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王者に見せつけられた圧倒的な差…チェルシー、大型補強が招いた迷宮入りの危険

圧倒的な差

「4-4-2」なのか「4-3-3」なのか、それとも……。果たしてフランク・ランパード監督は、正解に辿り着くまでに何通りの組み合わせを試さなくてはいけないのだろうか。

今夏のチェルシーは、補強を禁じられた昨夏の鬱憤を晴らすように大型補強を敢行した。それでも「ひと夏」と「2億ポンド」だけでは王者との差を埋めるには至っていない。20日に行われたプレミアリーグ第2節、チェルシーは今シーズン最初の“ビッグ6”直接対決で、まざまざとリヴァプールに実力の差を見せつけられた。

DFアンドレアス・クリステンセンの一発退場さえなければ……。MFジョルジーニョのPKが……。GKが違えば……。豪華な新戦力が全員揃っていれば……。そんな“たられば”はいくつもあるが、現時点ではチェルシーに優勝争いへの参戦資格はない。

迷宮入りの危険

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夏に加入したFWティモ・ヴェルナー、MFカイ・ハヴェルツ、MFハキム・ツィエク、DFチアゴ・シウバ、DFベン・チルウェルが揃ってピッチに立てるようになれば楽しみだが、それと同じくらい、いや下手すればそれ以上に不安が付きまとう。

リヴァプール戦では、苦しみながら3-1で勝利したブライトンとの開幕戦からシステムを変更。ヴェルナーとルベン・ロフタス=チークを最前線に並べた4-4-2から、王者と同じ4-3-3を選択してハヴェルツを最前線の中央に配置した。

開幕戦で中盤の右を任されていたハヴェルツは、189㎝の長身で懐が深く、ボールを収めることができる。レヴァークーゼン時代の昨シーズン終盤にも1トップを任されて5試合で6ゴールの結果を残しており、センターフォワードとしても十分に機能する。現にリヴァプール戦でも何度かポストプレーで攻撃の起点になっていた。しかし、右サイドで燻った初戦同様、あまりにもボールに絡む機会が少なく宝の持ち腐れに終わった。

一方、ヴェルナーは2トップを任された開幕戦に続いて左サイドでも確かなインパクトを残した。常に裏を狙う直線的なランニングは今季のチェルシーの最大の武器になるだろうし、ポジションに関係なく活躍するはずだ。しかし、皮肉なことにそれがチームにとっては厄介な問題となっている。

チェルシーの豪華な攻撃陣は、右ウィングに定着するだろうツィエクを除けば、あまりにも万能型が多いのだ。クリスティアン・プリシッチまで復帰したら誰をどこに配置するのか。そもそも、誰の能力を優先すべきか。そして「4-2-2-2」なのか「4-3-3」なのか、それとも「3-4-2-1」なのか。1万通りの組み合わせがある4桁のダイヤル式ロックを手探りで解錠するような、そんな迷宮入りの危険さえある。

もちろん当てずっぽうではない。試すべき選択肢は有限だし、ランパード監督は既に目星をつけているからこそハヴェルツを最前線に置いたのだ。その工程の中で「プランA」だけでなく有効な「プランB」まで見つかるかもしれない。しかし、今季に限っては試行錯誤のチーム作りは避けるべきだった。コロナ禍の影響で十分なプレシーズンを送れず、チェルシーもフレンドリーマッチは1試合だけで、チームの和を育む夏合宿さえも張れなかったのだ。

責任感

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だから“完成度”は、6シーズン目を迎えたユルゲン・クロップ体制とは雲泥の差があった。そしてチームのメンタリティにも計り知れないほどの差を感じた。この試合の最大のターニングポイントは前半終了間際のクリステンセンの退場だ。それまではゴールレスの展開だったので、一見すると互角に思えるかもしれない。だが、それは違う。

ランパード監督は試合後に「退場が全てを変えた」と悔やんだが、そのレッドカードにも如実に両者の差が表れていたのだ。リヴァプールはGKアリソンが捕球したあとMFジョーダン・ヘンダーソンへとつなぎ、そこから一本のパスで決定機を作り出した。クリステンセンが抜け出そうとしたサディオ・マネを慌てて引き倒して一発退場になったわけだが、あのヘンダーソンのロングスルーパスを蹴れる選手が果たしてチェルシーには何名いるだろうか。

恐らくリヴァプールはGKアリソンを含めて全選手が蹴れるはずだし、実際に蹴っただろう。しかしチェルシーでは前線の選手を除けば、ジョルジーニョとマテオ・コヴァチッチ、もしかすると右SBリース・ジェイムズ程度だ。最前線を見る癖、そこに蹴る決断力、そして例えボールを失っても最善のプレーをする“責任感”。そこに一朝一夕では埋められないほどの実力差を感じた。

とりわけDFラインの能力差は顕著だった。チェルシーの両センターバックは中盤のジョルジーニョにボールを預けるだけで、有効打となるパスを出せない。そこは新戦力のチアゴ・シウバに期待するとしよう。合流間もないためベンチ入りしなかった同選手は、昨季のパス成功率が驚異の「95.5%」。プレミアリーグ公式HPの記事によると、欧州5大リーグで最高値だったという。さらにロングパスも「76.4%」を記録しており、ヴェルナーの鋭い走り出しに合わせ、さながらフィルジル・ファン・ダイクのように決定的なパスを供給するはずだ。

“責任感”という意味では、ジョルジーニョのPKシーンも象徴的だった。GKアリソンに止められたあと、いち早くこぼれ球に反応したのは赤いユニフォームだった。ファン・ダイクとジェイムズ・ミルナーがぶつかりながらクリアし、チェルシーは最大の好機を逃したのだ。

それから、こんな日が来るとは思わなかったが、最強リヴァプールに対抗するにはMFエンゴロ・カンテさえも物足りなく思える。もちろんこの試合も圧倒的な運動量で広範囲をカバーしていた。だが、対峙したジョルジニオ・ワイナルドゥムが積極的にシュートを放つ中、カンテはチャンスに顔を出しながらもシュートをためらいボールを戻してしまっている。

そして何といってもGKである。チェルシーで一時代を築いたジョン・テリーが当時チームメイトのGKペトル・チェフについて「12~15ポイント」の価値があると語ったように、プレミアリーグの歴史においてGKの活躍なくして優勝したチームはいない。事実、日曜日の試合だってミスで失点したケパ・アリサバラガとPKを止めたアリソンを入れ替えたら結果が変わったかもしれない。ケパの真価に関係なく、ここまで信頼を失ったら守護神としては難しい。レンヌから加入予定のGKエドゥアルド・メンディに期待するほかない。

暗証番号

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そう考えると、チェルシーの問題は山積みだ。このまま試行錯誤が続けば、優勝争いは愚か、トップ4陥落の危険さえある。だからこそ、ランパード監督は誰を軸に据えるのか早急に決断すべきだ。それができなければ、例えクラブの英雄であっても、2年目は志半ばで終わるかもしれない。

だからこそハヴェルツという“難題”は後回しにして、開幕2試合で発見したヴェルナーという武器を最大限に活かすべきだろう。そうなると、恐らくFWオリヴィエ・ジルーと組ませるのが手っ取り早い。だが、それが正しい“暗証番号”だという保証もどこにもない。

文=田島大

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