2021-07-22-u24japan-kubo©Getty Images

決定力は天性ではなく。久保建英があの場面でゴールを決められた理由

■「感情」はシュート精度を削り取る

 美しく弧を描いたボールが逆サイドのネットを揺らす。パーフェクトなクッションコントロールから、中へと持ち出しての左足シュート。久保建英が、何度も見せてきたシーンであり、「誰よりも練習してきた」と語ってきたとおりのブレのないシュートフォームだった。

 初戦の緊張もあれば、開催国のプレッシャーもある、焦りが出ないと言えばウソになる試合展開でもあった。ただ、そうした「感情」が特に災いするのがフィニッシュの場面だ。「ここを外したらどうしよう」といった弱気の虫はもちろん、「何が何でも決めてやる」といった強い思いも、“力み”という形で現れてしまい、その選手のシュート精度を削り取ってしまう。

 こうした点に着目し、これまで良しとされてきた「気持ちをボールに込めて打ち込む」シュートを否定するのが、久保を小学生時代から一貫して指導してきた中西哲生氏だ。「シュートは感情を込めず、積み重ねてトレーニングしてきた通り打つことだけに集中する」ことを説いてきた。

 どフリーのシュートは力んで外してしまうのに、相手とタフに競り合いながらのシュートは枠によく飛ぶといったストライカーは実際いるが、これもこうした「感情」が生む現象の裏返し。この試合も、最初のビッグチャンスで久保はニアにシュートを外しているが、これは明らかに「決めてやる」という気持ちが先走ってしまっていた。

 もちろん、この試合の久保もそうだったように、「自分が決めてやる」という思いを持ってプレーすること自体は悪くない。ただ、フィニッシュの瞬間にそうした雑念に囚われていれば、力みが出るもの。余計なことは考えず、「練習してきたとおりに打つ」ことだけにフォーカスして無心で打つことが、最も高い決定力を発揮できるという考え方だ。

■練習の量は裏切らない

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 そのためにはスムーズなボディコントロールが不可欠だが、もう一つ中西氏が強調していたのはリズム感だ。ワンツースリーでも何でもいいが、リズムに乗って体を動かすダンスなどで、一挙手一投足「考えて」やる人はいないだろう。自然な形でトラップからシュートまで繋げた上で、余計な雑念を排除しておくためのリズムがポイントで、このゴールはまさにその教えの通り、ビートを刻むように体を運んでトラップからシュートまでを繋げていた。

「(あのシュートは)しっかり練習してきていますし、量は裏切らないと思う。こうしたところでしっかり良い形で決められて、それをまた一つ証明できたかな」

 シュートを打つ際に軸足を抜いて(地面から離して)蹴り足で着地するフォームも、ずっと意図して作ってきたもので、無心で体を動かせば自然と出るようになっている。理屈を言うのは簡単だが、地味なトレーニングを積み重ねてきたからこその“無心”のシュートだった。

 もちろん、無感情になるのはボールを蹴り込むその瞬間だけの話。ゴールネットを揺らしたあと感情を爆発させ、かつて知ったる東京スタジアムに雄叫びを轟かせた。

 重いプレッシャーから解き放たれたその様子を観た上で、去り際の彼に最後、「このスタジアムで決めた意義は大きかったのでは?」と聞いてみた。

「デカいですね。試合前に大口叩いて『ここでは負けたことがない』と言っているんで」と笑った。かつて青赤軍団のサポーターを熱狂させたスタジアムで、あの頃から「ずっと積み上げてきた」とおりのシュートで、久保建英は東京五輪における第一歩目を力強く踏み出した。

取材・文=川端暁彦

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