■野心的で無謀な賭け
2020年、ボタフォゴはブラジルのフットボール界のエリートへ復活するため、野心的な“賭け”に出た。
不振つづきのリオ・デ・ジャネイロの巨人は、順位表の中位から浮上するべく、本田圭佑とサロモン・カルーという世界的に有名な選手を呼び寄せ、さらに多くのスターとも加入の約束を取り付けたのだ。成績不振が何年も続き、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う財政危機という苦難もありながら、チームは来るべきシーズンに大きな期待を抱いていた――。
しかし、結果的にそうした夢は完全に崩壊した。ボタフォゴはフラメンゴ、インテルナシオナル、パルメイラスといった強豪と優勝を争うのではなく、史上初の降格が決定。今や最低1シーズンはセリエBでの戦いに備えることとなったのだ。希望を抱いて見た夢は、悪夢へと変わった。
6日のスポルチ・レシフェ戦(0-1)を落として2部降格が正式に決定した後、続くグレミオ戦はホームで屈辱の5失点完敗。もはや死に体の彼らは14日のゴイアス戦も0-2と敗れ、セリエA直近18試合で16敗、2020シーズンの累計25敗目を喫した。2試合を残して最下位が確定。クラブ史上最悪のシーズンとなった。
8月にカンピオナート・ブラジレイロ・セリエAが開幕して以来、クラブは5人もの監督を解任するなど混迷を極めた。それぞれの監督が指揮したリーグ戦は7試合にも満たない。低迷するのも当然だ。1月に新会長となったドゥルセシオ・メッロは「はっきりとした上昇の機運なしに、クラブが今の危機的な状況にさらされていることを許すことができない。我々は、断固たる要求をする必要がある」と、活躍できない選手に罰金を科すことをファンへの公開状に綴った。
この名門の崩壊の裏で何が起きたのか。誰がかかわったのか。当然のことながら、クラブの元会長ネルソン・ムファレジェの名前が挙がるだろう。慢性的な危機に陥っていたボタフォゴをメッロに譲った張本人だ。
先のグレミオ戦大敗の翌日、一部ファンがムファレジェとその理事会に対し「無謀な経営を行った」として捜査を開始するよう、リオの検察事務所に正式な嘆願書を提出した。その嘆願書は10,000人以上の署名を集めたが、法的にはほとんど有効でなく、正式なものとはみなされないだろう。だがこれは、12カ月以上に及ぶクラブの怠慢に対するファンの怒りを明確に示すものである。
Getty Images■無残な失敗
「ファンに喜びを与えたい。選手として全力をつくす」。日本代表のレジェンドは入団会見で語った。本田は、ムファレジェが会長だった3年間で契約した46人にも及ぶ獲得リストの1人であり、2020年に契約した25人の中の1人である。
本田、そしてチャンピオンズリーグ優勝経験を持つのカルーの入団は、リオに大旋風を巻き起こした。その他にも、ヤヤ・トゥーレやアリエン・ロッベンといったキャリア晩年を迎えた大スターの獲得にも動いていたという。
しかし結局、新加入選手の中にピッチ上でファンを喜ばせた選手は誰1人いなかった。本田は欠場を繰り返し、18試合で2ゴールを奪っただけ。その後信じ続けたファンを裏切るように、新年早々チームを去った。一方のカルーも大惨事だ。ボタフォゴでの27試合でたった1ゴール。フル出場したのはわずか3試合のみで、直近7試合はたった24分しかプレーしていない。
そしてその間、ピッチの裏ではクラブの経営状態が悪化の一途をたどっていた。1億5000万ドル(約158億円)もの損失が計上され、ブラジルサッカー界で最悪の赤字を背負うクラブの1つにまで落ちぶれた。選手たちの給料は払われていたが、電気や水道料金を払うことすら苦しい状態だった。にもかかわらず、責任者の放蕩は続いた。
典型的なギャンブラー気質のムファレジェは、クラブが出せるはずもない途方もない金額でチームを立て直そうと奔走した。この“賭け”は無残にも失敗に終わり、今やピッチ内外で彼らに未来はないありさまだ。
Getty Images■安定
わずかながら希望はある。ブラジルには過去に同じような前例もあるからだ。3年前にはインテルナシオナルも史上初の降格を味わった。だがそこから1年でのセリエA復帰を果たし、今季は2試合を残してリーグ首位を走っている。悲劇的な飛行機墜落事故の悲しみに暮れたシャペコエンセだって、来季はセリエAに再び帰ってくる。
だがその一方で、逆の例もある。クルゼイロは2019年に初の降格を喫して以降は繰り返し危機に見舞われ、移籍規約違反でFIFAから勝ち点6をはく奪処分を科された。その年はセリエBで11位に終わったあげく、財政の不備による別の2つの移籍禁止措置という重罰を下されることとなった。
楽天家の現会長メッロは「ピンチはチャンスだ。より強いボタフォゴを作るチャンスとなるだろう」と降格確定後に動画配信で語った。「危機にあってこそ再建の最高のチャンス。私はいつもそう思ってきた。サポーターが悲しみ、怒っているのは当然だ。だが、我々はボタフォゴを再び強く、勝利に値するチームに再建する」
そう楽観的になる少しの要素はある。パラグアイ代表のGKロベルト・フェルナンデスはセ降格後もチームに残ると約束しているし、アカデミー出身の若手カヌーとカイオ・フェルナンデスのパフォーマンスは、ムファレジェが契約した選手をはるかに上回るクオリティーと希望を感じさせる。
しかし、ここ12カ月で積もり続けた混乱を晴らすのは簡単な仕事ではない。あまりにも怠惰で悲惨な経営によって完全に崩壊した今、ブラジルフットボール界のエリートへ復帰するという希望をファンが抱けるようになるまでは、途方もない道のりが待っている。それは来年かもしれないし、何十年と先になるかもしれない。少なくとも、ギャンブル気質な経営陣が「安定」を求めるまでは――。
文=ダニエル・エドワーズ/Daniel Edwards
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