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イタリアは本当にカタールW杯の優勝候補筆頭なのか。EURO王者の懸念と昇華させる可能性を持つ新星は?

「スペインはとてもいいチームだ。若いけどすごくいい選手が揃っている。いいか、次のワールドカップでは我々と彼らが優勝を争うことになるぞ」

これは、EURO大会期間中を通してイタリア代表に密着していた国営放送局『RAI』のTVカメラが捉えた、準決勝スペイン戦直前のミーティングで、ロベルト・マンチーニ監督がチームに向かって語ったスピーチの一節だ。

まったく当たり前のように平然と、しかし確信に満ちた口調で語られたこのひと言には、指揮官の強い自信と決意が込められている。それは、このイタリアには世界の頂点を争うにふさわしいチームに成長する力が備わっているという自信であり、そして1年半後のカタールW杯では本当に優勝を狙って戦うという決意だ。

EUROが開幕する時点で、イタリアがここまでの躍進を遂げると予想する声はほとんど聞かれなかった。しかし、マンチーニ監督は開幕戦から、いやそれどころかロシアW杯出場権を逃して間もない就任当初から、このチームはEURO、そしてW杯で優勝する可能性を秘めていると信じ、そう明言し続けてきた。誰もが予想しなかった欧州王者のタイトル獲得は、その結果であり証明でもある。

大会7試合を通して説得力のある戦いを重ねてヨーロッパの頂点に立ち、内外の評価を一変させた今、来年12月のW杯においては優勝候補の一角に挙げられる可能性も高い。しかしイタリアは、それにふさわしいチームとしてカタールの地に立つことができるのだろうか。これからの1年半で、現在かかえるいくつかの課題を克服し、さらなるチーム力の上乗せを図ることは可能だろうか? いくつかの点からそれを検証していくことにしよう。

■強みと弱み

今回のEUROを通して浮き彫りになったイタリアの強みと弱み、そして課題を簡単にまとめると次のようになるだろう。

強み

・安定したビルドアップ&ボールポゼッションによるゲーム支配と主導権の確保
・ボールロスト直後の素早い「ゲーゲンプレッシング」による即時奪回
・堅固なブロック守備と強力なGKの存在

弱み

・ハイプレスでビルドアップを分断された時の逃げ道となる戦術オプションの不在
・センターフォワードの得点力が低く、作り出したチャンス数にゴール数が見合わない

今後の1年半で、これらの強みを維持あるいは向上させることができるか、そして弱みを克服あるいは緩和する可能性を持っているかがチェックポイントということになる。戦力と戦術というふたつの側面に言及しつつ、まずは強みから見てこう。

■ビルドアップとポゼッション

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イタリアの質の高いビルドアップとポゼッションを支えているのは、最終ラインから長短の正確なパスで組み立ての起点となるレオナルド・ボヌッチ、そして何よりも中盤の低い位置で最終ラインからボールを引き出し、ワンタッチ、ツータッチでさばきながら味方と相手を動かして攻撃のリズムを操り、前線へのパスコースを作り出すジョルジーニョの存在だ。

ボヌッチほどの精度で40~50m級のロングパスをウイングの足下や敵最終ライン裏のスペースに送り込めるCBは、イタリアには他に見当たらない(世界でも数人だろう)。その点で来年35歳を迎えるこのベテランは、カタールでもアッズーリに絶対不可欠な存在であり続ける。逆にいえば、彼を故障などで欠くことになるとビルドアップの質と幅は小さくない影響を受けることが避けられない。若手CBの中で最もロングパスの質が高いアレッサンドロ・バストーニ、そしてロングパスは持たないがショート、ミドルパスの精度がそれなりに高いジャンルカ・マンチーニの成長に期待したいところだ。

しかし「絶対不可欠」の度合いでいえば、ジョルジーニョのそれはボヌッチすらも比較にならないほど大きい。EUROで7試合に実質フル出場、マンチーニ監督が就任以来、明らかな格下相手のターンオーバーを除きすべての試合に起用してきたという事実は、ジョルジーニョという「レジスタ」(イタリア語で演出家の意。ゲームメーカー)がアッズーリのポゼッションサッカーにとってどれだけ重要な存在かを端的に表している。

中盤のもうひとりの核であるマルコ・ヴェッラッティは、ジョルジーニョと比べるとタッチ数が多く自らボールを運ぶ頻度も高いため、シンプルなパスワークで攻撃にリズムを作り出す仕事には向いていない。むしろジョルジーニョと組むことで持ち味を最大限に発揮するタイプだ。それは、早いタイミングで高い位置に進出する動きで中盤にダイナミズムと流動性を作り出すニコラ・バレッラについても同じように言えることだ。

グループステージでヴェッラッティの代役を務めたマヌエル・ロカテッリ、途中出場で2得点を挙げたマッテオ・ペッシーナも、タイプとしてはバレッラ寄り。つまるところ、ジョルジーニョの戦術眼とリズム感を欠いたイタリアは、EUROでのイタリアほどスムーズで質の高いビルドアップ/ポゼッションを見せることはできないという結論になる。

その意味でボヌッチとジョルジーニョは、例えばベルギーにとってのロメル・ルカクとケヴィン・デ・ブライネ、フランスにとってのヌゴロ・カンテとキリアン・ムバッペ、イングランドにとってのハリー・ケイン、スペインにとってのセルヒオ・ブスケツとペドリらと同様、「替えの効かない絶対的なワールドクラス」に属すると言わなければならない。

そしてその観点からすると、イタリアのビルドアップとポゼッションにこれ以上の伸びしろがあると考えることは難しい。2022年のイタリアは、32歳のジョルジーニョと35歳のボヌッチに依存するチームになる可能性が高いということだ。

■ゲーゲンプレッシングによる即時奪回

こちらはビルドアップやポゼッションとは違い、個のクオリティ以上にチーム戦術の問題であり、しかもイタリアの選手たちはいずれも高い遂行能力を持っている。クリスティアーノ・ロナウドやネイマールのように、プレッシングの仕事を免除することを前提にチーム戦術を組み立てることを要求する「王様」がいるわけでもない。

したがって、ボールロスト時の即時奪回とそこからの素早い逆襲は、2022年も引き続きイタリアの長所であり重要な武器であり続けるということができる。ここはもっとも心配する要因が少ない部分だろう。

■ブロック守備とGK

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PK戦での活躍はもとより、デ・ブライネやルカクに対する重要なシュートセーブで何度もイタリアを救ったGKジャンルイジ・ドンナルンマはまだ22歳。すでにセリエAで5シーズンの経験を持ち、新シーズンからPSGに活躍の場を移す守護神は、少なくとも向こう10年間、イタリアのゴールに閂をかける門番であり続けるはずだ。

不安があるとすればセンターバック。今回のEUROで、ルカクやケインを完全に封じ込め、必要とあればレッドカードぎりぎりの戦術的ファウルすら辞さないしたたかな振る舞いで鉄壁の守備を支えたジョルジョ・キエッリーニはもうすぐ38歳。引退を囁かれながら、ユヴェントスとの契約をあと1年延長して現役を続ける可能性が濃厚だが、さらに次のシーズン途中に開催されるW杯で戦力として計算することは難しい。

世界トップクラスのストライカーとマンツーマンの対人守備で互角に渡り合えるCBとして、キエッリーニの後継者と呼べる選手は今のところ存在しない。ただ、世界を見回しても彼のようなCBはもはや絶滅危惧種なのだから仕方ないだろう。後継者と目されるのは、さきに名前を挙げた同じ左利きのバストーニだが、タイプ的にはむしろボヌッチに近く、キエッリーニのような老獪さは望めない。

こうして見ると、キエッリーニを欠いた2022年のイタリアは、組織としての守備力では現在と比べて見劣りすることはないにしても、ギリギリのピンチを個の力で回避する場面(EUROで言えばキエッリーニが決勝でラヒーム・スターリング相手に見せた二度のシュートブロックや、単独で抜け出しかけたブカヨ・サカを引きずり倒してイエローをもらった戦術的ファウル)が見られなくなり、そのぶん失点が増えることが予想される。といっても、ミスで失点するわけではなく、本来失点して当然の状況を奇跡的に逃れる回数が減る、というレベルの話ではあるが……。

■ハイプレス回避

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EUROの7試合中、イタリアが思惑通りにボールを支配し主導権を握れなかったのは、ラウンド16オーストリア戦と準決勝スペイン戦の2試合。いずれも、ビルドアップの初期段階から相手のハイプレスを受けてスムーズにボールを動かせず、組み立てが詰まって自陣から前進できなったことがその理由だ。スペイン戦ではそれに加えて、相手のポゼッションに翻弄されてボールを奪えず、守勢一方に回ることまでも強いられた。

この2試合のように相手がアグレッシブに前に出てハイプレスを仕掛けてきた場合、最も効果的な逃げ道は、押し上げてきた相手の背後に直接ボールを送り込むこと。イタリアは、それを可能にするロングパスの「出し手」(ボヌッチ)も擁している。

問題は、その受け手が限られていること。EUROを通して、ボヌッチからのロングパスによって一気に前進する場面が見られたのは、左サイドで高い位置に進出したレオナルド・スピナッツォーラへのサイドチェンジがほとんどすべてだった。

爆発的なスピードと突破力を持ち、タイミングよくオープンスペースに進出してロングパスを引き出すスピナッツォーラは、ショートパスによるビルドアップを主体とするイタリアの攻撃にバリエーションをもたらす唯一の存在。その彼をベルギー戦途中にアキレス腱断裂という大怪我で欠いて以降、準決勝と決勝のイタリアはロングパスによる「出口」がなくなって攻撃が単調になり、危険な場面を作り出す頻度が明らかに下がった。

今のところスピナッツォーラと同レベルのパフォーマンスを保証できる攻撃的サイドバックはイタリアには見当たらず(後釜に入ったエメルソン・パルミエリはタイプが異なる)、その意味でスピナッツォーラが復帰後にこれまでのパフォーマンスを取り戻せるかは、W杯でのイタリアにとって生命線のひとつだと言わなければならない。

潜在的にロングパスの受け手となり得るポジションである前線の3トップは、CFのチーロ・インモービレ、ウイングのドメニコ・ベラルディ/フェデリコ・キエーザ、ロレンツォ・インシーニェのいずれも、DFを背負ってロングパスを収める体格を持っておらず、またタイミング良く裏のスペースに抜け出して50m級の「タッチダウンパス」を引き出す感覚も傑出しているとは言えない。

中盤を経由したグラウンダーのパスによる組み立てから決定機を作り出すクオリティの高さは、大半の試合においてそれを補って余りある実りをチームにもたらしてくれるが、それが行き詰まった時にオプションを提供できない点はひとつの限界だ。その点から見ると、かつてのピエルルイジ・カジラギ、クリスティアン・ヴィエリ、ルカ・トーニのような、屈強な大型センターフォワードを擁していないことは、ひとつのハンディキャップだと言うことはできる。

とはいえ、このイタリアはそうしたCFがいない代わりに、ジョルジーニョ、ヴェラッティを筆頭とするテクニカルなMF、そしてインシーニェやベラルディ、キエーザのようなクオリティの高い2列目のアタッカーを擁しているところが出発点であり、彼らの持ち味を最大限に引き出すために「ボール支配によるゲーム支配」という大元のコンセプトが設定されたことを考えれば、これは無い物ねだりに近い要求であることも確かではある。

ただ、ヴィエリやトーニほどの得点力は望まないにしても、EURO2016で1トップを務めたグラツィアーノ・ペッレのように、前線で基準点となってロングパスを収める能力を備えた大型CFは、ひとつの戦術オプションとして持っておいて損のない存在。その点から言えば、U-21世代のジャンルカ・スカマッカ、ピエトロ・ペッレグリという190cmクラスのCFが、これから始まる21-22シーズンに代表メンバー入りできるレベルまで成長してくれることを期待したい。

■CFの得点力

EUROを戦ったイタリアにおいて最も「物足りなさ」を感じさせたポジションがセンターフォワードだった、と言って反論する向きは少ないのではないかと思う。

7試合中6試合でスタメンを務めたチーロ・インモービレは、敵最終ラインの背後にスペースがある時、そこに飛び出してスルーパスを引き出しての得点を最も得意とする、というよりもほとんどそれに特化したタイプ。ポゼッションで相手を押し込んだ後、ゴール前の狭いスペースをコンビネーションで抜け出して、あるいはエリア内のこぼれ球に鋭く反応してゴールネットを揺らすプレーには、それほど優れているとは言えない。

2番手のアンドレア・ベロッティも、屈強な体格を活かしての突進が武器で、スペースのあるところで前を向いてボールを持った時に怖さを発揮するタイプ。やはりポゼッションで相手を押し込んだ後のフィニッシャーとしては物足りなさを残す。

とはいえ、今回の招集メンバーが示す通り、現時点においてはイタリアに彼らとポジションを争うレベルのCFは存在しないのが現実。これから1年半の間に成長し台頭する可能性のある若手も、前述のスカマッカ、ペッレグリ以外には、昨シーズン後半にPSGで活躍したモイゼ・ケーン、今回ウェールズ戦で15分だけプレーした小柄なセカンドトップのジャコモ・ラスパドーリしか見当たらない。その意味で、このポジションにも戦力的な上積みを期待するのはちょっと難しいと言わざるを得ない。

こうして見ていくと、イタリアは戦力的に2022年に向けてあまり大きな伸びしろは残っていない、という結論になりそうにも見える。ここまで見てきたCB、攻撃的なSB、レジスタ、CFというポジションに関しては、確かにそうかもしれない。しかし、それ以外のポジションには、さらなる戦力的な上乗せを期待できるタレントもいるし、また戦力的な欠落をカバーする戦術的な解決策が見出される可能性もある。

■ザニオーロの存在と偽9番

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ジョルジーニョの代役こそ不在の中盤だが、人材的にはヴェラッティ、バレッラ、ロカテッリ、ペッシーナに加え、今回故障でメンバー落ちしたロレンツォ・ペッレグリーニとステーファノ・センシ、さらにガエターノ・カストロヴィッリ、サンドロ・トナーリら、MF陣の層はきわめて厚い。マンチーニ監督にとっては、ジョルジーニョが全面的に担っているゲームメイク機能を複数のプレーヤーに分散するなど、異なる戦術的な解決を見出す余地が残されている。

前線の攻撃陣に関しては、二度にわたる膝の靭帯断裂で1年半近く戦列を離れ、今回のEUROも棒に振る形になったものの、新シーズンから復帰を果たすニコロ・ザニオーロがどんなプラスアルファをもたらしてくれるかが、最大の注目点。

190cmの長身にスピードとテクニックを併せ持ち、仕掛けからフィニッシュまで攻撃の全プロセスに絡むだけでなく守備のタスクもこなす現代的な攻撃的MFであるザニオーロは、キエーザと共にアッズーリの未来を担う絶対的なタレントとして大きな期待を集める存在だ。もし彼が新シーズンに順調な復活を果たせば、アッズーリにこのタレントをどのように組み込んで機能させるかが、マンチーニ監督の大きな「宿題」になってくる。

そこでひとつのヒントとなる可能性があるのは、イングランドとの決勝の後半に見られた、CFインモービレを下げてウイングのベラルディを投入し、インシーニェをウイングから中央に移して「偽9番」として機能させた采配。インシーニェが頻繁に中盤で組み立てに絡むことで、ボールサイドに数的優位を作りやすくなり、さらに前線の流動性も高まって攻撃の意外性が増し、立て続けにシュートチャンスが生まれたことは記憶に新しい。

キエーザ、ベラルディ、インシーニェ、ザニオーロ、ベルナルデスキ、ラスパドーリと2列目の選択肢がさらに増える一方で、CFに戦術にマッチした人材が得られない状況が続くのであれば、「偽9番」の導入によって彼らの出場枠をひとつ増やし、それを前提に攻守のメカニズムを再構築するというのも、2022年に向けてアッズーリにさらなる上乗せをもたらし、「スペインと優勝を争う」チームを築き上げるためのひとつの道になるかもしれない。


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