連載第2回:アヤックスの今季の調子は?ベンフィカ戦で若きチームに求めたいこと
思った通り、ポルトガル勢とのアウェーゲームは一筋縄ではいかなかった。エリック・テン・ハーグ監督が「ベンフィカの強さは我々のレベルに合わせて自分を高めていくことだ」と語っていた通りのしたたかさにやられた印象だった。
ゲームは2-2の引き分け。今シーズンのCLでアヤックスは初めて勝てなかった。
内容を見れば前半はアヤックス、後半はベンフィカが優勢だった。
後半になって高いインテンシティでプレーされた原因は、アヤックスがボールに対して不注意だったからだ。ポゼッションが幾度となく変われば多くのエネルギーが失われる。若くてもエネルギーは無限ではない。
右サイドバック、ノゼア・マズラウイは「スプリントが何度も繰り返される、とても難しい試合だった」とコメントしている。ベンフィカはこういう試合のできるタフな相手だ。
ではアヤックスの采配はどうだったろうか?
後半、テン・ハーグは相手に敬意を払いすぎたのだろうか?
いや、サッカーでは、優れていることが決定的なことではない。引き分けは妥当だ。突破が難しくなったわけではない。だから、いつものように楽しもう。たとえ勝てなくても、絵本にしたくなるような楽しい局面が必ず用意されている。それがアヤックスだ。
■期待する選手と求めたい美しさ
Getty Images第二戦をホームで迎え撃つアヤックスのフロントはヨハン・クライフ・アレナをどんな雰囲気にしようと準備しているだろうか。
たとえば数シーズン前のCLでは試合開始前のセレモニーにオランダの音楽家アンドレ・リュウを招いた。
ワルツが演奏され、彼の振るタクトにあわせて小旗が打ち振られ、スタジアム全体で完成させた景観はとても美しく印象的だった。
「蛮勇に振る舞え、敵を打ちのめせ!」ではなく、あくまでワルツのような「美しいサッカーを!」とメッセージを送るのがアヤックスらしい。
強いだけ、速いだけでは美しさは見出せない。
大切なのは心で感じる鼓動があることだ。
米津玄師さんの『Pale blue』という優れた楽曲が最後に大きく8分の6拍子に移行していくような美しさを時折見せてくれるのが、アヤックスサッカーの伝統と言える。
Getty特に音楽的な鼓動の使い方が抜群にうまいのがFWのアントニーだ。体幹の強さをもった遊び心のあるブラジルのニュータイプで、続けて見ておくとサッカーファンとして友達に自慢できるお薦めの選手だ。
タフそうな相手のベンフィカには、“売る側”のクラブであるアヤックスユース出身の選手もいる。ヤン・ヴェルトンゲンがそうだ。第一戦ではなんと敵、味方両方のゴールに絡んだ。
今はアル・ドゥハイルにいるトビー・アルデルヴェイレルトと共にジェミナル・ベールスホット(もう存在しないクラブ)から相次いでやって来たのはもうだいぶ昔のこと。二人はすくすくとユースで成長し、トップチームで活躍し、イングランドのスパーズでも、ベルギー代表でもコンビを組んだ。
(C)Getty Imagesファンたちはアヤックスというクラブがこの世界で生きている仕組みを理解しているから、クラブにお金を残し、ブランドを高めてくれた広告塔である“元アヤックス”の選手たちには感謝するのが一般的だ。もちろんアヤックスからゴールなんて奪ったらブーイングだけど、
アヤックスらしい選手だったヴェルトンゲンには頑張って欲しい。
■不安なのは最後方
(C)Getty Imagesアヤックスの心配事はGKだ。マールテン・ステケレンブルフに加えレムコ・パスヴェール、さらにジェイ・ゴーターまで負傷離脱した。
急遽、元PSVのプシェミスワフ・ティトンと今季終了までの契約を結び、なんとか控えGKは獲得した。だが、クリーンシートの量産に貢献していた足元の上手いパスヴェールの離脱は痛い。来季インテルへ移籍するかつての第一GKアンドレ・オナナはプライドを取り戻せるか?
シュートストッパーとしてはパスヴェールよりオナナの方が上だが、彼が出場した直前の公式戦4試合で、クリーンシートはカップ戦のひとつだけで、リーグ戦は3戦すべてが2失点。守備が光っていたアヤックスらしくない数字だ。
ドーピング違反による9か月の出場停止、ケガ、コロナ陽性反応など辛いことがたくさんあったシーズンの最後に大きなチャンスが与えられたオナナ。バルサカンテラからアヤックスユースを経て活躍する彼にはここで輝きを取り戻してカルチョの国へ旅立てるようにエールを贈りたい。
さあ、セカンドレグだ。
若いチームにミスはつきものだ。ファーストレグでもいろいろあった。
でも、彼らに望むのはためらわないこと。
いつものようにファイナルサードでボールを奪い、誰もがスポットライトを競いあって欲しい。
Getty Imagesそして、僕らアヤックスファンはベンフィカにいるウクライナのロマン・ヤレムチュクにも最大限のエールを贈る。
文=倉敷保雄




