大会目前から猛アピールを成功させ、カタール・ワールドカップ(W杯)に招集された相馬勇紀。本大会前最後の親善試合となったカナダ代表との国際親善試合でも結果で応え、飛躍の予感を漂わせている。【取材・文=林遼平】
■力を証明して夢の舞台へ
(C)Getty imagesEAFF E-1 サッカー選手権でMVPを獲得した後も、W杯出場はまだ遠いところにあった。
東京五輪以降、ともに戦った多くの仲間が海外に移籍。そこで成長を遂げた選手たちがA代表の舞台で活躍する姿を見ては、「自分が去年の夏に一緒に戦った仲間たちが活躍する姿を見て心にくるものがあった」と悔しさが募った。だから、国内組で戦ったE-1選手権で結果を残したとしても、「同じ土俵には立てていない。客観的に見て彼らの方が戦っている舞台も活躍している舞台もステージが上なので、ここから自分がどれだけ成長できるかだと思う」と喜ぶことはなかった。
ただ、そこから相馬は自分自身の力で未来を切り開いてきた。名古屋グランパスで存在感を示して評価を上げれば、代表の9月遠征に呼ばれてチャンスを与えられた際には攻守のハードワークで奮闘。海外組がいたとしてもピッチに立てるだけの資質があることをしっかりと表現してみせた。
そして迎えた今月の1日、W杯に挑む日本代表メンバーが発表されると、そこには相馬の名前があった。7月にまだ同じ土俵に立っていないと語っていた男が、夢の舞台に立てる権利を得るところまでたどり着いたのである
ここまで来れば、あとは自分の力をどれだけアピールできるかとなる。自身が入ることが予想されるサイドには、左なら久保建英や三笘薫、右なら伊東純也や堂安律といったライバルがひしめき合う。これまでの実績だけを見れば、彼らを上回ってスタメンの座を手にすることは簡単ではない。
だからといって、彼らと同じプレーをする必要はない。自分自身の特徴を前面に押し出し、誰とも違うプレーを示すことがピッチに立つための道のりになることは明らかだった。
■中田、長友らもW杯から飛躍
(C)Getty imagesそんな中、試合には1-2で敗れたもののカナダ戦は相馬の代表における有用性が示される試合になった。前半は右サイドで出場すると、立ち上がり8分に「(柴崎)岳さんの特長はわかっていたので、練習のところから『狙います』と話をしていた」と最終ラインの背後に抜け出して先制点を奪取。動き出しの巧みさとシュートセンスが噛み合って結果を残すことに成功した。
また、後半は本来のポジションである左サイドにスイッチ。相手にボールを保持される場面では前線からプレッシャーをかけ続けてミスを誘えば、終盤は名古屋でもプレーするシャドーの位置で奮闘し、最後まで走り続けた。ケガ人やコンディション不良の選手が複数人いる中、さまざまなポジションで一定以上のパフォーマンスを残せたことは、森保一監督の目にもはっきりと映ったことだろう。
「前線からプレッシャーに行ったり戻ったりというところで自分は戦えると思っている。そこの強度はドイツ、スペインとさらに上がってくると思うので、まずデュエルのところはしっかり戦っていきたい。とにかく得点を取ってチームを勝利に導く、そして守備のところもハードワークして戦うところは今後もベースとしてやっていけたらと思う」
これまでのW杯や東京五輪を振り返ると、かつては1998年フランスW杯の中田英寿や2010年南アフリカW杯の長友佑都、川島永嗣、2021年東京五輪で三笘薫らが大会を経て成長し、世界へと飛躍していった。そういった選手たちの背中を追うようなことになるのではないかと、ここ数試合の相馬のパフォーマンスを見ていると感じるところがある。
W杯の舞台にどれだけ立てるかはまだわからない。それでも日本を背負ってピッチに立つ可能性が日に日に高まっていることは間違いない。初戦のドイツ戦まで残りわずか。ブレイクの予感漂う相馬は、自身に出番が回ってくることを信じて準備を進めていく。
