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混沌からの脱却:ペップvsトゥヘルの頭脳戦はポスト・パンデミック時代の象徴か

間違いなく、ジョゼップ・グアルディオラとトーマス・トゥヘルの戦いはイングランドフットボール界の新たなライバルストーリーになるはずだ。プレミアリーグにおいて“ポスト・パンデミック時代”を象徴するバトルになるだろう。

マンチェスター・シティとチェルシーは一般に“金満クラブ”と称されるが、街同士の対立やピザの投げ合いなどは起こらない。より戦術面にフォーカスした試合になるだろう。その中で注目すべきが2人の指揮官だ。

グアルディオラvsトゥヘルは様々な観点から、グアルディオラvsユルゲン・クロップに次ぐライバル関係になるだろう。単にドイツサッカーとリンクしているからというわけではなく、戦術の細部にまで非常に細かいこだわりを見せる共通点があるからだ。セットプレーの際に選手をチェスのように配置しているのは最たる例だろう。

一方で、ペップとクロップの戦術面のバトルとは異なる様相も見せる。グアルディオラとトゥヘルの戦いは、パンデミックに対応したヨーロッパのビッグクラブが作る、冷静で慎重な戦線が反映されたものになっているのだ。

現在はコロナ禍。込み入ったスケジュールと、感情が分からない無観客のスタジアムに各クラブは襲われている。その結果、クラブは変化を余儀なくされ、それを示す兆候が見え始めている。

■高次元の戦術バトル

Pep Guardiola Thomas Tuchel Man City ChelseaGetty Images

チャンピオンズリーグ決勝はプレミアリーグの新境地を開拓する幕開けの夜となるだろう。これまで我々が見てきたものはまだ序章の段階だが、8日の一戦では、両者の急激に燃え上がるライバル関係を象徴するような、洗練された戦術と進化の両方が端的に表現されていた。

まずグアルディオラは誰も見たことのない新たな布陣を試した。非常に不規則な3-1-4-2システムを採用したことは、トゥヘルを戦術家のライバルとして認めたことを物語る。

ピッチ上での効果はすぐに表れ始めた。2人のストライカーがチェルシー守備陣を撹乱すると、3バックの裏を破り、先制点を奪った。続いてPKも獲得したものの、これはセルヒオ・アグエロが失敗。グアルディオラの最初のゲームプランとは、ハーフタイムまでに試合を終わらせることだったのだ。

だが、後半に試合を掌握したのはトゥヘルだった。

シティFWたちが壁となり、チェルシーはビルドアップを阻害されていた。それにすぐに気が付いたトゥヘルはクリスチャン・プリシッチに低い位置まで降りてくるよう指示し、ボールを受けに来させた。さらに、ウイングバックにも積極的な指示を送ると、流れは一気にチェルシーへ。リース・ジェームズは矢のような走りを見せ、クイック・ワンツーを狙い、ドリブルも試みた。これによってシティは後退を強いられていく。

互いに交代策で流れを引き寄せようとしたが、先に事態に対応したのはトゥヘル。カラム・ハドソン=オドイをベンチから呼び出し、ジェームスと共にメンディを攻略させた。最終的に、ハドソン=オドイがマルコス・アロンソの決勝ゴールの起点になったのも当然の出来事だった。

■流行のシフト

Guardiola Premier League trophy Manchester CityGetty

一つひとつのプレーを戦術的に分析していくことで、この試合での戦術同士のぶつかり合いを理解できる。2人の戦術家が知的な戦いを繰り広げる――これこそがプレミアリーグの次なる大きなライバル関係になるはずだ。

ただ、魅力的で上質な試合であった一方で、ここ数年リヴァプールとシティの対戦で見られたような、燃え上がるような情熱を体現した試合にはならなかったのも確かだ。

その代わり、緊張と対立関係、ディフェンスラインのリスク回避の精神やプレッシングの強度も、“パンデミック・フットボール”を反映したものであった。

実際、今後のトレンドとなる兆候が数多く見られた。おそらく、ヨーロッパのフットボールはここ5年間流行したゲーゲンプレッシングの波から戻ってくるのではないだろうか。今シーズンのプレミアリーグでは確かにそのサインを目にしていたのだ。シティは今シーズン、息の詰まるようなポゼッションを展開し、パンデミック・フットボールを支配してタイトルを獲得したのだから。

Zanetti Conte Oriali celebrating Inter ScudettoGetty Images

他のリーグでも、例えばアントニオ・コンテの指揮下でインテルがタイトルを獲得したことで、イタリアの戦術がリアクションサッカーから最新の潮流に乗ることになるかもしれない。ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーがラ・リーガを制し、スペインでも同じことが起こりうる。

その一方で、財政的にバランスを欠いた状態が拡大しているため、ビッグクラブはチャンピオンズリーグの後半戦で上手く行かなくなっており、より慎重な体制を強いられている。例えば、パリ・サンジェルマンやレアル・マドリーが今シーズンのチャンピオンズリーグでは引いた状態からのカウンターが基本戦術となった。それはハイプレス、ハイラインの流行からのシフトを示唆するものだ。

マンチェスターでチェルシーが勝利したこの試合は、緊張感が高く爆発力のある内容だったが、統制を失うことはなかった。コロナ禍の傾向に合った試合といえるだろう。

この試合から来シーズンか、もしくは今後2年間のプレミアリーグの様子が予想できる。トゥヘルとグアルディオラによる、魅力的でハイレベルな頭脳戦だ。だが、イングランドでグアルディオラが経験してきたようなカオスからは少し脱することになるだろう。

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