リヴァプールでひとつの時代が終わり、新たな時代が始まった。
かの有名な前線トリオはもう見られない。3人のうち最初にチームを去ったのは、マージーサイドで栄光と栄冠に満ち溢れた6年を過ごしたサディオ・マネであった。
「チームには大いに影響がある」とユルゲン・クロップ監督は認めた。さらに、「サッカー界で最も素晴らしい選手の一人であり、間違いなくレジェンドでありながら、今現在のリヴァプールの象徴である選手」にレッズは別れを告げたのだとも語ったのだった。
マネの代わりを見つけることは、どんなに控えめな言い方をしても、「困難な」ことだろう。リヴァプールはこれまでも優秀な選手を手放してはきたが、2014年にルイス・スアレスを失ってからは、チームの核となる選手が去ることはなかった。
クロップ監督は長きにわたりマネの聡明さ、忍耐力、持続力に頼ることができた。マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーという、あのとてつもない前線トリオに頼っていればよかったのだ。過去5シーズンで338得点を挙げ、直近のシーズンだけでも65得点を記録した3人である。
■ジョタが脚光を浴びるチャンス?
Getty Images今後は、第二の偉大な攻撃陣をリヴァプールで構築できるどうかがクロップ監督の課題である。ここ数年のスタンダードを維持する、またはそれ以上の成果をあげる攻撃陣を作り上げなければならないのだ。
確かに見通しが明るいとは言えない。だが、すでに手は打たれている。マネを失ったことは間違いないが、そのせいでリヴァプールが完全にお手上げになったというわけではない。
アタッカーのオプションとしてすでに何人かの選手が用意されている。1月には迅速な動きでポルトからルイス・ディアスを獲得したし、将来有望な10代のファビオ・カルバーリョの加入も発表された。
クラブ史上最高額の8,500万ポンド(約140億円)でベンフィカから加入したヌニェスも、リヴァプールでのプレシーズンを開始させている。
ディアスとヌニェスは、とりわけ、「マネの代わり」と目される選手たちであるが、セネガル代表のスターが去り、そのためにクロップ監督が攻撃陣の入れ替えを図ることによって最高に得をするのは、レッズのもう一人のストライカー、ディオゴ・ジョタであろう。
クリケット用語を借りて言うならば、ディオゴ・ジョタは、昨シーズンを「ちょっとニック(バットにボールがかすること)しないで」終えた。直近の出場13試合で得点なし、FAカップやチャンピオンズリーグの決勝でも蚊帳の外だった。
Getty Imagesディアスがシーズン途中に加入したことで大きな煽りを受けたのはジョタだった。コロンビア代表のディアスが全力を発揮し、マネが背番号9として再び脚光を浴びたことで、ジョタの影響力はシーズンが終わりに近づくにつれて明らかに衰えていった。
それでも、ジョタは全公式戦で21得点を挙げ、フィルミーノよりも10点多く、マネよりも2点しか少なくなかった。アウェーのマンチェスター・ユナイテッド、エヴァートン、トッテナム、アーセナル(2点)、マンチェスター・シティを相手に得点し、勝負を決するPK戦で3度も成功させているし、リヴァプールの先制点を決めたことは14回にものぼる。
昨季同様、多才な才能をもち、態度がよく、得点感覚が優れているジョタには今季も期待できる。ポスト・マネ時代にアンフィールドで大いなる役割を担うことができるだろう。特に新シーズンのリヴァプールは、4-2-3-1または4-4-2のシステムを多く試すことになりそうなのだから。
■ヌニェスとのコンビネーションに期待
Getty実際、並びを変えるための準備は揃っている。クロップ監督には、サラー、ディアス、ジョタ、ヌニェス、カルバーリョといった、5人のきらびやかな選択肢があり、全員がどちらのサイドでも、あるいは中央でも自由自在にプレーできる。フィルミーノを確実に先発で使う時代は終わったかもしれないが、この献身的で賢明なブラジル代表は、お別れのシーズンに近づいているとしても、背番号9もしくは背番号10として、重要資産以上の価値がある。
リヴァプールにおけるジョタの最高の仕事は、フィルミーノの代わりにセンターフォワードとしてプレーすることであったが、ウルヴスでは、ラウール・ヒメネスの横で第2ストライカーとして素晴らしいプレーをする姿が度々見られていた。レッズでは、天性の才能で左サイドを駆けあがり、ペナルティーエリアへ突進していくヌニェスと、最高のコンビネーションを見せてくれるに違いない。
だが、リヴァプールが急激にプレースタイルを変えると考えるべきではない。
リヴァプールは通常、ボールを支配しつつ、エリアをワイドに使う。サイドバックのトレント・アレクサンダー=アーノルドとアンディー・ロバートソンが鍵を握る選手であることは変わらず、ディフェンスラインを高くキープしながら、ヴィルヒル・ファン・ダイクが司令塔となって、相手のサイドでゲームをコンパクトにコントロールすることができる。
とは言え、リヴァプールには柔軟性もあり、メンバーの選出に関しては、おそらく少し予想しがたいものとなるだろう。サラーがほとんどの試合で先発するのは当然のこととしても、クロップ監督はどのポジションにおいても混ぜ合わせて最適な選手を選ぶことができる。フォーメーションを変えたり、対戦相手や日程に合わせて選手を起用したり、これまでの数年間よりもはるかに多くの試合で、そうしたことができるはずだ。
昨シーズンの様子を見ると、21人の選手が全公式戦で20以上の試合に出場している。リヴァプールはひそかに、必要に応じてあらゆることに貢献できる選手たちを育ててきているのだ。たとえマネがいなくなっても、またはマネよりは劣るがチームの核となる南野拓実やディヴォック・オリギが欠けても、大きなダメージにはならないはずだ。
当然のことながら、その評判や移籍金の額を考えれば、あらゆる目がヌニェスに注がれることになるだろう。ヌニェスが加入してきても、ディアスがこれまで見せて来た輝かしいプレーを続けられるかどうかも注目点のひとつだ。アタッカー兼背番号10のオプションとして評価の高いカルバーリョが加入するため、フィルミーノがレッズでのキャリアを終わらせることを決意する日も近いだろう。
ジョタにとって、リヴァプールで全力を発揮することがどれほど重要か、本人はよくわかっていることだろう。ジョタのことを、リヴァプールのアシスタント・マネージャー、ペピン・リンダースは「プレスの怪物」と言い、クロップ監督は「ワールドクラスのフィニッシャー」と評価している。
昨シーズンのジョタは影が薄かった。だが、すぐにまた明るく輝く星となることが期待されている。マネが去り、ヌニェスがやってきたことは、ジョタにとってプラス材料となるはずだ。


