U-22日本代表は7日、アジア競技大会男子サッカー競技の決勝戦でU-24韓国代表と金メダルを争う。強力な個を擁する相手との一戦に、若き日本代表はどのような姿勢で臨むのだろうか。【取材・文=川端暁彦】
■韓国はOAもフル活用
中国杭州で開催中のアジア大会男子サッカーは、日本と韓国の決勝という形になった。組み合わせ決定時点から「こうなるのかなあ」というイメージはあったカードだろう。
大会中から「韓国と決勝で戦いたい」とハッキリ言ってきたDF馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)は「やっぱり来てくれたかって感じですね。楽しみでしょうがない。きっと向こうも熱い気持ちで来るだろうし、素晴らしい試合になる」と、笑顔を浮かべた。
MF佐藤恵允(ブレーメン)が「ワクワクしている」と語るように、日本側が対戦を心待ちにするのは、韓国側のオーダーが図抜けて“アジア大会離れ”しているからだ。パリ・サンジェルマン(PSG)のイ・ガンインを筆頭に、すでにA代表や欧州で活躍しているスター選手たちを招集し、オーバーエイジ(OA)枠もフル活用。優勝するための陣容を組んできた。
日本の選手からしてみると今回の決勝は、A代表級の選手が揃う韓国と戦い、自分たちの力を証明する絶好機というわけだ。
■五輪レベルの試金石
(C)Getty imagesよく知られるように、韓国には成人男子を対象とした兵役制度があり、「徴兵されて軍務に従事する」という2年弱の「拘束期間」が存在する。これは韓国の男性にとって学業でも仕事でも大きな負荷となるわけだが、活躍する時間が絶対的に限定されているアスリートにとっては特に死活問題だ。
救済措置として兵役を減免する制度もあり、その一つがスポーツの国際大会で顕著な成績を修めた者が対象から外れ、4週間の基礎軍事訓練などだけで済むという仕組み。この「成績」の一つが「アジア大会の金メダル」である。
サッカーの世界で言えば、オリンピックでの銅メダル以上、あるいは過去の2002年日韓W杯では4強入りでも特例で免除されたことがあるのだが、現実的に最も目指しやすいのが「アジア大会優勝」であることは明らかだろう。このため、4年に1度のアジア大会に、まだこの特典を得ていない韓国の有力選手が集結することとなるわけだ。
一方で、「組織というより、とにかく個の力でどんどん打開してくるスタイル」と馬場が言うように、今回の韓国は寄せ集めのチームという一面もある。欧州の有力選手も集めたからこそ、全員が集まっての十分な準備期間を作ることはできなかった。2-1での辛勝となった準決勝のウズベキスタン戦が象徴していたように、個の力と気合いは十分ながら、チームとしては成熟していない面ものぞかせている。ただ逆に言えば、厳しい状況でも個人が打開してしまうくらい、単騎の能力は高い選手が揃う。
単純な個人の比較で言えば、年少でもある日本が総じて見劣りすることは否めないが、サッカーは1対1を11回やるスポーツではない。大岩剛監督は「相手がどうというより、まず自分たちのやるべきこと、やってきたことをしっかりやることが大事」と強調する。
「準決勝の香港戦でもそうだったが、相手がどう来るにしても、まず『俺たちは何をやりたいんだ? 』ということを忘れてはいけない。相手の勢いを逆用したり、相手のウィークを突いていくというのは当然やるけれど、それもまず自分たちのやるべきことをやるのが大前提。例えば、きちんと取るべきポジションを取ること。北朝鮮戦ではそれをやらなかったから厳しい試合になってしまった」(大岩監督)
ポジショナルなスタイルを志向してきた大岩監督にとって、来年の最終予選、そしてパリ五輪本大会で当たるようなレベルの韓国が仕掛けてくる激しいプレッシャーは良い意味での試金石でもある。この相手に対しても、しっかり自分たちの戦術的意図に沿ってボールを動かし、ゴールを脅かせるか。それはもちろん、勝利にもつながるポイントとなる。
■「いまみんな、めっちゃ燃えてます」
(C)Getty images女子サッカー決勝を見ていてもわかることだが、会場の雰囲気はかなり独特なものになる。北朝鮮戦のような空気感に呑まれるような試合をしてしまうと、韓国相手には致命傷だろう。
この点について大岩監督は、現役時代から多くのファイナルを経験してきた自身の体験を踏まえ、「決勝なんだから緊張するのは当たり前くらいの気持ちでいたほうがいい」と言う。その上で助け合って戦ってきた日本チームらしさを体現しつつ、「全員の力で勝つ」ことも強調した。
一方、「まず先制点。立ち上がりから、やってやりますよ」と鼻息荒かったのはMF佐藤。
「SNSを見ると『日本は2軍だから負けても仕方ない』とか『セカンドチームの日本はどうせ勝てない』とか書かれていて腹が立った。いまみんな、めっちゃ燃えてますよ」
アジア大会男子サッカー決勝、日韓戦。日本時間7日21:00から始まるこの戦いは、少々特別な試合になりそうだ。
