2025年も残りわずか。今年もサッカー界は様々なトピックスが話題を集めたが、とりわけ今ヨーロッパで注目されているのが「リーグ間格差」の問題である。
今季のチャンピオンズリーグ・リーグフェーズを振り返ると、プレミアリーグ勢とその他のリーグの差が浮き彫りに。6試合を終えた段階で、首位を走るアーセナルを筆頭にイングランドの参加6クラブはすべてプレーオフ出場圏内の13位以内。また、ラ・リーガ勢との計10試合で9勝(1敗)と、数年前に覇権を争っていたリーグに大きく勝ち越している。
そんな現状について、スペインで唯一無二の存在感を放つフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』のルジェー・シュリアク氏は大きな危機感を持っているようだ。ラ・リーガが置かれる「危機的な状況」について、カタルーニャ出身記者の“嘆き節”をたっぷりとお届けする。
文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)
翻訳=江間慎一郎
■夢の8月
8月こそフットボールファンにとって完璧な月だ。大会は始まっておらず、どんなシーズンになるかは白紙のまま。そして一度ボールが転がり始めれば……ご存知の通り、すべて台無しになり得る。だからこそ、8月は素晴らしい。各クラブはゼロからスタートを切り、サポーターの夢、希望、期待はまだ無傷なのだから。
しかし、今年の夏は奇妙だった。
その感覚は以前から覚えていたものではあったが、2025年は強烈にそれを感じることになった。リーガは夏を楽しめず、英気を養えず、ポケットのなけなしの金をはたいてシーズンを迎えている。いくつかのクラブは大切な選手に別れを告げ、心が真っ二つに割れている……そう、夏の別れは、痛みが2倍になるものなのだ。
その一方でプレミアリーグはというと、プライドを漲らせ、金を詰めたアタッシュケースを両手に持ったまま8月を終えている。欧州全土を見渡しても、自分たちよりも華やかで裕福なリーグ・クラブが存在しないことを自認しながら……。彼らは夏を満喫し、何不自由のない、まったく豪華なプレシーズンを過ごしたのだった。
その中でも昨季王者リヴァプールは、サン=トロペでのクルージングで休暇をスタートさせ、マイアミの高級ホテルで締めくくるような、まさに夢の夏を実現している。レッズはどんな額でも記せる小切手帳を広げて、ウーゴ・エキティケ、フロリアン・ヴィルツを2億2000万ユーロで獲得。さらに市場の閉鎖直前には、“ちょっとした贅沢”として1億4500万ユーロを支払い、アレクサンデル・イサクも手に入れた。彼らは今夏の移籍市場で最も高価な補強を、ポン、ポン、ポンと成立させていったのだ。
■超えられない“壁”
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フットボールは予測が不可能だからこそ、私たちの心をつかんで離さない。最高のチーム、最も金満なチームがいつだって勝つわけではないのがこのスポーツの本質であり、魅力である……とはいえ現在は、もはや無視できないような現象が生じている。各国リーグの威信がそれぞれの歴史と参加クラブのポテンシャルに基づいているとして、プレミアが資金力と将来性でリーガを引き離し続けるならば、両リーグの間には超えられない“壁”が立ち上がるのかもしれない。
実際、今季のチャンピオンズリーグは、この理論を裏付けるようなものになりつつある。リーグフェーズ第6節終了時点で、リーガ勢はプレミア勢と合計10回対戦したが、バルセロナがニューカッスルに2-1で勝利した以外、すべての試合を落としているのだ。
この屈辱的な結果から、一体何を読み取れるのだろうか? 先述の通り、プレミアの資金力がリーガを圧倒的に上回っているのは、疑いようもない事実である。この夏、プレミアの各クラブは移籍金として総額36億ユーロを投じて市場記録を塗り替えたが、片やリーガの投じた額は7億ユーロにも届かなかった。移籍金を多く支払ったトップ10のクラブも、レヴァークーゼンを除けば、すべてがプレミア勢である。リーガ勢はアトレティコ・デ・マドリーが1億7600万ユーロ、レアル・マドリーが1億6700万ユーロを投じたものの、それはプレミア基準で言えば“真の大型補強”のレベルではなかったということだ。プレミア勢は今季6チームがチャンピオンズに参加しているが、同大会に参加していない3チーム(マンチェスター・ユナイテッド、ノッティンガム・フォレスト、サンダーランド)も、アトレティコ&マドリーを上回って先のトップ10にランクインしているのだから。
問題はそれだけにとどまらない。トップ10に入っていなかったクリスタル・パレスでさえ、ビジャレアル、ヘタフェから彼らの看板選手であるジェレミ・ピノ、クリスタントゥス・ウチェをいとも簡単に引き抜いたのだ……現実はあまりに厳しい。リーガのクラブは補強資金がないだけでなく、選手たちを引き留めることすら難しくなっている。大事な選手を繋ぎ止められないのは、まさに悲劇だ。昨季チャンピオンズのベスト16に進出したレアル・ソシエダに目を向ければ、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディと2年連続でスペイン代表クラスを手放し、現在は降格圏の近くに位置するなど低迷。別れを告げた2選手はアーセナルの絶対的主力として活躍し、落ちぶれていく古巣と大きなコントラストを描いている。
■圧倒的な収入差
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プレミアとリーガの資金力の差を理解するには、いくつかの要点を押さえなければならない。まず挙げられるのは、もちろんテレビ放映権収入である。プレミアの収入額はスペインをはるかに凌いでおり、なおかつ、分配はより公平だ。イングランドでは1部リーグに属しているだけで、多額の収入に恵まれることになる。
プレミアの昨季の放映権総収入は74億ユーロ。優勝したリヴァプールは2億400万ユーロを獲得し、最も収入が少なかったイプスウィッチ・タウンでさえ1億2500万ユーロを手にしている。片やスペインの放映権総収入は20億ユーロで、過去5シーズンのスポーツ面の成績などで決められる分配額にも大きな偏りがある。昨季王者バルセロナの収入が1億4500万ユーロ、2位レアル・マドリーが1億4600万ユーロだったのに対して、2部降格のレガネスはたった3900万ユーロだった。ビジネスがしやすい英語が母国語で、試合開催時間含めて大会を見事にパッケージングしているプレミアに比べ、リーガは放映権収入が少ないばかりか、格差も存在しているために競争力も乏しい。
ハビエル・テバスが会長を務めるリーガにおいて、バルセロナとレアル・マドリーは依然として最大の“売り”であり続けている。プレミアにスペイン2強ほどの人気を持つクラブは存在しない。だが彼らの存在は、リーガという大会の健全性を保証するものではないのだ。加えてリーガには、UEFAのファイナンシャル・フェアプレーよりも締め付けが厳しいサラリーキャップ制度が存在している。トップチームの予算(選手たちの年俸+移籍金の減価償却費)をクラブ全体予算の70%以下に制限し、借金を許さないこの制度によって、各クラブは資産を売却したり、ときには選手を無料で放出することすら余儀なくされている。
過去にはスペインらしい放漫経営が祟って、多くのクラブが倒産法を適用したリーガで、テバスは極端から極端へと走って厳格なサラリーキャップを採用した。しかしその締め付けは、ネガティブの結果をもたらしつつある。サラリーキャップを超過すれば新たな選手登録が認められなくなるため、各クラブは市場閉鎖までギリギリのやり繰りを強いられている。リオネル・メッシ、ナビル・フェキル、ユセフ・エン=ネシリの例があれば事足りると思うが、各クラブのサポーターはトラウマになるような選手放出を経験してきた。
商業面において、リーガはプレミアを完全に下回る。そのためにテバスは臨時収入を得ようと、アメリカでの試合開催に執着して失敗したが、プレミアではそうした手段を模索する必要すらない。それどころか彼らは今季、過密日程に苦しむ選手たちの休養を優先すべく、ボクシング・デーの試合開催を取り止める余裕さえ見せたのだ。加えて、イングランド人サポーターの忠誠心の高さは、プレミアの興行収入を保証している。昨季のプレミアは1試合平均4万人の観客動員を記録したが、リーガは2万8000人にとどまった。
■それでも、金がすべてではない
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リーガとプレミアの差は開くばかりだ。だがしかし、この不均衡にかかわらず、今季チャンピオンズでのプレミア勢の快進撃にもかかわらず、スペインのクラブはまだ「隠し玉」を持っている。一部のクラブは、タイトルが決まる春の時期を思い描いて、獲物を狙うチーターのように舌なめずりしているのだ。何となれば、今世紀に入ってからのリーガ勢とプレミア勢の決勝での対戦成績は、前者の方が明らかに優勢なのだから。
例えばバルサとレアル・マドリーは、チャンピオンズ決勝でプレミアのチームをことごとくなぎ倒した。バルセロナはアーセナル、マンチェスター・ユナイテッドを下して、マドリーはリヴァプールを2回破っている。UEFAカップ/ヨーロッパリーグでも、2001年にリヴァプールがアラベスに勝利した以外では、リーガ勢が全勝。セビージャがミドルズブラ&リヴァプール、アトレティコがフラム、ビジャレアルがマンチェスター・ユナイテッドを葬り、優勝を決めている。
タイトル獲得数でも、プレミアは依然として欧州での覇権を確立するには至っていない。過去10年間のチャンピオンズ優勝チームのうち、プレミア勢で優勝したのはわずか3チーム(チェルシー、リヴァプール、マンチェスター・シティ)のみ。ヨーロッパリーグ(マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、そしてもう一度ユナイテッド)もまったく同じバランスだ。とはいえ、優勝チームの顔ぶれには驚かされる。彼らは10年間で5つのチームがトロフィーを掲げているのだから。
欧州カップ戦における優勝チームの多さは、プレミアの現状を忠実に反映しているとも言える。プレミアは毎シーズンにわたり優勝候補が入れ替わり、タイトル獲得の要求水準は高まり続けている。それこそがリーガとの決定的な違いだ。スペインにはもう、“中流階級”のクラブはほとんど存在せず、大多数のクラブが小粒な選手補強で妥協せざるを得ない。真のクラック(名手)を獲得することは、どんどんと難しくなっている。
もちろん、例外は常に存在する。ここ1年半の間、リーガで最も活躍している選手の2人は、皮肉なことにプレミアで構想外とされた選手たちだ。一体、どちらのリーグが優れているか、マーカス・ラッシュフォードとアントニーに聞いてみるといい……。
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