フランスで開催される第48回モーリスレベロトーナメント(旧トゥーロン国際大会/5月29日~6月12日)に臨むU-19日本代表。横浜F・マリノスで大先輩の背を追うMF山根陸は、久々の海外の地で新たなステップを踏もうとしている。
■横浜FMの中盤で存在感
「本当に久しぶりのヨーロッパです。こうやって来られること自体が嬉しくて、日本と違う芝生の感触、ボールの感覚とかを味わって本当に久々なので」
そう言って笑ったのは、今季の横浜F・マリノスでルーキーながら早くも存在感を見せているMF山根陸だ。
中学3年生で一つ上のU-16日本代表にピックアップされるなど早くから将来を嘱望されてきたタレントだが、そんな彼でさえもコロナ禍の影響で長らくユース年代の国際試合が行われなかった影響で「久々のヨーロッパ」になっている。最後に欧州へ来たのは、奇しくも同じフランス遠征。中学3年生以来のこととなる。
以前の代表候補合宿で見る姿と比べて、トレーニングから少し雰囲気が変わったように見えるのは、久々の欧州舞台で燃えているからというだけではないだろう。「成長できていると思うし、自信も付いたと思う」と本人が言うように、「本当にハイレベルなメンバーが揃っている」チームの中盤で出場機会を得て、明治安田生命J1リーグとAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を戦った経験は、本人の血肉になっている。
「まず、あのメンバーの中で試合に絡めるとは思っていなかったですし、もっと実力をつけないといけないなと感じていました。あのレベルのメンバーと練習をできるだけでも成長できていると思うし、ああやって練習でも苦労していたからこそ試合でもやれました。出たことで自信も付きましたけれど、日常であのレベルにやれていることが自信に繋がっているのかなと思います」
■喜田拓也から受ける刺激
(C)Getty imagesU-21日本代表のMF藤田譲瑠チマですら安泰ではないのが横浜FMの中盤中央を巡る争いだ。そこで日々切磋琢磨しつつ、先輩たちから受ける刺激は山根のプレーを確実にブラッシュアップさせている。
「(横浜FMの練習では)もう1本のパスが命取りになるので。それはここ(代表)と同じで、そういう本当に一瞬の気も抜けないような練習環境に普段からいられるのは自分にとって本当に大きい」
ただ、だからこそ「まだまだ足りない部分が大きい」という気付きも持っている。
「自チームで同じポジションの選手は体が強いですし、強度も本当に高いんです。ある程度は通用するものもあるんですけど、守備の強度であったり、プレーするときのメンタリティ、プロフェッショナルとしての自信に満ちあふれている部分も足りないと感じています」
目指すべき基準として、明確な物差しを得ているということでもある。
「僕がプロ生活1年目のシーズンをマリノスというクラブで歩めているのは本当に大きくて、最初にあの基準を感じられたことで、自分の中で高い基準を作れているのは大きいです」
特に刺激を受けているのは、横浜FMユースの大先輩でもある主将の喜田拓也だ。
「紅白戦とかで一緒にプレーさせてもらうと『自由にやっていいぞ』と、こっちがやりやすいように声を掛けてもらえますし、選手としても人としても本当に大きくて、『キャプテンってこういう人のことを言うんだ』と思わされてばかりです」
■主将からの学びを実践へ
(C)Akihiko Kawabataそして、この代表では逆に引っ張る側に回ることを求められているのも分かっているし、新たにチャレンジしようと考えている“基準”でもある。
「日常でああいう選手を見ているからこそ、代表に来たらもっと自分が引っ張らないといけないと思っています。コーチングの声色だったり、質というのも改善の余地があるなと自分で感じています」
単に言葉を選んでコーチングをするだけでなく、その声色にまで気を遣っている喜田主将の“基準”を意識しつつ、チームの舵取り役として自分をさらに高め、代表で結果を出すことに繋げたい考えだ。謙虚に今の自分を見つめている山根だが、その胸には野心も秘めている。
「いまA代表でやっている選手もヨーロッパでやっていますし、自分もやっぱり内田篤人ロールモデルコーチのようにヨーロッパで活躍してW杯にも出たいです。そのためにも、少しでも自分の持っている良いモノをここで出して、何かを残せればいいなと思っています」
欧州の“基準”をJリーグに持ち込んで成功した横浜FMで自分自身を変えてきた山根陸。日の丸を付けて臨む「中3以来」の欧州舞台で、胸に抱く大志への第一歩を刻みに行く。
取材・文=川端暁彦