ノックアウトステージに残ったチームで唯一、「連敗」で大会を終えることになるのが4位のチームだ。泣いて泣いて終わる。
一方、優勝チーム以外にもノックアウトステージで「勝利」で終わることのできるチームがある。3位のチームだ。泣いて笑って終わることができる。
(C)Getty Imagesどっちがいいかなんて議論するまでもない。ましてや、いまこのチームが戦っているのは五輪である。3位には銅メダルがある。「オリンピアンとして終わるか、メダリストになるか」(森保一監督)。参加することに意義があった大会なのか、メダルを勝ち取った大会になるのかの境目がここにある。
準決勝・スペイン戦。死力を尽くした末の敗北である。「ダメージは非常に大きい」と森保一監督が率直に語ったとおり、心身共に傷だらけ。試合後の取材エリアにも半ば放心状態で出てきた選手たちが何人もいた。中2日の連戦を重ねる中でフィジカルコンディションが落ちているのも明らかだが、それでもすぐに試合はやって来る。
取材ゾーンでは、あえて話を聞いた選手たち全員に「それでも、まだメダリストになるチャンスは残っている」と問いかけた。疲弊し切った試合の直後に無茶なことを聞くやつだと自分でも思っていたが、選手たちからはまだ死んでいない声が返ってきた。
■「勝って終わりたい」
(C)Getty Images「体はボロボロだった」と憔悴した様子で話した堂安律も、その言葉を向けると顔を上げてこう話してくれた。
「プロとしての、選手としての器が試される場だと思う。ここでどういう風に切り替えることができるのか。国民に元気や勇気を与えたいということでやってきて、メダルを獲るチャンスがまだある。自分が試されるときだと思うし、戦う姿を見せたいと思う」
MF田中碧は最後の失点場面での自分のプレーを悔やみ、悔恨の言葉を並べていたが、最後にこの質問をぶつけると、こう返してくれた。
「本当に勝って終わりたい。もう金はないけど、本気でここからメダルを取るために準備しないといけない。最後全員で力を合わせてやれば取れると思う。本当に全員で準備して、最後みんなで、携わってきた人もそうですし、本当にみんなで喜びたい」
GK谷晃生も、マルコ・アセンシオのシュートに屈し、「これが世界で活躍する選手の力なのか」と肩を落としていた自分を鼓舞するように話した。
「リバウンドメンタリティーと反骨心を持って、次は絶対に勝ちたい。俺たちはまだメダリストになるチャンスがある。そこに向けてもう一回切り替えて、最高の準備をして、絶対に次は勝利を掴みたい」
MF相馬勇紀は「まだ整理できていない」と率直に語りつつ、しかしこう続けてくれた。
「この試合で何が足りなかったのか、どうしたら勝てたのかというところをしっかり考えて向き合って、そしてまた、今日の悔しさを、チーム、そして個人の力に変えて戦っていきたい。やれることを全てやって、戦いたい」
そしてショックの色を隠せなかったMF久保建英は、しかし尊敬する先輩たちのためにと、こう口にした。
「せめてものケジメとして勝ちたい。(吉田)麻也さんと(酒井)宏樹くんに銅メダルを渡したい。あの人たちは2回目なので、僕たちより悔しい思いをしている。最後にメダルを渡して、それで帰りたいと思います」
■メダリストを目指しメキシコ戦へ
(C)Getty Images吉田と酒井は2012年のロンドン大会でも準決勝で敗れ、3位決定戦でも敗れて終わるという“連敗”を経験してしまっている。あのときの悔しさを忘れていないのも当然で、だからこそ特別な思いがある。吉田は開口一番、こう語った。
「まだ倒れるわけにはいかないなと思っています。次の試合に勝って、メダリストで終わりたい」
3位決定戦の相手はメキシコである。ブラジルと延長PKまで死闘を演じた彼らの条件は、日本と似たようなものだろう。どちらが戦える状態までフィジカルとメンタルを戻せるかという勝負にもなる。本気で金メダルを目指して、本気でスペインを倒すつもりで戦い抜いたからこそ、それは簡単なことではない。ただ、それでもやるしかない。
堂安も相馬も、最後の試合に向けて「応援してくれる人を笑顔にしたい」と語ってくれた。ただ、あえて私情を挟んで言わせてもらえれば、このチームの選手たちこそ、笑顔で終わってほしいというのが率直なところである。
田中は「本当にいいチームなので、メダルを獲って皆さんの心の中に残るようなチームになりたいなと思うし、なれると思っている」とした上で、「本当に全員で、皆さんの力を借りながら、全員でメダルを獲って笑顔で終われればいい」と続けた。吉田もまた、「最後はメダリストとして笑って終わりたい」
勝っても負けてもチーム解散となるラストマッチが、ブロンズメダルマッチとなった。勝って笑って終われるか。試合までに与えられた時間はたったの2日間だが、もう一度奮い立って戦えるかどうか。最後の試合で、本当の意味での「強さ」が問われることとなる。


