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日本代表・中国戦、最大の不安要素が一転、最大の収穫へ。谷口ー板倉“フロンターレ”CBコンビがもたらしたモノ

 日本代表は27日、カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の7戦目で中国代表を埼玉スタジアムに迎え、2-0で勝利を収めた。この試合では森保ジャパンの守備を支えてきた吉田麻也と冨安健洋が負傷で不在。戦前の最大の懸念事項となっていた。(取材・文=川端暁彦)

■吉田&冨安不在の緊急事態

 吉田麻也がいないと思ったら、冨安健洋までいなくなった——。キャプテンマークを預かる重鎮と、今や守備の大黒柱に成長した若武者の双方が不在。中国戦に向けた最大の不安要素がこの一点だったことは言うまでもない。

 代役のチョイスについても難しい要素が含まれていた。一人が板倉滉であることに森保一監督の迷いはなかったはずだ。東京五輪の初戦でも、前日練習で負傷した冨安に代わって出場して安定したパフォーマンスを見せており、国際経験も豊富。地力の点でもメンタル的な部分でも計算は立つ。

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 問題はその相方だ。過去の実績からいけば植田直通となるところだが、所属チームがコロナ禍の影響で活動を停止した時間が長く、実戦から離れてしまっており、時期的な問題からコンディション面で優位にあるはずの欧州組にあって、最もコンディションを不安視される選手となってしまっていた。またボールを持つ時間が長くなることが想定される中国戦では、CBからの持ち出しやパス出しが強く求められる。そう考えると、植田の特長が求められる試合ではない。

 となると、国内組の選手に白羽の矢を立てるのは自然なところで、森保監督が選んだのはJリーグ王者・川崎フロンターレの中軸、今年31歳になる熟練のDF谷口彰悟だった。

 谷口はここまでA代表出場はわずか5試合(先発3試合)で、本人が「(代表での)国際試合の経験はそれほどない」と語るとおりではある。森保監督の下では昨年のキリンチャレンジカップ・セルビア戦が唯一の先発出場だが、アジア2次予選でもメンバー入りして途中出場するなど大枠の候補には入り続けていた選手だ。

 過去には2度の東アジアカップ(EAFF E-1選手権)も経験し、何より川崎FでAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を戦った経験がある。今回の相手は、「ACLでやった中国のチームと似ている」、ブラジルからの帰化選手を主軸に据えた中国代表で、イメージは持ちやすかったのも幸いしたようだ。

 そして、この二人の相性も抜群だった。

 川崎Fで3シーズンを共に過ごしていると言っても、同時にピッチに立った経験はそれほどない。だが、森保監督が練習から「息が合っている」と感じていたとおり、関係性は実にスムーズだった。

 かつて板倉にとって谷口は憧れの先輩であり、大きな壁でもあった。それだけに「よく知っているので」という言葉には実感もこもっていたが、小学生から川崎Fで育って成長を求めて仙台、そして海外に旅立った“フロンターレっ子”と、ずっと川崎Fを支え続けた現主将が代表でCBコンビを組んで見事なプレーを見せたのは、二人をよく知る関係者やサポーターにとって特別な意味があったに違いない。

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■予選前、国内組合宿の意味

 チームとして言えば、もう一つの不安要素だったコンディショニングの問題がある程度クリアできていたことが大きかった。

 森保監督も試合後、勝因の一つとして「国内組、海外組とコンディションがバラバラな中、コンディションを合わせてくれた」ことを挙げているが、1月末というタイミングはシーズン真っ只中の欧州組とオフ明けの国内組のギャップが最も大きい時期である。このため、国内組が試合に向けてどこまでフィジカルコンディションを整えられるかは大きな焦点であり、不安要素でもあった。

 その意味では国内組のみで張った予選前の合宿にも大きな意味があったという面もある。

 Jリーグ各クラブの協力を得て、候補となる選手を招集。パリ五輪世代の若手選手たちは予選の戦力というより将来に向けた投資として呼ばれた面もあったように思うが、酒井宏樹や大迫勇也、長友佑都、権田修一といった主力選手や、谷口彰悟や中谷進之介のようなそれに続く候補選手たちの状態を確認しつつ、高められたことは大きな意味があった。ウズベキスタンとの親善試合は中止になってしまったものの、代わって流通経済大学との練習試合を急きょ組んで最低限の試合勘も醸成。この試合に備えることができた。

 とはいえ、今回の対戦相手である中国が凡庸なパフォーマンスだったことは差し引いて考えておく必要がある。次の相手はグループ首位を走るサウジアラビア。板倉が「間違いなく今日とは違ったゲームになる」と勝って兜の緒を締めたように、谷口と板倉の“フロンターレコンビ”が、特に守備面での強さを問われる試合になることは確かだろう。

 最大の不安要素だった盤石CBコンビの不在は、逆に言えば、二人のバックアップ、そして競争相手の不在という問題を解消する絶好機でもある。真剣勝負の中で集団としての成長を得られるのが予選という舞台。盤石の二人に代わった“フロンターレコンビ”が異なる個性を見せつつ輝いたのは、小さからぬ収穫と言えるだろう。

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