今年7月のFIFA女子ワールドカップオーストラリア・ニュージーランド大会に向けて強化を進めるなでしこジャパン。ここでは、元日本女子代表監督であり、現在はJFA女子委員長を務める佐々木則夫委員長に、女子サッカーの環境の変化とW杯への期待を聞いた。【取材協力=アディダス ジャパン】
■なでしこに増えてきた海外組
Getty Imagesなでしこジャパンは2011年の女子W杯ドイツ大会、佐々木監督指揮のもと決勝でアメリカを倒し世界の頂点に立った。翌12年のロンドン五輪、15年のW杯カナダ大会では決勝でアメリカに敗れたが準優勝。しかし、16年のリオ五輪はアジア予選で敗退し世界への切符をつかめなかった。19年のW杯フランス大会ではラウンド16で敗れ、20年の東京五輪ではベスト8で大会を後にした。世界の頂点に立ってからここまで、世界の女子サッカーはフィジカル面、戦術面、そして環境面で大きく変化を続けている。その世界との差は埋められるのか。
――男子と同様、なでしこジャパンにも海外組が増えてきました(4月の欧州遠征メンバーを見れば、WEリーグ所属が14人、海外組が11人)。以前からこの時代を予想していらっしゃいましたか?
私が監督をやっていたときも主力は「海外での経験」がありました。海外と日本ではスピードやパワーでどうしても違いがありますから、そういった選手の経験がチームの中で効果を発揮していた部分も大きかったです。私自身、海外に慣れ親しんでいる選手たちが養ってきた感覚をチームに融合させることが非常に重要だと考えていました。大会ではスピードやパワーに秀でた選手たちと戦って、勝たなきゃいけないわけです。海外を知る選手は「そのためにどうしたらいいか」を日頃から経験して感じていますからね。
最近顕著に感じることがあります。例えば国際親善試合でミスをする。同じようなミスでも海外を経験した選手と日本の選手たちは切り替え方が全然違うんです。海外を経験した選手は、同じミスをしても苦にしないで、次、次、とやります。ミスをしてもストレスと感じず切り替えて、普段通りの自分のプレーができることが多い。プレー感覚の間(ま)や、リーチの差、スピード感覚、パワーのちょっとしたところだけでなく、海外に行っている選手の良さは、そういうところにもあると思いますね。
――海外組の良さが発揮される部分ですね。同時に、男子では海外組が増えたことにより日本と欧州とのシーズンの違い、移動、時差があるなか集合して、コンディションを整えながらのトレーニングとなり、戦術面を合わせる時間は限られてきています。
そこは選手個々の順応性ですよね。自分自身が置かれた状況の中で、じゃあ、どういう風に調整してどういう風にやるのか。そういう面もやはり経験があればでき得ることだと思います。今回の本大会(女子W杯)でいえば、時差対策等もしっかり時間を持って対応しますので、そこはそんなには心配していません。
■プロとして練習、レストのサイクルが保てる
Getty Images女子サッカーの隆盛、特に欧州の盛り上がりはかつてないものとなっている。昨年の欧州女子チャンピオンズリーグ準決勝・バルセロナとヴォルフスブルクの一戦にはカンプ・ノウに9万1,638人が来場し、女子サッカーの来場者記録を打ち立てた。また、FA女子スーパーリーグでのアーセナルとトッテナムのノースロンドンダービーには、エミレーツ・スタジアムに4万7,367人が駆けつけ、同リーグの新記録を打ち立てている。
今年に入っても女子サッカー人気は続いている。今月7日、欧州女王と南米女王が戦う第1回「女子フィナリッシマ」では、イングランドとブラジルが対戦し、ウェンブリー・スタジアムは8万3,132人の観客で沸いた。
――欧州では女子サッカーの観客動員も増えています。この理由の一つに、ビッグクラブが男子だけではなく、女子チームを持っていることが大きいかと思います。また、イングランド女子代表は、昨年の女子ユーロで初の優勝を果たしました。リーグが強化されることは代表の強化につながると思われますか?
それはそうですよね。選手が日々一番長く過ごすのはクラブです。クラブでの練習環境やリーグの質が良くなっていくことが、女子サッカーにとって非常に重要で大切なことだと思います。
――そういう点で女子プロリーグであるWEリーグの果たす役割をどう捉えていらっしゃいますか?
私が監督をやっているころと比較すると選手が置かれている環境が大きく変わりました。今は、午前中練習して午後レストできます。それができるクラブはかつて神戸(INAC神戸レオネッサ)だけだったんですよ。選手たちのほとんどが午前中仕事をして、午後から練習して、夜は食事をしてもう寝るだけという。アスリートとしての環境は良くないですよね。
WEリーグの選手の多くはプロですから、練習してレストしてというサイクルがちゃんと保てます。サッカーに集中できること自体が素晴らしい環境です。私が監督の時代と比較すればもうそれだけでもWEリーグの価値を感じるわけです。自ずと選手の質も良くなってきますし、それが代表チームに及ぼす影響も大きい。
もちろん、海外でも環境に恵まれている国はそう多くないと思います。でも今、各国で環境が整えられてきていて、それは女子サッカー全体にとって非常にいい状況だと思います。選手にとっては日々の練習が一番重要な部分です。環境を構築しなければ代表が世界と並ぶのはなかなか大変だとも感じています。
――あらためて2011年当時から女子サッカーが大きく変化した。
以前はJFAが資金的なサポートをして、「海外でプレーして海外のエキスを得てきなさい」というシステムで選手を派遣していました。今はそういったことをせずとも、選手は海外移籍をし、経験を積んでいます。選手個々の力がついてきたことは事実ですし、サッカーの環境を良くしてなでしこジャパンを強化しようというなかで、WEリーグというプロリーグもできました。
――WEリーグができて初めてのW杯になります。
そうなりますね。そういう点でも楽しみです。
今年に入り、なでしこジャパンは2月のアメリカ遠征でSheBelieves Cupに参加。ブラジル、アメリカ、カナダと対戦し、ブラジルとアメリカには0-1で敗れたものの、東京五輪女王のカナダに3-0で勝利。佐々木委員長も「試合ごとに良くなって、アグレッシブさと強度を見せられた」と振り返っている。
W杯前最後となる4月の欧州遠征では、ポルトガルに逆転勝利を収めたものの、デンマークには痛恨のオウンゴールで0-1の敗戦を喫した。相手に対策をされると打開できない課題が明らかになったが、W杯本戦までに対応していくしかない。選手たちはいったんクラブに戻り、最終メンバー発表後の6月下旬の国内合宿、7月14日仙台でのMS&ADカップを経て、本戦に臨むことになる。【聞き手・文=吉村美千代/GOAL編集部】
【女子W杯オーストラリア&ニュージーランド 2023試合スケジュール】
グループステージ
第1節・7月22日 16:00KO ザンビア vs日本
第2節・7月26日 14:00KO 日本vs コスタリカ
第3節・7月31日 16:00KO 日本vs スペイン
※KOは日本時間
【なでしこジャパン、新アウェイユニフォーム】
adidas欧州遠征でなでしこジャパンが披露したアウェイユニフォーム。今までにないデザインと色彩だけではなく、体にフィットするタイトなシルエットも大きな特徴だ。佐々木委員長は新ユニフォームに関し、「僕が見た中で最高。なでしこの雰囲気に合っている」と大いに気に入った様子。「アウェイのユニフォームでもこの色合だとアウェイ感を感じませんね。皆さんにも見ていただきいので、7月14日の仙台での試合はアウェイを着てやるのもいいんじゃないかな」と、期待を寄せた。
