サッカーにおいて守備的に引いて守るチームをいかにして崩すかということは、いつの時代も大きな問題になってきた。そして、その課題と毎シーズン向き合っているのがジョゼップ・グアルディオラ監督によるマンチェスター・シティだ。
グアルディオラが監督になってからと言うもの、ダメージを最小限に抑えようとエティハド・スタジアムにやってくるチームが大半だ。シティはポゼッションで支配することができ、ほとんどずっとボールをアタッキングサードで動かすことができる。だが、8人、9人、時には10人の守備者と対峙せねばならず、これを突破する方法を探らなくてはいけないのだ。
6年に渡るグアルディオラ政権において、初期の数年はバルセロナやバイエルンでも採用したようなサイドアタッカーの突破力を最大限に生かした攻撃パターンを用いていた。通常はラヒーム・スターリングかリロイ・サネのどちらかの俊敏なウインガーが関与しており、バックラインの背後を破ってゴールライン近くまで侵入すると、ボールを逆サイドやセルヒオ・アグエロに送ってゴールを陥れる。
絶え間なく練習を繰り返し、シティは相手をチェスの駒のように動かしながら適切な隙を探しているようであった。そしてケヴィン・デ・ブライネやダビド・シルバは、キラーパスを出すタイミングを熟知していた。
最高の状態で噛み合えば事実上止めるのは不可能。シティはプレミアリーグで4年連続総得点1位となっており、そのうち2年は100を超える得点を奪っている。
だが、アグエロが昨シーズン終了後に去ってからというもの、新たなストライカーを迎えず、グアルディオラは別のプランをもって対処せねばならなくなった。上記のような、トレードマークとなった形のゴールは今でも決めてはいるが、違うスタイルの選手が異なる選択肢を選ぶようになり、その数は少なくなっている。では、2021-22シーズンのマンチェスター・Cはどのような攻撃パターンを備えているのだろうか。
シティの基本陣形は4-3-3で、2人の8番の前にストライカーが置かれる。もっとも、ポジションを流動的に変えることはあり、それは過去も昔も変わらない。
近年は、2人の偽9番を配置する4-2-4の形を取っている。この変更によってポジションはより流動的に、むしろ固定するのが難しくなったと言ったほうがいいかもしれない。ベルナルド・シウバ、デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアン、フィル・フォーデンのような偽9番としてプレーする選手は、ある時は最前線の選手となるが、次の瞬間には守備的MFのロドリの横でボールを拾っている。
一方でウインガーは高く、ワイドなポジションでプレーする。そうすることで、中央でコンパクトに収めたい相手チームの陣形を広げることができる。
遅い選手というわけではないが、ジャック・グリーリッシュ、リヤド・マフレズ、フォーデン、スターリングといったウインガーはスピードよりもドリブルに重点を置いている。彼らは孤立しても相手を圧倒することができ、ジョアン・カンセロやカイル・ウォーカーの存在も相手にとってさらなる脅威となるのだ。
Getty Images中でも、今季のシティにおいて攻撃役としてのカンセロを見逃すことはできない。このポルトガル人DFは今シーズン6アシストを記録。とりわけマンチェスター・ダービーでは、シティの新たな攻撃を象徴するような2得点に関与した。
1点目はクロスをエリック・バイリーが自身のゴールに流し込んでしまいオウンゴールとなったが、2点目はシティの新しい攻撃スタイルを示すものだった。
ハーフタイム直前、ユナイテッドは1点のビハインドで乗り切ろうと必死になっており、シティが彼らの前でボールを動かす中、8人のディフェンダーとゴールキーパーがボックス周辺に位置していた。
カンセロはフリーで前線に動くと、ベルナルドがすぐにピッチを横切るようにボールを流し、攻撃の方向を変えた。ガブリエウ・ジェズスが左ウイングに攻撃できる選択肢を与えると、カンセロはカットインしカーブボールを前線に供給。走り続けていたベルナルドがファーサイドで足を伸ばして合わせた。
Getty/GOALハリー・マグワイアとルーク・ショーのユナイテッドDF陣が、パスカットできなかったことについては非があるが、ボールの向かう方向を完璧に予測したベルナルドが一枚上回っていた。
代表ウィーク明けの一戦はどんなビッグクラブにとっても難しくなるものだが、11月に行われたエヴァートン戦で違いを作ったのもカンセロだった。
44分にカンセロが相手陣内でこぼれ球を拾う。今度は左ウイングにポジションをとったベルナルドや、フォーデンにショートパスを供給するという選択肢もあった。だが、カンセロはスターリングのダイナミックなランニングを見逃さなかった。
GOALカンセロのアウトサイドから放たれたパスはまさに絶品。完璧にDFの裏に抜け、ジョーダン・ピックフォードの守備範囲から遠く離れたところに放たれたボールはスターリングしか触れることができなかった。スターリングの見事なダイレクトでのシュートもカンセロのアシストを華々しいものとした。
その3日後、チャンピオンズリーグでパリ・サンジェルマンはエティハドで驚くほどディフェンシブな試合を見せた。リオネル・メッシ、キリアン・エンバペ、ネイマールの3トップに攻撃を任せ、守備に多くの人員を割いていた。特にリードを奪ってからは顕著だった。
その後、ホームのシティが突破口を切り開く。右ウイングのスターリングとウォーカーが起点となり、シティはロドリ、ルベン・ディアス、カンセロを経由してボールを鋭くサイドにずらすと、ロドリに戻した。
ウォーカーが右サイドにポジションを取るとPSGは全体にやや内側に固まる。これによってバックラインに沿ってスプリントするチャンスがウォーカーに生まれ、ロドリがチップキックで供給したパスに走り込んだ。
GOALボールが来たときには少しワイドに位置していたウォーカーは、ダイレクトでクロスを供給。先に触ったガブリエウ・ジェズスの得点だったかもしれないが、最後はスターリングがボールを突いて逆サイドのポスト際に押し込んだ。
こうしたケースはよく計画されたものだったが、陣形のオプションと選手のインテリジェンスによってもたらされたものであり、そして練習からハードワークをした結果でもある。
カンセロ、デ・ブライネ、ロドリ、ギュンドアンは走ってくる選手の位置やタイミングを図るのが上手く、パスを出すタイミングを決して誤らない。グアルディオラにしてもストライカー不在を嘆くことはしない。
「ガブリエウはクロスが入った時そこにいたし、ラズ(スターリング)もボックス内でゴールを決めた(※PSG戦)。彼らは本当に必要なときにそこにいることがある。選手のクオリティによるね。ただ、ベルナルドやコール(パルマー)のような典型的中盤タイプの選手がプレーすると安心感があるというのは否定できないね」
グアルディオラが選手の素晴らしさを称えるのは正しいことだが、才能を引き出す方法を知っている戦術の名手がいるからこそ、それが役に立つというものだ。


