今シーズン初め、バルセロナのロナルド・クーマン監督(当時)は攻撃陣のオプションが少ないことを嘆き、アタッカーが足りないとクラブの脆弱な体制を非難していた。
現在、クーマンの後を継いだチャビ・エルナンデス監督は、1月の移籍市場で創造力にあふれゴールを量産できる選手の獲得に集中したおかげで、残りのシーズンにおいて前線のオプションを増やすことに成功した。
今後、シーズン終了までにチャビ監督に課せられた任務は、バルサをトップ4に押し上げ、来シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)出場を決めることだ。今大会のCLではグループステージ6試合でわずか2ゴールにとどまり、敗退するという屈辱を味わっていた。
Getty Images「我々はチームを強くしなければならない。特に攻撃を強化する。これは自明のことだ」
就任後のチャビ監督はそう語っていた。
そして、クラブは1月の移籍市場でフェラン・トーレスとアダマ・トラオレを獲得し、締め切り最終日にはピエール=エメリク・オーバメヤンとの契約に至ってみせた。
現在のチャビ監督はクーマン前監督とは異なる問題を抱えている。選択肢が増えたことで、新しい攻撃トリオに誰を配置すればよいのか、ベストな組み合わせを考える必要性に迫られているのだ。ここ数週間は、嘲笑されることもあったレンタル移籍で獲得したルーク・デ・ヨングさえも好調であることを忘れてはならない。
伝説の“MSN”ことリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの攻撃トリオとは比べるべくもないが、バルセロナがシーズン後半をこれまでよりも良い面子で戦っていくことは間違いない。
■3人のアタッカーの役割は…
Getty Images最初に加わったのはフェラン・トーレスで、ペップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティから、5500万ユーロ(約71億円)でスペインに呼び戻した。
ウインガーのトーレスは、マンチェスター・Cとスペイン代表の双方で偽9番としてもプレーすることを学んできた。それによって、バレンシア時代よりも得点力を身につけることとなった。
今後数か月、バルサでも同じ役割を続けるだろうとみられていたが、オーバメヤンの加入で状況は変わりつつある。
getty imagesチャビ監督は、デ・ヨングが復活し、マルティン・ブライスヴァイトがケガから復帰したにもかかわらず、新しいストライカーの加入を熱望した。そのトップターゲットはユヴェントスのアルバロ・モラタであった。しかしながら、交渉はまとまらず、オーバメヤン獲得のほうに力を注ぐこととなったのだ。
アーセナルは、高額なサラリーを受け取っていたオーバメヤンとの契約解除を喜んだ。また、本人が母親の祖国スペインでプレーするという野心を以前から抱いていたこともあり、カンプ・ノウに行くために大幅な減給に応じたのであった。
オーバメヤンの祖父はかつてレアル・マドリーに所属。サンティアゴ・ベルナベウへの移籍はかなわないまでも、バルセロナでゴールを量産すれば、願いはかなったと言えるだろう。
昨年12月にはアーセナルで冷遇され、キャプテンの座を奪われていたオーバメヤン。メンタル面に加えてフィジカル面での落ちこみも指摘されており、いくぶんか疑問の残る移籍であったが、オーバメヤンが世界最高のストライカーのひとりであったのは、それほど昔のことではない。
コンディションが上がってくれば、チャビの期待通りオーバメヤンを中央、トーレスを左のレギュラーとして起用できるだろう。
Getty Imagesしかし、オーバメヤンの加入により、トラオレがレギュラーとしてプレーする可能性は下がっている。ウォルヴァーハンプトンからレンタルされたトラオレは、オーバメヤンさえいなければ、最前線の一角として定期的にチャンスを得られるはずだった。
だが、ウルヴス時代同様、途中出場で劇的にゲームを変える選手としてベンチ入りすることになるだろう。そこで、相手陣内を疾走し、カウンターでとどめを刺す役割を担うはずだ。
■新たな3トップは「FAT」?
(C)Getty Imagesチャビ監督は、3バックにすることを恐れていないようにも見受けられる。中盤に4人の選手を配し、その前にアタッカーを3人というシステムは、トラオレに得意な右サイドでプレーするチャンスを与えるだろう。彼の走力と身体能力なら、戻ってディフェンスを助けることができる。
チャビ監督の最大の懸念点は左サイドであり、少なくともアンス・ファティがケガで出られないとなると問題になるだろう。メンティス・デパイがオーバメヤンとフェランと組んで「FAM」という攻撃トリオとなれそうだが、これはオランダ代表のデパイが得意な中央ではなくサイドでプレーすることを受け入れた場合のことだ。
アーセナルのミケル・アルテタ監督は、時々オーバメヤンを左サイドでも起用していたが、他のオプションもある。トーレスを中央に、トラオレを右サイドに置いて「FAT」形成とすれば、興味深い3トップである。
このセットアップならばトーレスは左でもプレーできるだろう。すでに、コパ・デル・レイのアスレティック・ビルバオ戦でペナルティーエリア内のこのサイドから得点を決め、フィニッシュ能力の高さを示している。
本職が中盤のガビがこれまで時折左サイドで起用されてきたが、そんな日々は終わりに近づき、チャビ監督が自由にできるオプションとなれそうだ。同様にバルセロナB所属のアブデ・エザルズーリやフェラン・ジュグラも途中出場の選択肢として戦力に入れられる。
一方、デンベレは、1月に新しい契約を結ぶかチームを離れるかという案を拒否した後、今後の通達があるまではチームから除外されるだろう。
ブライスヴァイトは現在、9番としての役割においてはオーバメヤンやデ・ヨングに後れをとっているが、鉄の意志をもつデンマーク代表はバルセロナで戦うことを決意しており、最大のポジション争いに身を投じるだろう。
それこそがチャビ監督の望むところであり、自分はチームを能力主義で指揮すると強調している。つまり、コンディションを最高に整え、クラブを正常な軌道に戻すのに役立つすべての選手に、扉は開かれているのだ。
「MSN」はアンタッチャブルだったが、チャビ監督は新しい武器を自由に扱い、再びバルセロナを危険なチームたらしめるコンビネーションを見つけ出すことだろう。


