日本代表FW南野拓実が、フランス一部リーグ、リーグ・アンのASモナコに入団することが発表された。契約期間は2026年6月までの4年間だ。
名SDの太鼓判で入団
(C)Getty Images先日、モナコのフィリップ・クレマン監督は南野について、「彼は我々のリストの中で非常に高い位置にいた。彼はチームに何かをもたらしてくれる資質を持っていると、ここにいる誰もが確信している」と期待を口にしていたが、その“リスト”作成において、キーパーソンの一人だったのが、スポーティング・ダイレクターのポール・ミッチェルだ。
2020年夏、38歳で現職に就任した彼は、マンチェスター・シティのアカデミーで育成を受けた元プロ選手。怪我がもとで27歳で引退し、リクルーターに転向してからは、マウリシオ・ポチェッティーノ監督の右腕としてサウサンプトンとトッテナムでリクルート部門を統括していた。
2018年にライプツィヒに引き抜かれると、同じレッドブル傘下の他クラブも管轄していたから、当時ザルツブルクにいた南野についても、彼は身近で観察できるポジションにいた。サディオ・マネにプレミアリーグへの道を拓き、パリ・サンジェルマンで燻っていたクリストファー・エンクンクも、彼に引き抜かれたおかげで昨シーズンのブンデスリーガ年間最優秀選手賞に選ばれるまでの選手になった。その慧眼とネットワークは業界トップクラスと言われているやり手がマッチングした御縁であるからには、大いに期待できる。
再建のチームは好状況
(C)Getty Images南野にとって幸運なのは、現在、モナコが非常に良い状態にあるということだ。
モナコは、チャンピオンズリーグ準優勝(2004年)や国内タイトル8回を誇るフランスの強豪であり、2011年、現在のロシア人オーナーが当時リーグ2にいたクラブを救済してからは経済状態も安定。直近では、2016-17シーズン、キリアン・エンバペやラダメル・ファルカオを擁した錚々たるメンバーでリーグ・アンのチャンピオンに輝いた。
ところが、18-19シーズンに4年間指揮をとったレオナルド・ジャルディムを解任すると、クラブOBのティエリ・アンリを後任に迎えるもうまくいかずに3カ月でまたジャルディムを呼び戻すという大混乱。優勝からわずか2年後には、降格一歩手前の17位まで転落してしまった。
しかし、実権を握っていた副会長のバディム・バシリエフが去り、入れ替わりの激しかったスポーツ・ダイレクターもミッチェルに落ち着いた2020-21シーズンから本格的な再建を開始。現メンバーの主力の多くがこのタイミングでリクルートされ、元バイエルン・ミュンヘンのニコ・コヴァチ前監督を指揮官に迎えると、その20-21シーズンには3位と、見事にV字回復を遂げたのだった。
そしてそのコヴァチとも、21-22シーズンの前半戦終了後にスパっと袂を分かった。3位のマルセイユに4点差の7位という成績は首を切るほどではなかったが、フロントが彼の方向性に限界を感じていたこと、さらには主力の何人かとの関係が悪化していたことも要因だったと伝えられている。
そこでバトンを渡されたのが、現監督のフィリップ・クレマン。ベルギーのクラブ・ブルージュで攻撃的なサッカーを展開していた彼が着任してから約2カ月後の29節から、モナコは怒涛の9連勝。最終節もドローでしのぎ、一挙3位まで順位を上げるという胸のすくような快進撃をやってのけた。
その余韻も冷めやらないチームは、クレマン監督のもと一体感が育まれ、自信と活力にあふれた絶好の状態にある。
クレマン監督が好むのは、常にスペースを作り出し、人数をかけて攻撃するオフェンシブなプレースタイル。自分の求めるシステムに選手をあてはめるのではなく、それぞれの選手が実力をもっとも発揮できるシステムを模索することを信条とし、「局面に応じて、試合の中でも臨機応変に戦術を変えられる」、というのが、彼が求めるチームの形だ。着任後の初戦では、通常は左サイドバックのチャオ・エンリケをいきなり「10番」で起用してあっと言わせた。
システムは、昨シーズンは2ボランチの[4-2-3-1]が基本形だった。しかし、クラブ・ブルージュ時代には[4-3-3]を好んで使っていたクレマン監督は、パリ・サンジェルマン戦ではこの陣形を採用して3-0という大金星の勝利を導き出している。
昨シーズン、[4-2-3-1]を多用していた理由のひとつは、MFオーレリアン・チュアメニの威力を最大限に生かせる形だったから。その彼は、最大1億ユーロもの移籍金でこの夏レアル・マドリーへと羽ばたいた。
南野に求められること
(C)Getty Imagesよって今シーズンのモナコのチーム構築は、攻守に渡って2人分の仕事をしていたチュアメニの穴をどう埋めるか、という点が大きな課題になっているのだが、そこで南野に求められるのは、おもにチュアメニが「攻撃」で貢献していた部分を司ることだ。
具体的には、攻撃エリアへのブレイクスルー、ショートパスを駆使してのビルドアップやクリエイティブな展開からチームメイトにシュートチャンスを作ること。加えて、自らシュートを決める決定力は、当然ながらチュアメニ以上に期待されている。
チャンピオンズリーグ出場を控える来シーズンは、欧州と国内で[4-3-3]と[4-2-3-1]を併用していくことも考えられるが、いずれの場合も、南野とポジションを競うことになるのは、まずは左利きのドイツ人FWケヴィン・フォラント。彼は[4-2-3-1]ではトップ下を務め、昨季はリーグ・アンで9得点11アシストと結果を出している。
続いて、主に左ウイングでプレーしているロシア代表の攻撃的MFアレクサンドル・ゴロビン。18年のワールドカップ後に入団した彼は、大会での活躍ぶりから期待されたほどのパフォーマンスは発揮できていないものの、得意のプレースキックは強力な武器になっている。
そして、今年1月に加入したブラジル人右サイドバックのヴァンデウソン。すでに2得点と得点力もある彼は、時々右ウイングで起用されていて、来季はより出番が増えそうだ。
攻撃の絶対的なリーダーは、トップを務めるフランス代表FWウィサム・ベン・イェデル。彼はボックス内で仕事をするフィニッシャーで、高い決定力を誇る。中盤のユスフ・フォファナと連携をとりつつ彼に極上のパスをお膳立てすることも、南野に求められる重要なミッションだ。
もう一つ、南野にはCLでの経験値も期待されていることだろう。
21-22シーズンはプレーオフでシャフタール・ドネツクに敗れて本戦出場を逃し、ヨーロッパリーグはグループ首位で決勝トーナメントに勝ち抜けたが、ブラガに敗れてラウンド16で敗退した。セスク・ファブレガスも退団して若手が中心のチームとなったいま、出場機会は多くなかったとはいえ、リヴァプールで決勝に進出した経験をもつ選手の存在は、チームにとって貴重だ。
新たな船出
(C)Getty ImagesASモナコの素晴らしい練習場は、モンテカルロの美しいハーバーを見下ろす高台にある。一歩敷地の外に出れば、息を飲むような絶景が眼下に広がる。そして、建物の屋上にある一風変わった本拠地のスタッド・ルイⅡは、満席になることは少ないが、古参の地元ファンも多くて雰囲気も良い。ニースやマルセイユとの地中海対決は、近隣から多数アウェーサポーターも押し寄せて、ふだんは瀟洒なモナコの街が熱気に包まれる。
国際色の豊かな街を象徴するような多国籍軍に加わった日本人プレーヤーを、サポーターもきっと歓迎することだろう。
チームは7月4日から、ポルトガル南部のファロでプレシーズンキャンプを行う。南野にとっては、チームメイトとの関係作りに励む格好の機会だ。


