■追加招集から初先発で値千金の先制点
ゴールへの執着心が大きな結果を引き寄せた。
追加招集されたU-24日本代表で初先発を飾った“ビースト”の異名を持つ林大地は、試合開始直後からエンジン全開だった。体格差のあるアルゼンチンのディフェンス陣に対し、体を預けながらポストプレー。相手がガツガツこようが重心を低くしてボールをキープし、奪われたらすぐに奪い返しにいく気概を見せる。
また「チームのために走ることを優先して試合に入ろうと思っていた」と振り返るように、前線からのプレッシングを厭わず、球際での争いにも臆することなく立ち向かった。
迎えた前半45分。その時はやってきた。トレーニング時からコミュニケーションをとっていた瀬古歩夢から最終ラインの背後へとボールが出ると、「常に準備をして待っていた」と素早く反応。ファーストタッチで相手の背後をとると、出てきたGKの動きを見ながらワンフェイクを入れてニアサイドに流し込んだ。
ゴールを決めた後には、Jリーグでもお馴染みの姿となっている雄叫びを披露。歓喜の瞬間を味わった。
最初から最後まで全力を出し続けた林は、後半15分に途中交代。ピッチでハードワークを示し続けた男には、大きな拍手が送られた。
■順風満帆ではなかったキャリア
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▲チームメートと得点を喜ぶ林
U-24アルゼンチン代表戦で一躍ヒーローとなった林だが、これまで決して順風満帆なキャリアを歩んできたわけではなかった。ガンバ大阪ジュニアユース時代は、史上初となるU-15年代全国3冠を達成したチームの中で初瀬亮や市丸瑞希、一個下の堂安律らの影に隠れて輝くことができず。ユースへの昇格が断たれると、履正社、大阪体育大学へと進むことになった。
それでも一歩一歩、着実にキャリアを歩んできた男は昨年、サガン鳥栖に新加入。前年に特別指定で加わった時に「サッカーに対する思いがすごく変わった。さらに強くなったというか、サッカーを仕事にしてお金をもらっているわけなので、より一層、そういった面への想いが強くなった」とサッカーに向き合う姿勢が変わったことで、さらなる進化を遂げた。
プロ1年目から31試合9得点の記録を残して一気に評価を高めると、今季もここまで無敗の鳥栖において前線で存在感を発揮し、6試合に出場して3ゴールをマーク。そして今回、堂安の怪我によって初めてU-24日本代表に選出されたのである。
■ピッチ外では途端に優し気な青年
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▲瀬古(左)、三笘(中)と会話する林(右)
それにしても、ピッチ内とピッチ外の印象がこれほど違う選手も珍しい。ピッチに立てば、野性味あふれるハードワークにゴリゴリとしたドリブル、貪欲にゴールへと向かう姿勢を発揮。狙った獲物は逃さないとばかりにボールに執着し、倒れてでも追いすがる姿は、アルゼンチン戦でも何度も見られた。
Jリーグの舞台でも同様のパフォーマンスを披露。ゴールを決めた後の咆哮を含めて、その姿からサポーターには“ビースト”と親しまれている。
しかし、ピッチを離れれば想像以上に大人しく静かな印象を受ける。取材時もピッチ上の鋭い眼光はなく、どちらかと言うと優しい青年のような雰囲気さえ感じさせる。そのオンとオフのスイッチの切り替えこそが、林の魅力であり、野生本能をすべてピッチで発揮することにつながっているのだろう。
五輪世代のライバルとなる上田綺世や前田大然との序列をひっくり返していくには、Jリーグの舞台でさらに活躍し、次のチャンスを待つしかない。
自身のことを「勝てるなら何でもしたいと思うタイプ。そういった気持ちがプレーだったりに現れている」と表現した林は、Jの舞台に戻っても本能的なプレーを前面に押し出してチームを勝利に導くゴールを狙っていく。
取材・文=林遼平
