしかし、今季のPSGは試合ごとにパフォーマンスが変わる“カメレオンチーム”。どう転ぶかはまだわからない。実際、マン・Cとのファーストレグも、前半と後半ではまったく別チームのようだった。
前半45分間は、マウリシオ・ポチェッティーノ監督も「(着任してからの)4か月間でベストと言えるパフォーマンス」と評価したほど、ホームで戦ったPSGのペースで試合が進行した。
Getty Images極上のラストパスが出せて、フリーキックからの一発もあるアンヘル・ディ・マリア、カウンター時には最大の脅威となるキリアン・ムバッペ、どこからでもチャンスを作り出すネイマールと、持ち味の異なる攻撃トリオは守備力自慢のシティに絶え間なく集中を強いる。さらに、マルコ・ヴェッラッティは、中盤と攻撃ラインをうまく繋ぎながら守備時には左サイドに入って4-4-2の形を作り、PSGは攻守ともに統制のとれたゲームを展開した。
もっともシティは、開始15分でマルキーニョスに先制点を奪われたあとも落ち着きを失わず、「自分たちの時はいずれくる」という思いとともに虎視眈々と好機をうかがっているようにも見えた。そして実際にその好機は訪れ、64分にケビン・デ・ブライネのロングクロスで同点に追いつく。
『BeINスポーツ』で解説を務めたアーセン・ヴェンゲルは「デ・ブライネに同点弾を決められた瞬間、PSGのメンタルは崩壊した」と分析。確かに、ボール奪取を焦るあまりファウルを連発したPSGは、ゴール正面の良い位置でFK を与えてしまい、リヤド・マフレズに決められて逆転負けに終わった。
ポチェッティーノは「この2失点はアクシデント」と試合後に漏らしたが、指揮官からすると、「ありえない」失点だったのだろう。
■試合によってモチベーションに差
Getty今季はそもそも、最初から成績は不安定だった。ウィンターブレイクにトーマス・トゥヘルからポチェッティーノに指揮官を交代した後も、すでに前任者と同じ4敗。この時期までに8敗は、2011-12シーズンにカタール資本が入ってからでは最多だ。
かと思えば、CLラウンド16のバルセロナ戦では、カンプノウで4-1の快勝。準々決勝セカンドレグでも、「初戦の2-3のアドバンテージなどバイエルンになら簡単にひっくり返される」という下馬評を裏切り、1失点のみで守り切った。
一方でちょうどその2試合の間にあった、リールとの重要な首位対決では、まったく勝てる気配すらない内容で0-1と敗れ、9節ぶりに奪回した首位の座を一瞬で明け渡している。
この試合のあと、「良い時と悪い時の差が激しすぎる、今シーズンのチームのこの二面性をどう説明するのか?」と記者から問われると、ポチェッティーノは、「それぞれの試合に向かうにあたって、モチベーションの差や、置かれた状況の違いがある。たしかにハイ&ローがあって規則性が見つけられていないのは事実」と渋い表情で認めていた。
指揮官としても、考えうるベストの戦略を講じたら、あとは選手たちが感情をコントロールすることを祈るしかない、という心境か。
選手の方にも自覚はあるようで、前日会見でマルコ・ヴェッラッティは、「感情をコントロールしないといけない」というフレーズを繰り返していた。
「失うものは何もないから思い切っていく」という言葉には、静かな自信も漂っていたが、前半は優勢だったのに逆転されたファーストレグで痛い勉強をしたのだとすれば、セカンドレグはそれを教訓に良い精神状態を保てるかもしれない。
■ゾーンにさえ入れば…
Getty Images彼らがこの準決勝戦を制することができるかは、『火事場の馬鹿力』が出せるかにかかっている。切迫した状況に置かれると、普段は出せないような力が出せることを意味する言葉だが、これは元々ない力が出るのではなく、極限状態に置かれたことで、本来持っている能力が引き出される、ということだ。
その能力が出せたなら、シティに逆転勝ちもありうるだろうと思えるのは、バイエルンとのセカンドレグの凄まじさがあったから。
あの試合では、前線で相手を引きつける素晴らしい働きをしたネイマールの効力ももちろん大きかったが、あれはPSG側の「気合い」がつかんだ勝利だった。
前半は、ディフェンス勢の些細なミスをことごとくシュートチャンスに持ち込まれ、昨季までチームメイトだったエリック・マキシム・チュポ=モティングに得点を許した。しかしその後の彼らの、「何がなんでも突破は譲らない!」という気迫は、霊感などまったくなくても身震いするほど強烈だった。
普段のリーグ戦では、残留も危ういような下位の相手に先制され、慌てて目が覚めたように点を取りに行って逆転勝ちする、というような試合をしている彼らが、本気を出すとここまで集中が高まるのか、というのを思い知った瞬間であり、ゾーンに入ったときのPSGには、戦術とかスキルなどとは別の次元の恐ろしさがある。
4日の試合では、果たしてそのゾーンに入れるかがカギとなる。
■逆転のために求められること
Gettyテクニカルな部分では、シティ戦で足を痛めたムバッペは前日にようやく個人練習に復帰。ポチェッティーノいわく、メンバー入りはするが出場できるかは直前まで見極めるとのことだ。
ファーストレグではレキップ紙で両軍合わせて最低の「3」をつけられ、「ファントム(幽霊)だった」と酷評されたムバッペ。だが、バルセロナ戦ではハットトリック、バイエルン戦ではディフェンス面でも凄まじい働きをしているだけに、欠かせない選手だ。
そして中盤のボール奪取人、イドリッサ・ゲイェが出場停止のため、攻撃陣の後方で使ってきたヴェッラッティをより低めのポジションで使う策を指揮官は考えているようだ。ヴェッラッティは週末のランス戦では60分から出場して、ボールに触るたびにチャンスとなるようなキレキレのパフォーマンスを見せていたから、シティ戦でもキーマンとなるだろう。同じくランス戦の後半に起用したアンデル・エレーラには、マンチェスター・ユナイテッド時代のダービー魂を呼び起こしてもらうつもりかもしれない。
セカンドレグでは、ふたたびゾーンに入ったPSGとペップ率いるシティの頂上対決を見たいところだが、シティは早い時間帯に得点して、その前にカタをつけようと目論んでいるだろう。
ラウンド16と準々決勝では、ファーストレグで得たアドバンテージを2戦目で失わないことを実現し、16-17シーズンのバルセロナ戦(4-0 、1-6)と、18-19シーズンのマンチェスター・ユナイテッド戦(2-0、1-3)の黒歴史を払拭できた今季のPSGが、次に挑むのは劣勢から逆転するという新課題だ。
カメレオンチームはこの試合、どんな色を見せるだろうか。




