日本代表は23日のカタール・ワールドカップ(W杯)グループE第1節でドイツ代表に2-1で逆転勝利。57分から途中出場した浅野拓磨は、83分に決勝点を沈める大仕事を果たしている。【取材・文=林遼平】
■指揮官の激励は「決めてやれ、全力で走ってやれ」
(C)Getty imagesこの時を待っていた。いや、信じていたと言っていいだろう。
4年半前、あと一歩のところでW杯メンバー入りを逃した。今でも「あの景色はたぶん一生忘れることはない」と悔しい思い出として残る。それでも、次のW杯を目標に掲げて、クラブで、そして代表で自分のできる100%をぶつけて、ここまでの道のりを歩んできた。
約2カ月前、右ヒザの内側側副靱帯を負傷してもなお、その目標は変わらなかった。W杯までに直してピッチに立ってみせる。後悔しないために全力を尽くし、懸命のリハビリを続けた結果、森保一監督の選ぶ26人のメンバーに浅野の名前は記されていた。
迎えた初戦のドイツ戦、0-1のビハインドの状況で指揮官は信頼を置く浅野を呼んだ。「途中から出る選手が決めてやれ、チームのために全力で走ってやれと声をかけられてピッチに入りました」。57分、ピッチに投入されると、自分のやることは決まっていた。
「こういう時こそ自分は輝ける」。
自分の仕事はゴールを奪うこと。ボールを受けてはゴールを目指し、アグレッシブに仕掛けて難しい状況でもシュートを狙った。綺麗なシュートはあまりなかったかもしれない。だが、何がなんでもゴールを奪いたいという思いが、セットプレーにつながることでチームに勢いをもたらした。後半途中から日本に流れが移行していったのも、こういった姿勢が影響していたと言っていいだろう。
■誰よりも自分を信頼
(C)Getty imagesそして、歴史を変えるゴールが生まれる。83分、遠藤航が倒されたところでFKを得ると、相手の一瞬の隙を逃さず板倉滉のパスに抜け出した。
「正直、滉がボールを持った瞬間、『あ、これ来るな』と思いました。同じケガをしていたから意思疎通ができていたのかもしれないですね」
背後から来るボールに対して絶妙なトラップで前を向くと、そのままゴールに向かって前進。マークについたシュロッター・ベックを腕で牽制しながら、最後はマヌエル・ノイアーの頭上を抜くシュートを決め切り、勝利を手繰り寄せる逆転弾を奪った。
「正直、ニア上を狙ったわけではないですけど、思い切ってシュートを打った結果があそこに行った。やはりみんなの気持ちが強かった分、そういうものがボールに乗っかたのかなと改めて思いました」
決して平坦な道を歩んできたわけではない。さまざまな困難を乗り越え、浅野は誰もが認めるヒーローになった。
「4年前から1日も欠かさずこういう日を想像して準備してこられた。本当にそれが結果につながっただけかなと思います。今日の試合に関してはヒーローになれたかなと思います」
ここまでの苦労を知る吉田麻也は、「(浅野)拓磨はずっとケガをしていて、ロシアW杯も行けなくて悔しい思いをしていた。誰よりも準備してきたからこそ結果を出せたんだと思います」と殊勲の男を称賛した。
この日の出来の良さや頑張りだけがもたらしたゴールではない。誰よりもこの瞬間が来ることを信じ、その時のために日々努力を重ねてきたからこそ、日本を勝利に導くゴールが生まれたのである。
