2021年11月22日、時計は早朝4時を回ったばかりだった。アンソニー・エランガが、マンチェスター・ユナイテッドの練習グラウンドの駐車場に現れた。
だが、この光景は、キャリントン練習場の警備員たちを驚かせるものではなかった。エランガはすでに3週間前から同じことをしていたからである。
そう、エランガは常に入念な準備をする選手なのだ。UEFAユースリーグのビジャレアル戦とアタランタ戦を前に、早朝のフライトでスペインとイタリアへ行くこととなり、チームの出発時間よりもたっぷり1時間半前にジムでトレーニングをするためにやってきたのである。
つまりエランガは、ユースチームの試合にコンディションを合わせるべく、グレーター・マンチェスターのハイドで家族と暮らしている家を、朝早くに出てきたのだった。
この用意周到さにより、エランガは一気にスターダムの階段を上った。わずか3か月で、ユースリーグではなく、チャンピオンズリーグの決勝トーナメントで得点を記録。マンチェスター・Uにとって厳しいシーズンとなった今季において、数少ない明るい話題を提供してくれている。
チャンピオンズリーグのラウンド16ファーストレグ、ワンダ・メトロポリターノで行われたアトレティコ・マドリー戦でのエランガの同点ゴールは、マンチェスター・Uの準々決勝進出への希望をつなぐものであった。結局は敗退となったものの、セカンドレグでも先発し、ラルフ・ラングニック監督からの厚い信頼を得ている。
■これまでの歩み
(C)Getty Imagesエランガの卓越したメンタリティーと、プロとして必要なことは何でもするという意欲は、スウェーデンのマルメでDFとして活躍した父親のジョセフ譲りである。
エランガは必要なことをしっかり学んできた。父親の元チームメイトであるズラタン・イブラヒモヴィッチからも、少年時代を過ごした街からも、今後20年にわたって世界で最も優れた選手の一人となる選手の知恵を身につけてきたのである。
父親ジョセフと母親のダニエラは、決して自己満足に陥ることなく、集中力のある選手へと息子を育てあげた。それにエランガはピッチを離れても礼儀正しく周りを明るくできるタイプだ。
エランガのサッカー人生はIFエルフスボリのアカデミーから始まり、その後マルメで11歳までプレーした。それから母親の希望で、一家はイングランドに引っ越すことになる。
この転居の後、エランガはテームサイドのハタスリーFCに入り、最初の練習の10分間でコーチ陣に強烈な印象を与えた。1シーズンを終えると、わずか14試合で17得点27アシストを記録し、チームの年間最優秀選手に選ばれたのだった。
その後、マンチェスター・Uが12歳のエランガをアカデミーに入れるべく迅速に動いたことは驚くに値しない。以降、彼はマンチェスター・Uで出会ったすべてのコーチの印象に残る働きを見せている。
エランガは世界の名選手たちのビデオを徹底的に視聴し、彼らの真似をする練習を続けた。特にティエリ・アンリが彼のアイドルだった。
エネルギッシュで俊足のウイングであるエランガは、2020年にジミー・マーフィー年間最優秀若手選手賞を獲得したが、2021年初頭に肩を負傷し、今までのような成長は望めなくなったかに思われた。
ところが、エランガは故障明けにはより力強い選手になるべく、ジムで体を作ることに時間を費やした。こうした個人練習を繰り返して、今シーズンを迎えたのである。
■今季急成長
Getty2021年5月、エランガは当時トップチームのコーチだったキーラン・マッケナの推薦を受け、オーレ・グンナー・スールシャール監督の下でついにトップデビューを果たす。プロとして一歩を踏み出したことで、その夏エランガはさらに成長しようと練習に励むことになるのだった。
19歳のエランガは個人コーチとともに練習し、特に爆発的なスピードと高いジャンプ力を獲得してヘディングの能力を高めることに集中した。マンチェスター・Uで選手の発掘と教育を担当するジャスティン・コクラン氏もエランガの指導に時間を割き、ゴールパターンを増やした立役者の一人だ。
「スタッフたちは何年にもわたってエランガとともに働いている。何よりもまず、彼は素晴らしい若者だ。才能があり、実力があり、性格もいい。率直だとも思う。彼のトップチームでの振舞いや、それ以前にユースでやってきたことを見てごらん。いつの練習でも、彼のポテンシャルは素晴らしかった。今はまだスタートラインに立ったばかりだ。彼が我々を驚かし続けてくれることをみんな期待している」
彼の率直さは、プレシーズンマッチのQPR戦で、トップチームのコーチ陣の目に留まり、エランガは途中出場でゴールを記録する。ロフタス・ロードでのこの試合の後、あるスタッフは、エランガは今シーズン中にトップチームへと昇格すると予言していた。
そして、そのとおりになった。
■ラングニックと出会い飛躍
(C)Getty Imagesもちろん、エランガが真にチャンスをつかむには、ラングニック監督の登場が必要だった。
スールシャール前監督の下でチャンスは限られていた。シーズン前半は主にU-23でプレーしており、1月の移籍市場を前にレンタルの話も出ていた。プレミアリーグのあるチームとチャンピオンズリーグに参加する多くのクラブが、エランガに興味を示していた。
だが、ラングニック監督が彼を離さなかった。残留した経緯について指揮官はこのように説明している。
「エランガは12月5日の(クリスタル)パレス戦に出場したが、その1週間後、私は彼にこう言った。『いいかい、私は君に残ってほしい。移籍市場が終わるまで、君がどのようにトレーニングし、試合でプレーするか、私は見たいと思っている』と言ったんだ」
「まさに今、彼は正しいメンタリティーと正しい試合への取り組み方をもって、サッカーにおける可能性を示している。それこそが、彼がこれまでやってきたことであり、どんな練習でも常に彼がやっていることだ」
ブルーノ・フェルナンデスは、エランガがトップチームに昇格して以来、彼をサポートし続けている。クリスティアーノ・ロナウドもシュートを打つ際のテクニックとメンタリティーについてアドバイスを送っているという。
そのメンタリティーと、試合前に必ず民間の寒冷療法センターに行くなどの「決められたルーティン」を守ることも含め、その才能でもって今シーズン大ブレイクを果たしたのであった。
(C)Getty Imagesアトレティコ戦でゴールを決めたエランガは「夢がかなった」と表現した。初期のさまざまな兆しを見れば、この快挙を皮切りに、スウェーデン代表でもデビューした若者は、今後もユナイテッドの一員として記憶に残っていく瞬間を生み出してくれるはずだ。
ただ、大人になっても早朝のジムでのトレーニングはやめないでほしいと願うばかりだ。


