プレミアリーグのストライカーたちが、これほどゴールを挙げられていないシーズンは珍しい。過去3シーズンの得点王は22点か23点を記録して栄誉に輝き、さらに10シーズン前までさかのぼれば、得点王は最少でも25点を挙げており、30点を超えた得点王も3人もいる。
だが2021-22シーズン、ゴール数は急下降している。トップのモハメド・サラーは20ゴールを奪っているが、それ以降はサディオ・マネ、ディオゴ・ジョタ、クリスティアーノ・ロナウドの12ゴールがやっと。サラー以外が20ゴールにたどり着けないであろうことはもちろん、15ゴールに何人が到達できるかという状態になっている。これは現代サッカーにおいて前代未聞の事態である。
驚くべきことに、これはゴール数全体が減っていることを意味しない。実際、プレミアリーグ全体の1試合あたりの得点数は2.77(※3/4時点)で、過去10年の平均である2.70をわずかながら上回っている。
■戦術家たちの台頭
(C)Getty Images結論から言うと、この傾向は戦術が変わったせいだと言えるかもしれない。現代サッカーにおけるストライカーの役割が広がったことや、プレミアリーグの順位表のトップを争うチームのプレースタイルが変わったことが一因に挙げられる。
得点を取るべきFWに多くの役割をこなすことが期待されるようになった。ユルゲン・クロップ監督率いるリヴァプールは、ロベルト・フィルミーノをセンターフォワードで先発させることに徹しており、これはプレミアリーグの戦術のインテリジェンスが進化したことを示す一例だ。
2016年以降、個人の能力よりも高度に組織化された攻撃スタイルを好む優れた戦術家たちが台頭し(クロップ監督の他にも、トッテナムのアントニオ・コンテ監督やマンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督など)、プレミアリーグにシステム化されたサッカーが持ちこまれた。これにより、得点する選手の顔ぶれが広がり、ゴールを決めることに専念する選手が減った。組織や攻撃パターンの確立が優先され、選手にはよりマルチなスキルが求められるようになった。
だが、このように考えることは、得点に関するデータを少し深読みしすぎかもしれない。結局のところ、「ビッグ6」と呼ばれるチーム以外では、ストライカーの得点数が過去数年間で目立って減少したというわけではない。
■なぜストライカーのゴールが減少した?
Getty Images今シーズンの得点の少なさには、いくつもの個別の理由が積み重なったことが考えられる。そもそも、この数年は新型コロナウイルスのパンデミックがとんでもない影響をもたらしてきたし、単純にプレミアリーグの優秀なストライカーたちが負傷に見舞われたこともある。レスター・シティのジェイミー・ヴァーディ(12試合欠場)、エヴァートンのドミニク・カルヴァート=ルーウィン(17)、リーズ・ユナイテッドのパトリック・バンフォード(20)などが、シーズン早々に戦線離脱を余儀なくされていた。
マンチェスター・Cは今シーズン終了までには90得点を奪う勢いだが、個人で二桁得点しているのはリヤド・マフレズとラヒーム・スターリングだけで、なぜグアルディオラ監督がトッテナムのハリー・ケインを欲しがったのかがわかるというものだ。マンチェスター・Cにはアタッキングサードでのもたつき感があり、忍者のような動きのできる選手が喉から手が出るほど欲しいはずである。ここ3か月で1得点しかしていない試合が5試合もあるのだ。
チェルシーにおけるロメル・ルカクの起用の難しさには説明がつく。ルカクのパフォーマンスはかなりひどく、いまだにトーマス・トゥヘル監督のシステムに適応できていないようだ。インテルにいた頃はラウタロ・マルティネスと2トップを組んで、最高のプレーをしていたというのに。
チェルシーとしてはつなぎのところで素早いプレーを望んでいるのだが、必ずしもルカクにはフィットしないし、ターゲットとしての役割が増えることもない。背番号9にゴールを背にしてプレーすることを期待しているのだ。さらにケガもあって、事態はルカクに対して好転していない(9試合欠場)。監督がウイングバックとしてファーストチョイスする選手たちも、もっと頻繁にチームの中心たるルカクを助ける動きをすべきだが、うまくいっていない。
チェルシーにはルカク以外に信頼できるストライカーがいない。カイ・ハヴァーツは短い距離を走って得点機を生み出すことのほうを好み、ティモ・ヴェルナーはフィニッシュが非常に下手である。だから8得点のメイソン・マウントがチームの得点王でいられるのだ。
Getty Imagesマンチェスター・ユナイテッドには創造性の問題があり、1試合平均1.63得点しかしていない。過去5年間のチームワースト記録を更新しそうな勢いだ。この問題の主な原因は、昨年の夏に間違ったストライカーと契約したことにある。クリスティアーノ・ロナウドは、オーレ・グンナー・スールシャールにとってもラルフ・ラングニック監督にとっても、はっきり言ってフィットしない選手であった。
ロナウドはボールのないところでの動きが充分でなく、チームでポゼッションすべきときとそうでないときがわかっていない。現代のプレミアリーグの高強度な環境では働けないのだ。年齢の面でもプレースタイルの面でも、得点ランキングのトップに近づくことは難しいだろう。
さらに、マンチェスター・Uは、攻撃に時間をかけすぎて、素早い動きのできる前線の選手たちを活用できていない。ピッチ全体のバランスが悪すぎ、深く引いて守る相手にイラつくばかりだ。チャンスを生かすこともできていない。
アーセナルは1月にピエール=エメリク・オーバメヤンを失ったが、オーバメヤンもすでに悲惨なシーズンとなっている。問題は、みんなで得点を分かち合おうとする賢い戦術を選択しているからというよりは、優秀なストライカーが欠如しているからであることがはっきりしている。
Gettyヨーロッパ全体を見渡せば、サラー、キリアン・エンバペ、ハーランド、カリム・ベンゼマ、ロベルト・レヴァンドフスキ、ドゥシャン・ヴラホヴィッチといった、世界最高峰のストライカーたちが、世界最高のリーグと言われるプレミアリーグにほとんどいないことは、奇妙な偶然である。
この夏、ビッグクラブは再びこの問題を解決しようとするだろう。今シーズンのゴールデンブーツ争いにおける特異性は、戦術が広がったことが理由ではない。来年、マンチェスター・Cやアーセナル、マンチェスター・Uが、こぞってエリート・ストライカーをチームに加入させようと奮闘した後には、いつものレベルに戻っていることだろう。
