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決して折れない長友佑都。“W杯仕様のメンタル”で臨んだサウジアラビア戦、日本代表が見せた戦況共有と対応力

 日本代表は2月1日に行われたカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選でサウジアラビア代表に2-0で勝利。試合の中では伊東純也と南野拓実という攻撃の役者が結果を残しただけでなく、批判を浴びていたベテランDFが代表としての誇りを示す奮闘を見せていた。

■「このチームのためなら何でもできる」

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「W杯を戦うときのようなプレッシャーを感じていた」

 DF長友佑都はそんな言葉でこの日の精神状態を形容した。「だいぶ叩いていただいたので」と35歳の大ベテランは茶目っ気たっぷりの笑顔と共に語ったが、あらためて日本代表チームで戦う重さを感じさせる流れでもあった。パフォーマンスが悪ければ、長年にわたって貢献してきた名手だろうと手厳しい批判が待っている。代表選手としては当然のこととも言えるが、他の選手にしてみれば「明日は我が身」でもある。萎縮に繋がってもおかしくはない。

 少々妙な話だが、ある意味でそのターゲットが長友だったのは幸運だったのかもしれない。「叩かれるほど燃えてくるんで」と語るベテランは、試合前の取材に対しても自分のパフォーマンスが悪かった点は認めつつ、堂々と次への意欲を語ってみせていた。練習はほぼ非公開だったが、観ていなくてもそこでいつも以上の気合いを見せつつ、仲間を熱く激励する長友の姿があったことは想像に難くない。キャプテンも不在、守備の若き柱も不在の中で経験の浅い選手たちがピッチに立ったこの2連戦、折れないベテランがいる意味はやはり大きかったのだと思う。

 気合いと気負いは紙一重。緊張と弛緩はどちらもダメで、その間が望ましい。その意味で言うと、サウジアラビア戦の日本の立ち上がりはそこまで良かったわけではあるまい。動きが硬い選手もいた。ただ、ボールが切れるたびに互いに声を掛け合い、相手が負傷して倒れればすかさず集まって言葉を交わす姿があった。戦術的な擦り合わせや共有はもちろんそうだが、群れで生きることをDNAにインプットされている人間にとって、「信頼できる仲間と話す」ことの精神的な効果は存外に大きい。ボールが切れて話し合うたびに良くなっていく選手たちを観て、この日本代表が最終予選敗退の危機という修羅場を乗り越え、より「チーム」になったのだという感触を持てた。

「このチームが好きだし、このチームのためなら何でもできるなと感じている」と語ったのは長友だが、こちらもベテランになった大迫勇也も、ベンチに下げられてからも熱く声を出してピッチの選手たちを鼓舞するなど一体感を見せ続けたのは象徴的だった。

■チームはW杯への財産を積み上げている

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 試合の中でも短い練習時間の中で積み上げてきた成果が観られた。MF守田英正が「崩してそこからのクロスでシュートというのは練習からやっていた」と語る、右サイドで後出しじゃんけん的なプレー選択からポケット(ニアゾーン)を攻略する形はすっかりお馴染みになった。サウジアラビアの左サイドを突くやり方も事前に共有し、トレーニングした結果だ。この点について森保監督は選手たちの対応力を称賛したし、当然その通りなのだが、監督やコーチ、分析のスタッフを含めた準備があってこそだろう。

 またこの試合で観られた、ポゼッション型のチームに対してプレスがハマらないとき、割り切って[4-5-1]のブロックで5レーンを埋めて対応するやり方も練習してきた形の一つ。回されているように見えたかもしれないが、MF遠藤航が「そういう時間は割り切ってカウンターを狙うということをチームとしてハッキリ共有できていた」と語り、DF板倉滉が「押し込まれていることを特にネガティブに思うことはなかった」と言ったように、戦術もそうなのだが、何より試合の流れや戦況に対する認識自体を「チーム」として共有できていることが全体の落ち着きに繋がっていた。これはW杯に向けても財産になる要素だ。

 もちろん、サッカーは常に相対的なスポーツで、この日のサウジアラビアの出来が悪かったということが勝因の一つである。ただこれは、プレビュー記事でも触れたように、日本がアウェイのサウジアラビア戦で陥ったのと同じことで、厳しい寒さと長距離移動からのコンディショニングの難しさが彼らを消極的にし、チームパフォーマンスを押し下げた結果であり、“アジア予選あるある”の現象である。

 とはいえ、まだ何かが決まったわけではない。次の試合は3位・オーストラリアが背水の陣を敷いて待ち受ける。勝ち点差は「3」に広がったが、得失点差では彼らが上。兜のヒモを緩めるには早すぎる。日本は最後に最下位・ベトナムとの試合を残すなどと甘いことは考えず、オーストラリア戦で勝ち点を確保して出場権を奪い取ることを考えるべきだろう。コンディショニングがまた難しいアウェイ戦だが、修羅場を乗り越えてタフになった「チーム」としての日本代表が最後の難局を乗り越え、カタール行きの切符を勝ち取ることを期待したい。

取材・文=川端暁彦

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