決して油断があったわけではない。ただ、想像以上にニュージーランドが日本をリスペクトし、最大限の警戒を持って相対してきたのは開始数分で明らかだった。
ニュージーランドが試合を通して徹底していたのは、日本のダブルボランチを自由にさせないこと。5-3-2のシステムを採用したニュージーランドは、インサイドハーフの二人がボランチをマンマーク。アンカーの一人はトップ下に入ってくる選手をケアする形をとってきた。また、2トップもCBのビルドアップにプレスをかけて時間を与えなかった。
これは途中でCB(ウェストン・リード)のケガによってシステム変更を余儀なくされても不変。「正直、今までフロンターレでもなかなかないくらいのマンツーで面倒臭かった」と田中碧が振り返るほどの徹底ぶりで、日本の攻撃は機能不全を起こしていった。
(C)Getty Images相手の対策にはまり、なかなか自分たちの思ったような攻撃を繰り出せない。得点を奪えないまま時間だけが過ぎる。それでも2度ほど決定的なチャンスを作り出したが、決めることができずに90分間を終えた。
「焦りは延長に入って時間が経つごとに感じました」(堂安律)
■「負ける気はしなかった」
Getty Images一発勝負の決勝トーナメント。延長戦に入り、失点が大きな痛手になることはわかっていたため、そこまでリスクはかけられなかった。加えて、個で打開しようにも中2日の連戦が続いていたこともあって運動量もダウン。最後まで集中した守備を披露したが、得点は奪えずにPK戦を迎えた。
準決勝進出をかけたPK戦。大きなプレッシャーのかかる舞台でキッカーは立候補制で決まった。上田綺世、板倉滉、中山雄太といったこの世代を牽引してきた男たちがしっかりと沈め、谷晃生が1本のPKストップと1本のキックミスを誘った。そして、最後は吉田麻也が沈めて試合は終了。日本は苦戦を強いられながらもベスト4への道を切り開いて見せた。
チーム一丸。苦しい120分間を終えた選手たちの姿からは、さらなるチームの結束を感じた。「点を取られる気はしなかったし、あと5分あれば1点取れたと思います。PKでも負ける気はしなかったし、それはどこが相手だろうと変わらない」とは久保建英の言葉。自分たちなら「勝てない相手はいない」と誰もが信じている。田中碧も続く。
「正直、ここまできて、銀メダルも、今日負けるのも一緒だと思っている。本当に金メダルが獲りたくてこのメンバーでやっている。全員で力を合わせて、史上最強のチームと言われるくらいの結果を残したい。本当に終わりたくないというのが率直な思いです。それくらい本当に良いチームだなと。オン・ザ・ピッチもそうだし、オフ・ザ・ピッチもそう。本当に全員が出て、全員が活躍して欲しいくらい素晴らしい選手が揃っているし、素晴らしい準備をしている。次はトミ(冨安健洋)が出場停止になったけど、またみんなで最後に決勝でサッカーができるように頑張りたいです。本当に」
振り絞るように出した最後の「本当に」に全ての思いが詰まっていた。
金メダル獲得に向け、ニュージーランドとの死闘を経てさらに団結した日本。このチームで戦えるのも残り2試合。最高の瞬間を最高の形で終えるために、準決勝でスペインを打ち破りにいく。


