▲インドネシアメディアが訪日
Jリーグ海外事業部の取り組むアジア戦略が、主に東南アジアで存在感を高めている。2023シーズン開幕期にもインドネシアのメディアが招待を受けて訪日したが、これらの活動の狙いはどこにあるのだろうか。
■アジアと「ともに成長する」
Jリーグは、2012年にアジア戦略をスタート。現在では東南アジア多くのサッカーリーグとパートナーシップを締結しているが、海外事業部の部長を務める大矢丈之氏は、活動開始に至った出来事をこう振り返っている。
「2011年に東日本大震災が起こり、人々の生活が変化し、スタジアムに来られなくなるお客様がいたりなど、サッカーやスポーツを取り巻く環境が変わり、Jリーグも苦しい状況になりました。そこで、中長期な視点にたって新しい取り組みを模索する中で、今までは国内に注力していましたが、少し広げて東南アジアに特にマーケットを広げていこうと話を始めたのが最初でした」
そして、アジア戦略スタートに向けた東南アジアでの実地調査時には「日本以上にサッカーに熱い人たちがいる」という印象を持ったと言う。続けて「たとえば、2018年AFC(アジアサッカー連盟)の23歳以下の大会で、ベトナムが初めて決勝に進みました。その決勝は中国で開催されたのですが、ベトナム首都ハノイの国立競技場でパブリックビューイングを行ったところ、スタンドは満席、ピッチレベルも人であふれて10万人以上もの人が集まるのです。これは日本では想像できない状況でした」とのエピソードを明かした。
各地域の“サッカー熱”をアジア戦略スタートに踏み切った理由の第一に挙げた大矢氏は、さらに二つの要素があることを説明している。
「二つ目は、競技力の部分で急速にレベルが上がってきていて、東南アジアの中でもチャナティップ選手(現川崎フロンターレ)のような、J1でも活躍する選手が生まれてきている。三つ目は、経済的に日本企業の東南アジアへの進出はすごく以前から活発でしたし、東南アジアの方々の日本への訪日の旅行のニーズも高いということがあります。サッカーを使ってJリーグが成長するだけではなく、サッカーを使ってアジアとの懸け橋になり、国際交流や、企業や行政の皆様の事業展開に貢献出来たり、サッカー自体の価値を上げられるのではないかというところで始めたというのが2012年です」
実際にアジア戦略を進めるうえで「ともに成長する」というキーワードを掲げているJリーグ。初期のコミュニケーションの中では、東南アジアの課題にフォーカスした取り組みを行っていた。
「スタジアムにお客さんがなかなか増えないという課題が東南アジアのリーグには多いです。Jリーグもそういう時期がありましたが、スタジアムで待っていても誰も来ません。小学校に選手が出向いて自分たちのことを話すとか、自分たちからスタジアムの外に出ないといけない。ホームタウン活動をしないとなかなかクラブは育っていかない。彼らの課題に対してJリーグではこうやってきたよというのを、現地でワークショップを開くこともありましたし、彼らも日本に来て試合だけでなくそういう現場を見に来るということもやりました」
一方で、Jリーグにも東南アジアの魅力的な部分が取り入れられていることを明かした。
「サッカー熱が高いことに加えて、動画や画像のクオリティが高い。現在、そういう海外の会社を活用したり、ともに学ぶという姿勢を意識しています。決してJリーグの方が上から支援するということではなく、僕らの方が経験があるところは共有しますし、彼らの方が感性豊かなところは逆に助けてもらっています」
■プレミアリーグとは違った強み
また、昨年3月からJリーグのチェアマンを務める野々村芳和氏は、国内のトップ層がグローバルコンテンツになることを目指すということを、成長戦略の一つに掲げている。Jリーグが世界の中で存在価値を高めていく中で、アジア各国に期待することを、大矢氏に聞いた。
「人口が多いのがアジアです。中国もいますし、インドもいて、バングラデシュやパキスタンも人口が多くて、相対的にサッカー好きのボリュームというのは、欧州よりも、南米よりもポテンシャルでいうと一番ある地域だと思います。そのポテンシャルをどう活力として、アジアサッカーの発展に繋がるサイクル、システムを作るか。今、アジアの子どもたちが見て熱狂しているのはヨーロッパのサッカーです。その熱狂する子どもたちが、ヨーロッパを見る選択肢がある中で、どうやって自国のサッカーを強くしていくかに興味と関心とリソースを向けていくかというところは、これからアジアの各国が手をとって考えないといけないことのような気がします」
とはいえ、現状ではアジアの巨大な資本は欧州でも大きな要素となっている。アジアではなかなかそうなっていかない現実について、大矢氏はどう考えているのだろうか。
「シンプルに投資家の方から見たときに買いたい、自分が持ちたいクラブであるということが足りていないということではないでしょうか。プレミアリーグのクラブを持つことが大きな企業、個人投資家のステータスにもなりますし、今は価値が低いけれど自分のマネジメントで価値を高めるという買い方もアメリカなどでは多いと思います。そんな中で、日本が今、現実的に選ばれていないのは事実です。そこをどう魅力的にしていくかも大事です」
そうしたサッカー界の勢力図の中で、Jリーグがまず目指すべきは「アジアのサッカー競技力が上がって、その国のスター選手たちがJリーグで活躍する日常を作ること」だと語る。
「中田英寿さんが(セリエAのペルージャに)行った時にみんな見たように、各国に各国の中田英寿さんみたいな人がいるわけで、それを見た子どもたちがまた続いてくるわけです。日本とヨーロッパのトップリーグの関係を、ちょっとレベルを落としたところでアジアとJリーグの関係で作れて、Jリーグに東南アジアの選手が何十人もいるような環境を作れた時には、結構見られるリーグになると思います。プレミアリーグとはまた違った、自分の国の選手、ヒーローが出ているリーグ、クラブへの思い入れと、自分の好きな強いプレミアリーグのクラブへの思い入れはまた違うと思います。それを東南アジアのサッカーの成長にも微力ながら貢献しつつ作っていくという。自分たちだけではできないですけれど、そこをやっていきたいですね」
なお、アジア戦略の一環で今回招待されたインドネシアの各メディアは、日本サッカー協会(JFA)のサッカーミュージアムで日本サッカーの歴史に触れ、2月17日に行われた明治安田生命J1リーグ開幕戦の川崎フロンターレvs横浜F・マリノス他、各地の開幕戦計3試合を観戦してスタジアムの熱狂を体感した。

▲サッカーミュージアムを視察
その経験を、『Indosport.com』のザイナル・ハサン氏は「今回のツアーでJリーグの発展を目の当たりにし、分析することができて、特別な経験となりました。私の得た情報をユーザーの方々に提供することで、貴重な洞察を与え、インドネシアサッカーを向上させるうえでポジティブな影響が与えられることに期待しています」と総括している。アジアサッカーの発展の中で重要な位置にいるJリーグは、引き続き各国との結びつきを強めて相乗効果を生もうとしている。
取材・文=上村迪助(GOAL JAPAN)
