かつてボルシア・ドルトムントで香川真司やウスマン・デンベレらを発掘し、“ダイヤモンド・アイ”の異名を取ったチーフスカウト、スヴェン・ミスリンタート氏。チーム作りにおいて「勇気」の必要性を語った。
現在53歳のミスリンタート氏は、ドルトムントのほかアーセナルでもスカウト部門の責任者を務め、シュトゥットガルトとアヤックスでスポーツディレクターを歴任。2024年5月にドルトムントへテクニカルディレクターとして復帰したが、昨年2月に解任されると、同年12月にはブンデスリーガ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフのスポーツ部門責任者に就任した。
そんなミスリンタート氏はドイツ紙『FAZ』のインタビューに応じ、自身が「衝突を恐れないリーダー」と評されることや、デュッセルドルフでの職務にやりがいを感じた理由などについて説明。また、補強ポイントが必ずしもアンカーと見られていなかったチームに、自身が主導する最初の補強としてMF田中聡を連れてきた理由について問われると、「この移籍がここまでうまく機能していることを非常にうれしく思う」と切り出し、獲得の舞台裏を明かした。
「就任後すぐに監査役会との最初の話し合いで、このチームの長所を結びつけ、バランスを取ることのできる“つなぎ役”の選手が必要だと伝えた。これまでその役割を担っていた優れた選手たちは次々と他クラブへ移籍していったからだ。前半戦はそのタイプの選手が欠けていた」
「だからこそ、田中がまさにその役割を果たしてくれると考えた。実際には、そうした選手の不在を強く意識していた人はほとんどいなかったが、アンカーというポジションではよくあることだ。このタイプの選手は目立たないことも多いが、周囲の選手をより良くする。こうした移籍を実現できたことに非常に感謝している」
インタビュアーは、田中のように欧州では無名の選手を獲得することは、香川やデンベレを獲得した2010年代に比べて、ドルトムントのようなクラブでは難しいのではないかと質問。「2部クラブの方が、自分たちのレベルに合う未発掘の選手を見つけやすいのではないか」と問いかけられると、ミスリンタート氏はこう語った。
「それは、とりわけ勇気の問題でもあると思う。どのクラブにも、そしてどんな予算にもそれぞれ異なる課題がある。ドルトムントでは今、田中聡のような選手だけを獲得するわけにはいかないだろう。セルー・ギラシやパスカル・グロス、あるいはヴァルデマル・アントンのようなリーダー格の選手も必要になる」
「予算は変わっていくが、本当に重要なのは、その選手が求められるレベルでプレーできると信じる勇気だ。これまでどのクラブでも、周囲から『なぜそんな補強を?』と言われるような選手をあえて獲得してきた。シュトゥットガルトの現在のキャプテン、アタカン・カラゾルはキールから100万ユーロ未満で獲得した。遠藤航(現リヴァプール)は150万ユーロの買い取りオプション付きのレンタルだった。伊藤洋輝(現バイエルン)やエンゾ・ミロ(現サウジアラビアのアル・アハリ)も、デュッセルドルフでも実現可能な規模の移籍だった」
ミスリンタート氏は、選手獲得のプロセスについても説明。どの移籍にも多くの時間と労力を費やしているという。
「もちろん、すべての移籍の裏には膨大な作業と、チーム全体に対する非常に綿密な分析がある。重要なのはデータであり、さらにバックグラウンドの調査も行う。選手がどんな投稿をしているのか、周囲の人々にどう接しているのか。選手の人格そのものを理解しようとする。いわば360度の視点だ。ただし、ある選手について明確なイメージが固まったとき、最終的に問われるのはやはり勇気だ」
「しかし残念ながら、この業界ではその勇気が失われがちだ。うまくいかなかったときのプレッシャーが非常に大きいからだ。その結果、より安全な選択を買い、慎重な決断に傾きやすくなる」
キャリアの中で数多くの日本人選手の獲得に関わってきたミスリンタート氏。チーム作りにおいては、クラブの格に見合った補強にとどまらない「勇気」も必要だと強調している。


