これまで首を長くして得点力のあるMFの加入を待ちわびていた彼らだったが、今冬にはたったの数時間で3人が加わることが決まった。
エヴァートンにとっては間違いなく、ドラマティックな移籍市場最終日だった。
市場が閉まる目前で、彼らは新たな指揮官と2人の素晴らしい選手と新契約を結んだのだ。2人はかつてプレミアの中でも最も注目度の高いプレーヤーだったが、現在そのキャリアは下降気味であり、グディソン・パークでの再起を狙っている。
Getty Imagesエヴァートンにとって、6年に満たない期間の中で7人目の監督として正式就任したフランク・ランパードに期待されることは明確だ。それは近年他の監督ができなかったこと、つまりドニー・ファン・デ・ベークとデレ・アリの真の実力を引き出してやることだ。
ランパードが引き継いだチームは今季不振にあえいでいる。プレミアリーグでの順位は16位に沈んでおり、直近の15試合で一度しか勝利を挙げることができていない。
他チームよりも消化試合が少ないとはいえ、現在彼らが立たされているのは、降格圏からたったの2ポイント上の位置だ。直近では、直接のライバルであるニューカッスルに敗れたのが本当に痛かった。
ファン・デ・ベークやデレ・アリが期待通りの活躍を見せれば、最悪の事態は免れるだろう。また彼らの最近の調子はどうあれ(出場機会すら得られていないともいえるが)、エヴァートンが2人の才能豊かなフットボーラーと契約を結んだことは事実であり、彼らの状態がベストであれば、即戦力のスタメンとして起用できる。
そして彼ら自身も、自分たちに実力を証明する力がすべて備わっていることを理解している。
現在それぞれ24歳と25歳の彼らだが、ファン・デ・ベークもデレ・アリも、このようなキャリアを歩むことは想像していなかったかもしれない。だが今立っている場所こそが彼らがたどり着いた場所であり、大げさに聞こえるかもしれないが、グディソン・パークでの失敗は、彼らのトップレベルでのキャリアに終止符を打ってしまいかねないのだ。
■ファン・デ・ベークの挑戦
(C)Getty Imagesここに至るまでのファン・デ・ベークは様々なことを経験した。
ヨーロッパで最も有望な若手の一人として2020年にマンチェスター・ユナイテッドに加入した彼だったが、オールド・トラッフォードではこれといったインパクトを残せず、誰もがその実力に首をかしげた。
デビュー戦でこそゴールを挙げたものの、それ以降彼が重要な役割を担うことはほとんどなかった。彼がプレミアリーグでスタメンを飾ったのはたったの4試合であり、出場もトータルで19試合にとどまった。
彼がユナイテッドで挙げたもう1つのゴールは皮肉なものだった。それはオーレ・グンナー・スールシャール政権下でもたらされた最後のゴールであり、彼こそがファン・デ・ベークの獲得を望んだ本人で、起用を渋ってきた監督だったからだ。
擁護するわけではないが、スールシャールの後継者であるラルフ・ラングニックもそのやり方を踏襲したまでだ。チャンピオンズリーグ2試合ではスタメン出場を果たしたファン・デ・ベークだったが、プレミアではこのドイツ人指揮官の下、5回の途中出場で許されたプレー時間はたったの9分だったのだ。
Getty/GOAL3500万ポンド(当時のレートで約52億9000万円)の契約はとんでもない失敗に終わったわけだが、この先彼が批評家やスールシャール、そしてラングニックを見返すプレーができるかどうかが注目される。
「イングランドの人々に自分のクオリティと力を示したい」
彼は今シーズン終了時までのレンタル移籍が決まった後、そのように語っていた。
自らのコンディションは良好であり、ランパードの指導の下さらに成長するための準備は整っているとも語っていたが、その言葉が真実であるかどうかは時間が経てば分かることだろう。
■デレ・アリの復活
(C)Getty Imagesデレ・アリに関していえば、イングランドの若手プレーヤーの中でも突出していた頃の調子を取り戻せるかどうかが問題となる。
彼がトッテナムで居場所を無くしていったのは驚くべきことだった。マウリシオ・ポチェッティーノの力強く、ハングリー精神を持ったチームの中で不可欠な存在だった彼は、蚊帳の外へと追いやられ、アントニオ・コンテにエヴァートンとの2年半の契約を結ぶことを許し、チームを去ることになってしまった。
絶頂期というものはそう長く続くものではない。
「プレーすることの喜びを感じたいだけなんだ」
彼はそのように語っていたが、これは彼がその喜びを感じられていなかったことの裏返しだろう。
スパーズにおける最初の3シーズンで146試合に出場し、当時20歳だった2016-17シーズンではプレミアで18ゴールを挙げた彼が、過去2シーズンのプレミア出場が25試合にとどまり、たったの1ゴールしか挙げられていないのだから、そのキャリアがいかに急激な下降線をたどってしまったのかが分かる。
当時のデレ・アリは将来を嘱望されていた。運動量の多い攻撃的MFであり、貪欲さやセンス、したたかさまでをも兼ね備え、さらにはチャンスを演出するだけでなく、自らゴールを狙うこともできる選手だったのだ。
彼やハリー・ケイン、そしてソン・フンミンはトッテナムという王冠を飾る宝石だった。ポチェッティーノは彼らを起用することで、チャンピオンズリーグ決勝まで登り詰めることができたのだ。
信じられないことにまだそれから3年も経っていないが、ケインとソンはその地位を揺るぎないものにしたのに対し、デレ・アリは急速に輝きを失ってしまった。
ポチェッティーノが去り、ジョゼ・モウリーニョの愛のムチには大した効果がなく、ヌーノ・エスピリト・サントやコンテさえも彼の輝きを取り戻してやることができなかった。
果たしてランパードにはできるだろうか?当然のことかもしれないが、ファン・デ・ベークとデレ・アリはともに新たな指揮官にリスペクトを持って接している。
思いのほか早くチェルシーを去ってしまった彼への批判がどんなものであれ、彼の献身性・決断力・一貫性はお手本のようなものであり、近代フットボールにおける偉大なMFの1人であり続けていることは確かだ。
もしそのクオリティが少しでもファン・デ・ベークやデレ・アリに乗り移れば、エヴァートンは軌道修正に成功することだろう。
とはいえ、過度な期待は禁物だ。
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