■運も引き寄せて東京五輪へ
3月の初招集時(堂安の負傷により追加招集)から、林大地には独特な“雰囲気”を感じていた。決して綺麗なプレーをするわけではない。泥臭く、どんな状況に陥っても貪欲にゴールを目指す姿勢に目を奪われた。
初出場となったU-24アルゼンチン代表戦では球際の争いに臆することなく立ち向かった。パスを受けては重心を低くしたボールキープとポストプレーでつなぎ役としての役割を果たし、ストライカーの嗅覚を発揮して背後への抜け出しからゴールを奪取。Jリーグではお馴染みの雄叫びも披露した。
上田綺世や前田大然とはまた違う、“ビースト”の愛称で呼ばれるその野性味溢れるプレーは、チームにゴールだけでなく勢いをもたらしてくれそうな予感を漂わせていた。
それから4ヶ月。サガン鳥栖での積極果敢なプレーと代表でインパクトを残し続けた結果、東京五輪本大会のメンバーに選出。最初は登録18名に入ることができずバックアップメンバーとしての立ち位置だったが、レギュレーションの変更(登録メンバー22名、試合ごとに18名を選出)により出場可能となるなど運も引き寄せた。
3月の時点で「代表活動に呼ばれたことがなかったので正直、ビックリしている」と話していたことを考えれば、異常な速さでの大出世である。
ただ、本人から言わせれば勝負はここからだ。
「ギリギリのところまでチャンスが来たなという印象です。今回22人になったことで、よりチャンスが広がったと思います。でもベンチに入れるのは18人ですし、試合に出られるのは11人。さらに自分の立ち位置を短い期間にグッと上げていかないといけないと思っています」
■他の選手にはないポストプレー
(C)Getty images迎えた12日のホンジュラス戦。リハビリ中の上田綺世と、脳震盪の回復プログラムの影響でトレーニングへの合流が遅れた前田大然を押さえ、林は先発出場を果たした。
立ち上がりから球際にくらいつき、自分より大きい相手に対しても果敢に競り合ってボールを奪取。前半40分にはペナルティーエリア内で相手を背負いながらのポストプレーを披露し、堂安のゴールをアシストした。
ポジションを争うFWたちにはそれぞれ異なった特徴が備わっているが、その中でも林のポストプレーは他の選手と比べても抜きん出た力がある。アシストした場面以外にも2列目の選手たちと距離感良くボールを動かすシーンが多く見られ、「僕たち2列目を生かしてくれる」と堂安が振り返るように、林自身の特徴を発揮して勝利に貢献したのはポジティブな材料と言っていいだろう。
とはいえ、ストライカーとしての本分である“ゴールを奪う”点においては結果を残せなかった。前半にいくつかチャンスがあったが精度を欠いて決められず。試合後の言葉からも悔しさが伝わってくる。
「やはりFWなので今日はゴールを一番取りたかった。みんなが勇気を出して自分のところまで運んできてくれているので、決める責任があるし、チャンスはあったので、しっかり決めないといけなかった。決め切りたかったなというのが正直な気持ちです」
この経験は次へとつなげる必要がある。ポストプレーを意識し過ぎてゴールへの貪欲な姿勢を失うようでは意味がない。本人が言うように「状況に応じた使い分け」ができるかが重要になってくるはずだ。
怒涛の追い込みでメンバー入りを掴んだ男は、果たして東京五輪の舞台でさらなる進化を遂げることができるのか。FWのラストピースとなった林のパフォーマンスに期待したい。
取材・文=林遼平


