20220330_Anri1(C)Akihiko Kawabata

初の異国でタイトル。U-21日本代表DFチェイス・アンリが見せた「ミスを怖がるようになっていた」自分との決別

 U-21日本代表DFチェイス・アンリにとって初の海外での国際試合となったU-23ドバイカップ。18歳の大器は肉体や戦術面のみならず精神的にも確かな成長を見せている。

■ミスプレーが拡散される恐怖

20220330_Anri2(C)Akihiko Kawabata

 チェイス・アンリにとって初めて迎える海外で日の丸を付けての試合だった。試合前には「ちょっと緊張するかも」と言っていた18歳のDFは、その言葉に反するかのように逞しいプレーを見せ続けた。

「代表の国際試合は雰囲気も違って、オーラも出ていて、『楽しみだな』っていう気持ちが国内でやるときよりも強い」

以下に続く

 評価急上昇のタイミングでコロナ禍が到来してしまい、出場のチャンスがあったU-17W杯は中止、その後も年代別日本代表の海外遠征機会は消滅していたために初めての海外での国際試合だったが、気後れした様子はない。「楽しんで、思い切りやる」という試合前に語っていたとおりのプレーぶりだった。

 実は少しばかり悩みも抱えながらの代表参加だった。尚志高校卒業を控える状況で、A代表のトレーニングパートナーに招かれ、3個上の選手たちが軸となるこのU-21日本代表にも参加してきたが、「本当に上手い選手ばかり」という環境でトレーニングから「難しい」と感じてきた。

 注目も集まる中でミスしたプレーが切り抜かれて拡散されるのも目にしてしまい、いつの間にか「ミスを怖がるようになっていた」と振り返る。それがまたプレーを小さくしてしまい、思うようなパフォーマンスが出せないことにも繋がる悪循環に陥った。かつて尚志の仲村浩二監督が「ミスしてもすぐ次のプレーにトライしている」と語っていた姿とは、少し異なる様子もあった。

 本格的にサッカーを始めたのは中学校入学後ということもあり、代表に入れば周囲との技術的ギャップを感じる面はまだまだある。ただ、「そこで下を向いても仕方ない」と割り切った上で、「ミスしても次のプレーにトライする」という意識をもってこの遠征では前向きな取り組みを続けてきた。

 象徴的だったのは最初にパスミスをしてからのプレー。最近のチェイスだと、ここからプレーが小さくなってしまうところだったが、その後もチャレンジするプレーを継続。パスを受けるのも恐れることなく、狙いどころを持ったフィードも披露した。代表レベルから見れば何気ないプレーかもしれないが、意識して取り組んできた成果を確かに見せていた。

■「みんなから可愛がられている」

20220330_Anri3(C)Akihiko Kawabata

 成長への意欲は相変わらず旺盛で、この遠征でも代表のチームメイトたちにも積極的にアドバイスを求めてきた。特に今年1月のA代表候補合宿にも招かれているDF西尾隆矢には「同じようなタイプのDFだと思うし、凄く参考になる」と尊敬の眼差しを持って接して、「分からないことを聞くと全部教えてくれる。めちゃくちゃ説明が上手くて分かりやすいんです」と目を輝かせながら、DFとしてのエッセンスを吸収してきた。

 そんな尊敬する西尾とCBコンビを組んでの出場は、精神面でも戦術面でも幸いしたかもしれない。「西尾選手に色々と声をかけられたおかげで自分の守備力が上がった」と語るように、初めて組むにもかかわらず信頼しきっている相棒の助けも借りつつ、国際親善大会の決勝戦を戦い抜いた。

「最後の方はめちゃくちゃキツかったですね」

 そう言って笑顔を浮かべつつ、「アジアは甘くないと思ったし、A代表がアジアで苦戦する理由がわかった」と語っていたアジアの強豪相手との試合についてこう振り返る。

「本当に良い経験になったし、相手は足も速くて、ディフェンス面でもっと意識しないといけないことがあると思った。特にステップやシュートコースを消すこと、組織で守ることは課題。メンタルもまだまだです」

 謙虚にそう振り返った若武者は、「おめでとう」の言葉に柔和な笑顔と共に「ありがとうございます!」と返して会場を後にした。

「みんなから可愛がられている」(大岩剛監督)大きな体のDFは、異国の地で迎えたファイナルで、確かな成長と今後への可能性をのぞかせた。チェイス・アンリにとって日本代表として海外で戦う初めての90分は、そんな言葉で形容できるかもしれない。

取材・文=川端暁彦

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