日本のカタール・ワールドカップデビューは、もうすべてが凄まじかった。
前半はドイツが凄まじく、冴え渡る戦術、ダイナミズム、正確なプレー、主要武器であるジャマル・ムシアラでもってエキシビョンを開いた。そして後半は日本が凄まじく、森保一の一連の修正から適切なリアクションを見せて、誰も賭ける気にならない逆転勝利を見事やってのけてしまった。ドイツが二面性を持つチームなのは知られていたが、日本は最悪の時間を何とか生き延びて、その後に堂々と反乱を展開したのだ。フットボールは何て美しいのだろう。
Getty Images前半はドイツがあらゆる面で素晴らしく、日本があらゆる面でダメだった。森保がこしらえたプランは機能不全に陥っている。日本は立ち上がりに少し軽率なドイツから前線でボールを奪い、かすかな可能性を感じさせたものの、その時点でもうすべての可能性が潰えていた。フリック率いるドイツはボール保持時にいつもの1-3-2-4-1を使用。選手たちを段階的に配置して日本を混乱させている。鍵を握っていたのは、いつドイツの動きに合わせて、いつボールを奪うべく襲いかかるかの判断だったが、日本は個人でも集団でもそのタイミングを読み切ることができなかった。
ドイツはビルドアップで、DFラインにニコ・シュロッターベック、ヨシュア・キミッヒ、ニクラス・ジューレの3人を並べ、対して日本は伊東純也と久保建英が左右のシュロッターベックとジューレ、鎌田大地か田中碧が中央のキミッヒに対応した。しかしキミッヒがイルカイ・ギュンドアンと何度もポジションを交換することで、鎌田と田中は付くべき対象を見失ってしまい、ドイツが最初のパス回しを安全に行うことに成功する。ドイツはそこから、トーマス・ミュラーとムシアラが日本のDF&MFのライン間、遠藤航と田中の背後でパスを受けて彼らの守備網をかき乱している。とりわけ次の10年間、世界最高の選手の座を争うと目されるムシアラは出色の出来。日本の選手たちを巧みに引きつけて、チームメートのためのスペースを生み出していた。
Gettyドイツはムシアラを中心に攻撃を形づくり、日本を完全なる迷える子羊とした。バイエルンFWは酒井宏樹を引きつけながら左サイドから中央に切れ込み、同サイドをラウムがフリーで使えるようにしている(伊東はラウムの背後を突くことを狙い守備を怠っていた)。こうして、前半の日本は壊れた。もう一つ付け加えればカイ・ハヴァーツのサポート、ミュラーの動きはドイツのパス回しを活性化し、キミッヒとギュンドアンをより前に位置させている。
日本にとって不幸中の幸いであったのは、憂慮すべき前半のパフォーマンスで1点しかビハインドを負わなかったことだろう。そしてハーフタイム、森保は今回ばかりは腰を上げて、メンバーもシステムも動かした。久保建英を下げて冨安健洋を出場させると、システムを1-5-4-1に変更してドイツの中央、サイドからの攻撃をどちらも塞ぐことに成功。さらに前半には不可能だったボールポゼッションも実現している。……結局のところ、日本はこのカタールW杯で多くの要素を必要としているのだ。グループとしての強さを信じること、両ペナルティーエリアでの確信あふれるプレー、トランジションからの攻撃、その技術の高さを生かしたポゼッション……これらは日本が絶対に欠かせない要素だが、ドイツとの後半戦ではそのすべてを目にできた。
Getty Images後半の日本は確かな規律を持って守備に取り組んでいる。プレッシングで飛び込むタイミングを間違えず、どれくらいアグレシッブにいくかも意識して……彼らはこの守備によって試合を均衡させ、逆転劇の出発点に立ったのだった。そして攻撃に関しても、森保の選手交代がチームを目覚めさせている。左サイドに投入された三笘薫のドリブル、浅野拓磨の前線での働き、南野拓実のDFラインの亀裂を突く動き、堂安律の飛び出しは奇跡を生み出した。そう、日本の勝利は奇跡と考えられていいはずだ。下馬評というより、前半の内容からすれば予期できなかったことなのだから。
試合は180度変化して、日本は引き分けでは満足できなくなっていた。もっとも同点で後退していたならば、それは新たな破滅への入り口になっていただろう。日本は正面切って戦い、ドイツが常に開けてしまっていた隙間に入り込み、2列目から選手がどんどん飛び出していった。フリックのチームは日本の攻撃陣が生み出しているこの新たな戦局を飲み込めないままだった。伊東は守備にも攻撃にも奔走するウイングバックとなり、堂安は何度も繰り返しペナルティーエリア内に侵入し、三笘はアクセルをガッと踏んだ加速するドリブルを仕掛け、南野は相手の届かない場所で仲間たちとつながり、そして浅野はそのゴールでもってドイツのセンターバックたちのフィジカル無敗伝説を否定している。この試合の日本には、決定力だって備わっていた。
フリックはヨナス・ホフマンとレオン・ゴレツカを途中出場させたが、まったく効果を上げられず。彼らはまるで、勢いを増す日本相手にプレーの用意ができていないようだった。このような一連のフットボール的噛み合わせが、ここまでのすべての分析をぶち壊して、ただただ日本のフットボールに価値を与えていた。森保の最初のプランは確かにまずかった。だがしかし、彼はもう取り返しがつかないように思われた状況を逆転させる勇気とインテリジェンスを、確かに備えていたのだった。フットボールは何て美しいのだろう。
私はこの試合のプレビューで「日本が道をつくり出すことは可能だ」と記した。日本のクオリティーを考えれば当然のことだし、実際的に彼らの前には彼らが自らつくり出した道が続いている。今大会のベスト16入りは、ドイツ戦が終了した瞬間から、すでに義務に変わっているのだ。
