色々な意味で、ダルウィン・ヌニェスの移籍は典型的なリヴァプールの補強のように見える。
そして同時に、このウルグアイ人ストライカーの加入により、時期的には遅すぎるくらいではあるが、アンフィールドにおいてとても重要な戦術の変更がなされるだろう。
ヌニェスの移籍金は6400万ポンド(約104億円)。金額はその後の活躍次第では上がる可能性があり、2018年1月にヴィルヒル・ファン・ダイクがサウサンプトンから加入した際の移籍金7500万ポンド(約121億9000万円)を抜いて、クラブ最高記録になる可能性もある。
また、レッズが「伝統的な」センターフォワードの選手に大金をつぎ込むのは、クロップ政権下では初めてのことだ。まさに「時代が変わる」のだ。
ヌニェスはベンフィカでは時々左サイドでプレーしていた。今年の初めにチャンピオンズリーグ(CL)でアンフィールドにやってきたときもそうだった。だが、リヴァプールでは得点力のある9番として大きな期待を寄せられている。2021-22シーズンは41試合34得点という結果を見るに、良い方向に成長していることがわかる。
そして、ヌニェス獲得により、クロップの戦術的な重点が移ることになるのは間違いない。
■“MSF”解体で新たな3トップ形成か
GOAL長い間、クロップのシステムはロベルト・フィルミーノを中心に進化してきた。仲間を活かし、ハードなプレッシングを厭わない「偽9番」としてのフィルミーノの技術によって、サディオ・マネや、特にモハメド・サラーは輝きを放ってきた。当時好不調の波が激しいと言われていた2人のウインガーは、世界トップクラスの得点力を誇るアタッカーに成長を遂げた。
この3トップは数字上でも素晴らしい結果を残した。5シーズン合計で338得点を挙げ、獲得できるタイトルを総なめに。そのうちマネとサラーだけで263得点を記録した。
"MSF"が作った思い出は数えきれない。
だが、フィルミーノの影響力はここ2シーズンで徐々に小さくなり、マネはバイエルン・ミュンヘンへの移籍に近づいている。サラーは少なくとももう1年はクラブに残るが、“解体”はすぐそこに迫っている。
そこで、クロップにとってのチャレンジは、再び素晴らしいアタッカー陣を再構築することだ。
ヌニェスがやってきて、さらに7月にはフラムから10代の注目株ファビオ・カルヴァーリョが加わる。必要なピースは揃っているのかもしれない。
2020年にウルヴスから加入したディオゴ・ジョタは、2シーズンで34得点を記録。結果的に素晴らしい進歩を遂げた。1月にポルトから加入したルイス・ディアスの与えたインパクトも大きく、控えめに言っても素晴らしいパフォーマンスだ。
このコロンビア人は、今シーズンクラブが戦った3度の決勝戦すべてに先発し、このうち2戦でMOMを受賞した。左サイドにおいてマネの後継者になりそうだ。
■長く追ってきた逸材
Gettyジョタ、ディアスの成功があったようにリヴァプールは確実にチームにフィットする新戦力を見つけ出してきた。ヌニェスに対しても相当長く目をかけており、モンテビデオのペニャロール在籍時から、2019年にスペインのアルメリアに移るまで、彼の成長を追い続けていたのだ。
レッズの新たなスポーツダイレクターであるジュリアン・ウォードは、特にポルトガルにコネクションを多く持っている。ヌニェスについては、プロ精神、サッカーに対する向き合い方、成長意欲について高く評価する報告を出してきた。
ウォードはベンフィカのテクニカルダイレクターであるペドロ・マルケスや、代理人のジョルジュ・メンデスとよい関係にある。このことから、ヌニェスとの契約は高額であったにもかかわらず、交渉は円滑で友好的に進んだ。
当のヌニェスも、アンフィールドへの移籍を常に熱望していた。
クロップも「スーパーニュース、本当にスーパーなニュースだ。これを実現させたクラブの全員にとても感謝している」と喜ぶ。レッズのボスは、4月に行われたCL準々決勝でベンフィカと対戦したときのことを印象強く覚えていたのだ。
Getty/GOALヌニェスは準々決勝の2試合で得点を記録。エスタディオ・ダ・ルス(ベンフィカの本拠地)ではリヴァプールが3-1で勝利したが、ヌニェスはイブラヒマ・コナテと激しいバトルを繰り広げた。その8日後にはアンフィールドで何度もタイミングのよいランでリヴァプールを翻弄し、3-3のドローに持ち込んだ。
試合後にクロップは「ケガさえしなければ、(彼には)素晴らしいキャリアが待ち受けているだろう」と語っていた。このときにはすでに、今夏アンフィールドにこの大きなFWを迎え入れる可能性があることを知っていたのだろう。
移籍金が高額だったことから当然疑問の声も挙がったが、リヴァプールはヌニェスに対して、フィルミーノ、サラー、マネ、ジョタらがこれまでに成し遂げたことと同じレベルの期待を持っている。
22歳のヌニェスは、成長の速さの点では上記の4人に比べても分がある。ヌニェスはこの4人よりも契約時の年齢で1歳から2歳若いのだ。
■先輩L・スアレスも注目する逸材
Gettyマンチェスター・シティがアーリング・ハーランドを獲得し、カリム・ベンゼマ、ロベルト・レヴァンドフスキ、ハリー・ケイン、キリアン・エンバペ、ドゥシャン・ヴラホヴィッチ、クリスティアーノ・ロナウドといった選手たちがコンスタントに素晴らしい成績を収めている。そんな中、リヴァプールがストライカー獲得競争に参加するのは興味深い。ヌニェスがスタイルや経験の面で上記の選手と異なるとしてもだ。
クロップのチームは得点力不足に悩むことがほとんどなく、2021-22シーズンは63試合で147得点を記録した。サラー、マネ、ジョタは3人とも20得点以上を挙げている。だが、3つのカップ戦決勝では330分を戦い無得点に終わった。ここから得た教訓が心に響いたのだろう。
フィルミーノはゴール前での嗅覚は決して高くはない。さらにマネがいなくなり、マネほど影響は大きくないにせよディヴォック・オリジもチームを去り、ゴールにかかる重荷はほぼすべてサラーにのしかかるだろう。もちろんサラー自身は、それに対して不平を漏らすことはないだろうが。
知っての通り、リヴァプールは以前にウルグアイ人のストライカーを従えて成功を手にしたことがある。ヌニェスがいる今、彼についてここでは語らないが、3年半の在籍期間中にアンフィールドで輝きを放ったルイス・スアレスは、すでにダルウィン・ヌニェスのファンだという。
「フォワードのことについては“多少は”知ってるからね。だから(バルセロナに)『彼はいいぞ、よく見ておいた方がいい』と言ったんだ」
だが、チャンスに飛び込んだのは、スアレスが在籍したもう一つのクラブであった。
間違いなく賭けの要素が強いが、クロップはその賭けが報われることを望んでいる。偉大なリヴァプールのチームが再び形成されつつある。


