AFCアジアカップ カタール2023のグループステージで苦戦を強いられ、最終的に2位で決勝トーナメント進出を果たした日本代表。開幕前の期待値通りの結果を示すことはできていないが、そういった事象が持つ意味はネガティブなものだけではない。【取材・文=林遼平】
■アジア各国の“日本包囲網”
(C)Taisei Iwamoto昨年、日本は確かに世界と肩を並べられるような結果を残した。
カタール・ワールドカップ(W杯)以来となるドイツとのリベンジマッチに敵地で勝利。トルコやカナダ、チュニジアといった中堅国を破り、一気に世界から注目されるようになった。このままアジアカップを圧倒して制し、目標とするW杯優勝に大きく近づく。そんな物語を描いていた人は少なくないだろう。
ただ、現実はそう甘くない。2011年大会以来となる優勝を目指したアジアカップでは、大きな問題もなくグループステージを突破できるだろうと考えられていた中で、ベトナム戦では不安定な戦いを見せて一時は逆転される展開に。イラク戦では相手の長身FWに手を焼いて力負け。インドネシア戦は何とか勝利したが、圧倒するまでにはいかなかった。
まさに“予想外”の幕開けとなってしまったのだが、これは日本が着実に前に進んできたからこそぶつかった壁だと言えるだろう。
明らかに変わったのは対戦相手の姿勢だ。世界トップレベルの国を連戦連勝で破り、一気に注目度の上がった日本だが、その分、対戦国からの警戒もより強くなった。これまでも、アジアの舞台では日本に対するリスペクトは感じていたが、今はどのチームも日本に勝利するために120%以上の力をぶつけてくるのが当たり前に。今回の対戦国を見ても、しっかりと分析した上で日本のウィークポイントや嫌なことを徹底的に突いてくる姿勢が見られ、“日本包囲網”を敷かれた状態での対戦を余儀なくされている。
これは対戦国の戦術レベルなどが上がっているのも一つだが、他のカードでは対日本ほどの熱量を感じない試合も多い。ここで勝って大きな成果をもたらそうとする想いに溢れた国が増えたのは、日本が新たなレベルにステップアップしたことを意味している。“日本に勝てば世界の相手にもやっていける”という自信を持たせるようなチームになったのだ。
■選手間に生じた齟齬
(C)Taisei Iwamoto一方で、選手のメンタリティにも変化が生まれた。W杯での経験もそうだが、クラブレベルでチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)を経験する選手が増えたことで、アジアカップにどこまで注力するのかといった「モチベーションにギャップが生まれた」(森保一監督)ことは間違いない。欧州リーグ戦が前後にあり、自チームのことを考えたり、ケガをしたくないといった思いもあるだろう。油断はなかったかもしれないが、そういった一つひとつの思考が積み重なり、隙となって生まれた。そこを突かれたのだ。堂安律の言葉が的を射ている。
「アジアが相手だから80%の力で勝てるということはいない。自分たちが出し切って、その結果が1-0なのか、5-0なのか、1-1なのかを見るべき。最初から今日は勝てるでしょと80%でやって勝てる相手はいない。それが表現としては少しアジアを舐めていたということになると思う」
また、これまでのような“勝たなければいけない”から“勝って当たり前”というメンタリティに変わったこともゲームに影響している。ベトナム戦なども圧倒して勝たないといけないという考えの中で、前から行きたい選手と慎重に行きたい選手で齟齬が生じ、これまでチームのベースとしていたもののバランスが崩れることになった。
だからこそ、イラク戦に敗れた2日後に行われたディスカッション形式のミーティングが大きな意味を持った。自分たちの意見をぶつけ合い、何をすべきかを共有することで、個々の意識のギャップの差を縮める努力をする。そうすることでチームとしてまとまり、チーム全体のパフォーマンスが向上するに至ったのである。
前述したように、これは日本が強くなってきたからこそ乗り越えなければいけない壁だ。近年は一気に海外組が増え、世界トップレベルの選手と同様のステージに立つ選手が増えたことで、周りの目が変わり、自分たちのメンタリティも変わるという今までとは違った悩みを抱えるようになった。ただ、それはある意味、同じ目線で考えられるという点で世界に近づいていることを意味する。
これはネガティブな話ではなく、さらに上に進むためのプロセスでしかない。まだまだすべてがクリアになったとは言えず、確かな解決策を見つけていく必要がある。ここからの決勝トーナメントも決して簡単な試合はないだろう。ただ、そこを乗り越えていけば次のレベルに到達しそうな雰囲気も漂わせている。
強くなったからこそ、さらに強くなるための次なる一歩を踏み出す。日本の進化はまだまだ続いていく。
