日本代表はカタール・ワールドカップ(W杯)グループE第3節でスペイン代表に2-1で逆転勝利。決勝トーナメント首位進出を決める歴史的な一撃が生まれることは、遙か昔から必然だったのかもしれない。【取材・文=林遼平】
■小学校時代からの幼馴染
(C)Getty imagesその時間、実に約2分半。ゴールネットを揺らした田中碧だけでなく、ピッチに立つ選手やベンチで戦況を見守る選手、日本サッカーにかかわるすべての人々が、VARの判定が下される瞬間を今か今かと待ちわびていた。
そして、永遠に続くかのような待ち時間を経て、主審はホイッスルを吹くとともにセンターマークを指し示した。歓喜に沸くスタンド、ベンチで待つチームメイトの下に飛び込む田中。日本の逆転ゴールが認められた瞬間だった。
仲間たちと歓喜に酔いしれた田中は、大きな輪を離れると、自陣に戻りながら一人の男を指差した。その先にいたのは決勝点をアシストした三笘薫。小学校時代からの幼馴染で、多くの経験をともにしてきた一個上の先輩に敬意を示したのだ。
「(三笘からのアシストで点を決められて)すごく嬉しかったですね。あの場面も(前田)大然くんと(三笘)薫さんがいたので、なんとか(ピッチ内に)ボールが残るんじゃないかなと思っていました。それで薫さんがうまく残して折り返してくれた。(自分としても)あそこまで入っていくのを信じてやり続けていたところはあったので、結果につながって良かったと思います」
この決勝点は、彼らのこれまでの歩みがもたらした得点だったと言っていいかもしれない。
■信頼が生んだ必然の決勝点
(C)Getty images川崎フロンターレのアカデミーで育った二人は、小さい頃から嬉しい瞬間も悔しい瞬間も常に同じ時間を共有してきた。プロになり欧州へ飛び立つときにも、お互いによく相談し、時には意見がぶつかって言い合いになることもあったという。そんなこともありながら東京五輪や日本代表の舞台でプレーした二人は、切磋琢磨しながら遠回りすることなくW杯の舞台にまでたどり着いた。
長い時間ともにプレーすることが多かったこともあり、田中はある時、三笘との連係についてこんな話をしていた。
「やはり感覚というか、育ってきた場所が一緒なので、喋らずともわかりあえる部分があるんです。そういう意味では、近い距離でパス交換だったりをすれば二人でチャンスを作れるんじゃないかなという気がしています。代表の舞台でもピッチ内でそういうプレーを出していければいいですね」
スペイン戦の逆転弾の場面。ギリギリまで走り込み、ゴールライン上に左足を伸ばして中央へと折り返した三笘は、「なんでああいうところに入ってきていたのかはわからない」と田中の動きに驚きつつ、「彼は走力を生かして見えないところで守備を頑張っていたことが点に繋がったと思う。そのご褒美だと思います」とゴールを奪った後輩を称賛した。
一方で、田中は理解していた。これまで何度も一緒にプレーしてきた三笘なら絶対に折り返してくれると。そう信じて走り込んでいた。
「試合が終わった後に『信じていたよ』と言いました。よく残してくれたなと思いますし、(アシストしてくれて)ありがたいなと思います」
グループステージ突破のかかる大一番で手にしたスペイン撃破の決勝弾。ここまで主力としてピッチに立っていたわけでない中で、この局面で結果を残せたことは大きい。田中と三笘。お互いのことをよくわかっていたからこそ生まれた必然のゴールだった。
