6月の2026年ワールドカップ（W杯）アジア2次予選2試合で連勝を飾る中で、3バックを本格導入した日本代表。今回の活動では三笘薫が不在となっていたが、同じ左サイドを主戦場とする中村敬斗との共存について、新布陣の中で可能性が垣間見えた。【取材・文＝河治良幸】
■中村敬斗が左WGで躍動
(C)Kenichi Arai日本代表はシリアに5−0で勝利。ミャンマー代表戦に続いて3-4-2-1で前半を戦い、3-0で迎えた後半は4-2-3-1にシステムチェンジしながら、手堅くゲームを進めた。2試合続けて5得点を奪えたこと、そして今回のようなトライをしながら2次予選の6試合を通じて無失点で終えたことなど、より相手が強くなる最終予選にも繋がる結果となったのは確かだ。
3-4-2-1のシステムで、相手のレベルを差し引いても、多くの選手たちがプラスの評価を得たと考えられる。その筆頭と言えるのが左ウイングバックで2試合連続のスタメン起用に応えた中村敬斗（スタッド・ランス）だ。4-2-3-1や4-3-3では左のサイドハーフ、あるいはウイングとして“森保ジャパン”で8試合6得点（シリア戦後は10試合8得点）を記録してきたが、左ウイングバックでは守備で献身的な姿勢を見せながらミャンマー戦では2得点。シリア戦は前半のみのプレーで、FW上田綺世（フェイエノールト）の先制点をアシストした。
何よりボールを持ったら縦に仕掛ける姿勢が目覚ましく、中村もそうしたプレーの必要性について「アジアカップのあたりちょっと感じてそこは。あとやっぱフランスリーグという個の強いリーグでプレーしてるので。やっぱり絶好の場所に身を置けているので、うまく成長できたかなと思います」と語る。4バックでも引き続き左のサイドアタッカーとして期待できるが、最終予選で3-4-2-1を使う状況があれば、攻撃的な左ウイングバックのファーストチョイスになり得る。
■右で堂安と久保が共存
(C)Kenichi Araiまた、4バックだと従来の左サイドの主力である三笘薫（ブライトン）と二者択一になっていたが、3-4-2-1ならば中村が左ウイングバック、三笘が左シャドーという共存も可能になってくる。それに近いオーガナイズとして、シリア戦で新たな可能性を見出したのが、右サイドの久保建英（レアル・ソシエダ）と堂安律（フライブルク）による右サイドの“逆足コンビ”だ。ミャンマー戦は久保がコンディションに問題を抱えていたことによりベンチ外、一方の堂安は3-4-2-1の右シャドーで躍動し、鎌田大地のシュートが弾かれたこぼれ球に詰める形でチームの2点目を決めた。
シリア戦では復調した久保が右シャドー、堂安は所属クラブのフライブルクでも経験のある右ウイングバックで同時にスタメン起用されると、左の中村とともに高めのポジションを取る堂安が右外で攻撃の起点になり、そこに久保が良い距離感で絡みながら、右サイドから多くのチャンスを作り出した。
インに入ってくる堂安の傾向を久保がよく理解しており、ポジションが重ならないように気を利かせていたのは印象的だ。久保は「彼（堂安）が基本的に、中にカットインしてくるので、僕としてはあまり近づきすぎずに、浮いたポジションで受けてターンしようというのを考えてました。彼が高い位置を取ってるときは、僕がウイングだったらボールが欲しいので、簡単に前を向いてパスというのは意識してました」と語っている。
2試合連続となった堂安のゴールをお膳立てしたのも久保だった。中央からフリーにボールを運んだ久保のパスを受けて、得意の右ワイドから左足を振り抜いた堂安は、そのシーンについて「ビルドアップのところで、確実に（中村）敬斗が、良いフリックから（久保）建英があそこで空くというのは、練習からやっていた」と振り返る。これまでも4-3-3なら右ウイングと右インサイドハーフ、4-2-3-1なら2列目の右サイドハーフとトップ下で共存してきたが、3-4-2-1で二人の特長を相殺することなく生かし合えたことは、ここから先のバリエーションを増やす意味でも大きかった。
■伊東純也の復帰も期待
(C)Getty imagesディフェンシブなポジションではシリア戦で前半3バック、後半4バックというシステムチェンジの中で、冨安健洋（アーセナル）が3バックの右ワイドから4バックの右サイドバックに移り、攻守に安定感のあるプレーを見せた。その一方で町田洋樹（ユニオン・サン＝ジロワーズ）も前半は3バックの左、後半は4バックの左センターバックという形で、ポジションの変化にうまく対応していた。町田によると、後半から左サイドバックに入った伊藤洋輝（シュトゥットガルト）と逆のポジションになることもイメージはしていたという。
3バック中央からディフェンスを統率した板倉滉（ボルシアMG）を含めて、ロングボールを多用してくるシリアに対して、一対一をベースにしっかりと守り切れる3バックの存在感を前半から示した。そして後半は伊藤を加えて、バックラインの4人で力強く相手のロングボールを跳ね返しながら、攻撃面でも右の冨安、左の伊藤などがサイドバックとしての仕事を果たした。
シリア戦は左右のウイングバックがアタッカーの中村と堂安だったことで、4バック変更にあたっては中村が下がり、伊藤が入ることで3-4-2-1から4-2-3-1へのシステムチェンジを可能にしたが、ミャンマー戦の菅原由勢（AZ）のようにウイングバックの一人が本職サイドバックの選手であれば、同じメンバーのまま3バックと4バックの切り替えも可能だ。今回3バックをスムーズに導入できた背景には、ここまで“第二期・森保ジャパン”で、4バックの中でも可変性の高いオーガナイズを構築してきたことがある。
今のところ3-4-2-1と4-2-3-1、あるいは4-3-3で、どれが攻撃的で、どれが守備的かという違いを森保監督は明言しておらず、そこは選手の組み合わせで変わってくるところかもしれない。ただ、久保も左右ウイングバックが高いポジションで張り、中央で1トップの後に2シャドーと2ボランチの4人が構える3-4-2-1が、5バック気味に引いてくる相手を崩すには有効であることを指摘している。
そうした相手との戦いも想定される最終予選で、この2次予選のラスト2試合でのトライが生かされるかもしれない。右の伊東純也（スタッド・ランス）、左の三笘薫という、これまで攻撃をけん引してきた両翼の復帰も期待されるが、3-4-2-1をオプションに組み込んだことで、左は三笘と中村、右は伊東と堂安といった組み合わせが実現する可能性も高そうだ。