20210102_Nakamurakengo_Oniki(C)J.LEAGUE

中村憲剛と鬼木達監督の“ガチ”な関係。国立競技場で交錯した二人の思い

■「鬼さんはガチだからね」

 元旦の新国立競技場。天皇杯決勝のピッチ脇で二人の思いが交錯していた。

 試合に出たい、試合に出させたい。

 今季限りでの現役引退を発表した中村憲剛の生涯ラストゲーム。18年に渡り川崎フロンターレでプレーしてきた偉大なバンディエラとしては、最後の試合でピッチに立ちたいという思いが人一倍強かったことは間違いない。

 一方、中村が加入した2003年時は互いに選手としてプレーし、その後、コーチ、監督として共に歩んできた鬼木達監督としても、背番号14をピッチに送り出してあげたいという思いを持っていたのは明らかだった。

 しかし、最後まで中村がピッチに立つことはなかった。

「結果がすべてですし、それもまたサッカー」(中村)

 勝利のために何をすべきか。優勝するために何をすべきか。2017年に初めてタイトルを獲得した時から、そこを追求したのは他ならぬ二人だった。だからこそ、この日に下された選択に、悔しさはあっても、後悔することはない。

「憲剛の最後のゲームだったので使ってあげたかった。今まで一度も言ったことはないけど、今日に限っては、もう引退する選手だったので使えなくて申し訳ないという話をしました。もちろん憲剛はチームの勝利が優先だからと話してくれましたし、本当に自分の頭の中も分かる選手なので、そういうやり取りを最後にしました」(鬼木監督)

「2020年で止まる人間をどう関与させるかは鬼さんも考えに考え抜いてくれたと思います。もちろん、出してあげられたらという話しはされましたけど、それは監督の判断。俺もベンチで戦っていて、俺でもそうするなと思いました」(中村)

 二人の言葉を聞き、改めて中村がよく話していたことを思い出した。

「鬼さんはガチだからね」

 “川崎Fの中村憲剛”は特別な存在である。長きに渡ってチームを牽引してきた男は、ファン・サポーターから称賛され、チームメイトからも尊敬される川崎Fを象徴する選手だった。

 ただ、鬼木監督は“中村憲剛”を特別扱いしなかった。周りの選手たちのレベルが上がってきた中で、中村がそこに達していないとなればピッチに立たせることはなかったし、ピッチに立っていても運動量が落ちてきたり、パフォーマンスが悪ければ容赦無く交代を指示した。

■勝利のために重なる思い

20210101_Nakamura_Kengo(C)Atsushi Tokumaru

 これまでとは違ったアプローチは、中村に刺激を与えた。重要なゲームであってもピッチに立てない。まだ行けると思っても交代されてしまう。だからこそ、さらにうまくなろうとトレーニングに向かった。キャリア終盤にさらなる成長を遂げられた要因の一つは、鬼木監督の就任と言って差し支えないだろう。

 かつて共にプレーしてきた盟友である一方で、いまの立場は監督と選手。今までの関係性はピッチ上に必要ない。目の前の試合に勝つために何をすべきかを考える鬼木監督は、中村にとって勝負に対して本気で勝ちを求める“ガチな人”だった。

 だから、最後の試合、ピッチの状況を見ながら選手起用をした鬼木監督も、ピッチ脇で声を張り上げてチームメイトを鼓舞していた中村も、試合で為された決断は納得できるものだったのではないだろうか。

「こんな幸せなサッカー選手はいないと思います。みんなに感謝です」

 もちろん悔しい思いを抱えているに違いない。

 それでもチームのため、勝利のために戦ったラストゲームを、初の天皇杯優勝という形で締めくくることができたことは忘れられない思い出となるはずだ。

 プロ生活18年。多くのサッカーファンに夢を与えた中村がピッチを去る。次なるステージでの挑戦を楽しみにしたい。

取材・文=林遼平

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