新型コロナウイルス感染拡大に揺れた2020年がもうすぐ終わろうとしている。我々の日常生活が脅かされた1年となったが、当然のようにサッカー界も深刻なダメージを受けた。
日本代表に関して言えば、3月6月に予定されていた2022年カタール・ワールドカップ、アジア2次予選の4試合が延期に。1年近く活動を行えず、10月と11月にカメルーン(0-0)、コートジボワール(1-0)、パナマ(1-0)、メキシコ(0-2)と親善試合を計4試合を行ったのみとなった。結果は2勝1分け1敗。勝ち越しで年内の日程を終了している。
しかし、実際に日本代表が見せた戦いは、評価されるべきものだったのだろうか? 森保一監督はどのような戦術をチームに授け、選手たちは何を狙い、どのように実行したのだろうか? そして何が成功し、何が失敗したのだろうか?
スペイン大手紙『as』の試合分析を担当するハビ・ジジェス氏は、日本代表の4試合は「期待値を下回っていた」と分析する。世界屈指のサッカー大国の分析担当が、森保ジャパンの戦いを紐解いていく。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎
■期待値を下回った4試合
フットボールの車輪は決して止まらずに回り続け、日本代表もそうやって止まることなく進化し続けることが期待されている。だが、現状は焦燥感を募らせているだろう。
日本が描いてきた軌跡は興味を惹きつけるものがある。彼らは強烈な野心でもってフットボール文化を凄まじいスピードで成熟させ、現在の代表チームのプレーぶりはまるで強豪国のようだ。が、決定的な一歩を踏むためには、まだ何かが足りていない。どんな相手とも対等に立ち向かうためには、成長曲線をもう一度グンと上向かせる必要がある。
日本のカメルーン、コートジボワール、パナマ、メキシコとの親善試合のパフォーマンスは期待値を下回っていた。パンデミックは全代表チームに影響を与えており、それは言い訳にならないはずだ。
彼らはその4試合すべてで決定力不足と守備の脆弱さ、つまりは両ペナルティーエリアにおける力のなさを露呈している。その浮き沈みが激しいプレーぶりは構造的な欠陥があることを示しており、早急な見直しが必要だ。最も手強い相手と言えるメキシコとの試合では最初の30分こそ傑出したプレーを見せたものの、継続性なく後半になると目も当てられないほどクオリティーが低下した。御し易いパナマとの対戦でも前後半で別の顔を見せるなど、興味深いプレーとミスを繰り返すのが日本の特徴となっている。
■容易ではない挑戦
Getty Images森保一は攻撃時に1-4-2-3-1と1-3-4-2-1(カメルーン戦後半とパナマ戦)、守備時に1-4-4-2と1-5-4-1となるシステムを適宜使い分ける。今の彼らはトランジションにおける鋭敏さを失わず、威厳あるポゼッション・フットボールで勝利を求めているようだ。しかしながら、その挑戦はもちろん、容易なものになり得ない。
日本はボール奪取から一気に走り出すとき、または相手がハイプレスを仕掛けてきた際の後方からのビルドアップで、見栄えの良いを攻撃を見せる。縦へ縦へとつないでいくパスを出すことは、鎌田大地、伊東純也、原口元気ら鋭利さを売りとする選手たちを生かす上でも、彼らにとって理想的だ。実際、タタ・マルティーノ率いるメキシコは日本の素早いパス回しと果敢な飛び出しに頭を痛めていた。ただし、多くの選手たちが参加する彼らの速攻の問題は、ラストパス、その1本前のパスを誰が、どのようにして出すかを明確に決めておらず、シュートまで持ち込めないことにある。中途半端に速攻を終えてバランスを崩している守備を突かれるのはあまりに危険で、黒字が一気に赤字に転落してしまう。
その一方で後方からのビルドアップについて、日本は現代フットボールでよく用いられるオートマティズムを有意義に取り入れている。後方からパスをつないで中盤の一人(主に柴崎岳)が中央のレーンでサポートするか、サイドバックが中に入ってくる。サイドバックの中央でのビルドアップ参加は、左の中山雄太がうまくこなせているが、それはジネディーヌ・ジダン率いるレアル・マドリーがダニ・カルバハルとフェルラン・メンディに行わせていることと類似性が認められた。だが日本はそこで大きなリスクを負う必要がないように、異なる攻撃の手段も身に付けておくべきだろう。というのも、メキシコ戦では自陣で27回もボールを奪われていたからである。
冷淡な印象を受ける柴崎は、後方ではときに取り返しのつかないミスを犯すことがあり、スペインでそうしているようにもっと創造的なプレーができる位置にいた方がいい。そしてチーム全体では、ロングボールやサイドチェンジをもっと使っていくべきだろう。カメルーン戦で顕著だったように、吉田麻也と冨安健洋のロングボールの質は決して悪いものではない。鈴木武蔵は技術的におそらく最も洗練されていないFWだが、しかし空中戦を競り合うことができ、ポストプレーからそのロングボールを生かせる可能性がある。
■久保と南野の苦悩
Getty Imagesそして相手陣地でのプレーでも、まだできることはあるはずだ。右サイドに開くことが多い伊東を抜かせば、中盤の攻撃的選手たちは中に絞り過ぎている。中央で攻撃を開始して、サイドバックと1~2タッチの連係を取り、また中央から攻めるのが彼らの定石だが、しかしもう一度サイドを使って深みを取り、フィニッシュエリアに到達することだってできる。
鎌田はそうした仕事を完璧にこなせるはずで、久保建英と南野拓実にも同じことが言えるだろう。ただ久保と南野は、パナマ戦の後半を除けば、あまりに小胆なプレーに終始している。久保については左サイドで繰り返しプレーするべきではなく、コートジボワール戦ではプレーの成功率が58%にとどまった。片や南野については、ラストパスを4試合で4本しか出しておらず、鎌田の10本と比べればあまりに少ない。森保が現在、最も優れた才能を有する彼らよりも伊東、鎌田、原口の起用を優先しているのは、そういった数字に現れている。
■“格”を手にするために
Getty Images日本はペナルティーエリアでの効果性に限度ある攻撃に加え、ボール非保持の際により確実なプレーを見せなければならない。森保のチームはハイプレスやピッチ中央でのブロックづくりも状況に応じて実践しているものの、体力をセーブする必要以上に後方に下がってしまう場面が目立つ(その物足りない攻撃が条件付けていることも否めない)。
そうした際の守備では、しっかりとサイドを封じるなど(原口の左サイドのカバーは極めて重要だ)うまくバランスを取りつつも、個人のミスや遠慮のないガツンとしたプレーを見せられないために、あえなく決定機を許してしまっているのが現状だ。また、セカンドプレーを支配できていないことも深刻である。クロスを放たれるとそれだけでてんやわんやしてしまうし、柴崎と遠藤航のダブルボランチはMFとDFのライン間での消火活動を苦手としている様子だ。この欠点は、早急になくす必要があるだろう。
日本代表が世界でも傑出した場所に立つためには、強みだけを押し出す大胆なプレースタイルを生じさせている全体主義的慣例を犠牲にすることが求められる。それは彼らの起源から距離を置くことや、プレーアイデアをあきらめることを意味しているわけではない。世界有数のリーグでプレーする選手たちのクオリティーとダイナムミズムに裏付けされた心躍らせる攻撃は、日本が前に進んでいく上で切っても切り離せないものなのだから。
しかし同時に、彼らは自分たちの強みだけに固執せず、もっと競争的に、もっと堅実的に、もっとずる賢くなって、そうした点でも対戦チームにやりづらい相手だと感じさせなくてはならない。日本らしくなくなることで、もっと日本らしくなる……。それこそが、“格”を手にするための対価なのだ。
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