互いが意識するライバルとの一戦を前に、ブラジル人ストライカーは何を思うのか? 舞台は“クラシコ”――4月11日、明治安田生命J1第9節・味の素スタジアムで第37回多摩川クラシコが開催される。FC東京と川崎フロンターレ、それぞれのチームのエースであるディエゴ・オリヴェイラとレアンドロ・ダミアンが語り合った。(聞き手・翻訳=下薗昌記 構成=吉村美千代/Goal)
■パシエンシア(我慢)の大切さ
多摩川クラシコの話をする前に、二人の過去を少し振り返ろう。ディエゴ・オリヴェイラは2016年柏レイソルに、レアンドロ・ダミアンは2019年川崎フロンターレに加入した。ともに初めて経験する日本でのプレー。多くの外国籍選手が「Jのサッカー」に直面して驚くことがあるというが、彼らはどう適応し、今に至るのか?
ディエゴ・オリヴェイラ(以下ディエゴ)「僕は日本に来る前から、日本代表のサッカーを見たことがあったし、いろいろなブラジル籍選手からJリーグの話を聞いていたんだ。クオリティが高いことは想像していたが、実際にプレーしてあらためて驚いたこともあったね。サッカーのスタイルが違うし、選手がよく走る、それが来日当初のサプライズだったな。ブラジルだと判断した後にプレーする余裕があったけれど、Jリーグは判断と同時にプレーしないといけない。最初はそこに適応しなければいけなかった。
プレーする国が変われば時差もあるし、食事も言語も違う。柏レイソルには当初1年契約で加入したから、できるだけ早くフィットしなればいけないとも思っていた。そこで結果を出せたからこそ、これだけ長く日本にいられるわけだよね」
レアンドロ・ダミアン(以下ダミアン)「日本でプレーするにあたって、たくさんの情報を集めたんだ。ブラジルの友人にも話を聞いたし、かつて川崎Fでプレーしたブラジル籍選手、例えばティンガやフッキ、そして浦和でプレーしたエメルソンにも話を聞いたよ。インターネットで川崎Fのプレーやコンセプトもチェックしていたね。選手の質が高いし、パスを回すスタイルがチキタカで知られていた当時のバルセロナに似ているなって感じたよ」
screen shotブラジルでは「いろいろなクラブを転々とした」(本人談)ディエゴ・オリヴェイラはカタールや韓国でもプレーした。一方で、レアンドロ・ダミアンは元ブラジル代表でもあり、インテルナシオナル等の名門で経験を重ねている。対照的な経歴を持つ二人が選んだ地・日本。ディエゴは、柏加入1年目はコンスタントに出場を積んだものの2年目は先発が減少し、FC東京への期限付き移籍を選択している。また、ダミアンは、川崎F加入1年目はなかなか適応できずに苦しんだ。
ダミアン「日本でプレーするにあたって、どの友人も口にしていたのがパシエンシア(ポルトガル語で我慢)することの大切さだった。『自分にプレーする機会がなかったとしても、チームが優勝するために我慢しなければいけない』とね。川崎Fは質が高い選手が多いから、彼らをリスペクトしなくてはいけない。そうやってしっかりと我慢する時期を過ごしたことで、去年は素晴らしい1年になったし、チームの皆と貴重な経験を積み重ねることができたんだ。僕自身のニホンゴ(日本語)も1年目は全くダメだったけど、今はすっかりとチームに溶け込めたし、プレーする時間も増えたからね。
来日当初はディエゴが話したように、試合中の緩急のメリハリに戸惑ったな。ブラジルだと、ボールを持つスタイルが多いけど、日本ではそういうチームばかりではないからね。もっとも川崎Fに関しては、アグレッシブで常に攻撃を仕掛けて、相手ゴールを脅かそうとするスタイルだ。でも、ブラジルだとずっと攻め続けるっていうサッカーは難しいんだ」
ディエゴ「僕もダミアンと同感だ。それにJリーグのクラブはそれぞれにチームのスタイルと戦術がしっかりと植えつけられている印象がある。FWのプレーに関しても、ブラジル時代と求められることが違って当初は難しさもあったけど、チームが求める役割に適応しないと、ポジションは手にできないからね」
■二人が見るFWとしての共通項と違い
©Kazuki Okamoto/ONELIFEそんな二人はブラジル時代の2015年に一度対戦したことがあるが、二人とも「覚えていない」という。日本での対戦・多摩川クラシコは5回経験しており、対戦成績はFC東京から見て1勝1分3敗。「エース」の座を担う9番が感じるそれぞれのFWとしての共通項と違いはどこにあるのか。
ディエゴ「ダミアンと僕に共通するのはやっぱりゴールを決めることだね。ダミアンはペナルティエリア内でのポジショニングが非常にいいし、常にFWとしているべき場所にいる。FWとして理想の存在だし、それゆえにたくさんゴールを量産しているんだと思うよ」
ダミアン「ディエゴは僕よりもスピードがある。それに、非常に質の高い選手なのに、FC東京が求めるチーム戦術に応じて、守備の戻りもすごく速い。FC東京のスタイルだと常にゴール前に張り付いているプレーはできないだろうし、ディエゴに求められる運動量は非常に多いだろうけど、こなしている。
僕との比較でいうと先にも言ったとおり、よりスピードがあるし、すごく献身的にチームを守備でも助けているところ。僕も君みたいなスピードがあればそうしたいんだけどさ(笑)。そのぶん、僕はゴールやアシストでチームを助けるつもりでいる。僕とディエゴの一番の違いはスピードかな」
■多摩川クラシコ、警戒するのは
©Hiroto Taniyama互いへのリスペクトを語る二人が迎える11日の多摩川クラシコ。現在のリーグ戦成績は、FC東京が4 勝3分1敗の6 位、川崎フロンターレが1試合多く消化した上で、8勝1分の負けなしで首位を走る(4月9日時点)。両エースが警戒する選手、試合のポイントは?
ディエゴ「正直なところ、川崎Fとの試合では1人だけを警戒すべきじゃなくて、11人全員を警戒すべきだね。いや違うな、16人を警戒しないといけないね(笑)。今は交代枠が5人だからね。
川崎Fは近年のJリーグの頂点に立っているチームだし、獲得してきたタイトルは彼ら自身のストロングポイントに由来するものだと思う。素晴らしい選手が揃っており、しかもキッチリと規律が取れている。試合中常に集中が必要になる。そうじゃないと、1点取られた後、2点、3点とゴールラッシュを食らいかねない。個人的に警戒すべき選手はやっぱりレアンドロ・ダミアンだな。ゴールを決めるだけではなく、得点に直結するプレーでアシストもできるからね。それに、あのサイドにいる若手の選手…名前なんだっけ?」
ダミアン「 ミトマ(三笘薫)だろ」
ディエゴ「そうだ、ミトマだ。もう逆サイドに違う若手もいるよな。川崎Fにはいつでも試合を決められる選手が揃っているから難しい試合になることは間違いない」
ダミアン「 僕がFC東京で警戒するのはやっぱりディエゴ・オリヴェイラだな(笑)。前線では常に何かを狙って集中しているし、決定機を逃さないブラジル人ならではの特長も持っているからね。ディエゴを封じるのも簡単じゃないけど、それ以外にも速い永井(謙佑)もいるし、アダイウトンもいる。前線のアタッカーの質とスピードはいかなる対戦相手もてこずるからね」
ディエゴ「ダミアンは友人で、これからもゴールを量産して今の良い調子を保ってほしいと応援しているけど、ただ次の多摩川クラシコで僕らに対してその力は見せないでほしいな(笑)。今季のリーグ戦で行われる多摩川クラシコ2試合ではダミアンがノーゴールで終わって、僕らが勝利することを希望するよ。でも母国から離れて日本でプレーしているブラジル籍の選手は皆応援しているし、それはダミアンに関しても同じことさ」
ダミアン「ディエゴが今、言ってくれたことがすべてだね。サッカー選手としてお手本のような言葉を口にしてくれたよ。ディエゴのようなキャラクターを僕もリスペクトしているし、僕も常に応援してるよ。ただし、僕たち相手には活躍してほしくないけどね(笑)。多摩川クラシコでは僕たち相手に、ディエゴには点を取ってほしくないけど、FC東京でこれから長く活躍してもらいたいね」
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【プロフィール】
■FW 9 ディエゴ・オリヴェイラ
1990年6月22日生まれ30歳、179cm/80kg、ブラジル出身
パラナ・クルーベ→アルミサイマーSC(カタール) →ノロエスチ→水原三星 (韓国) →バイーア→アウダックス・サンパウロ→ボアEC→CAリネンセ→ポンチプレッタ→ノボリゾンチーノ→2016年柏レイソル→2018年FC東京
J1リーグ戦158試合出場58得点(2021年4月9日時点)
■FW 9レアンドロ・ダミアン
1989年7月22日生まれ31歳、188cm/90kg、ブラジル出身
アトレチコ・イビラマ→ドーゼ・デ・オウトゥブロ→CNマルシリオ・ジアス→ CAツバラン→インテルナシオナル→サントス→クルゼイロ→ベティス(スペイン) →フラメンゴ→インテルナシオナル→2019年川崎フロンターレ
J1リーグ戦65試合出場28得点(2021年4月9日時点)
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