2026年ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の初戦でミャンマー代表に5-0で快勝した日本代表。世界一を目標に掲げる中で、チームとしての確かなランクアップの実感が堂安律の姿勢にも表れた。【取材・文=上村迪助(GOAL編集部)】
■決して満足しない日本代表
(C)Kenichi Arai日本は16日、2026年夏の本大会に向けたアジア2次予選の初戦でミャンマーとホームで対戦。上田綺世の先制点が生まれたのも11分と不穏な気配が漂うこともなく、圧倒的格下を相手に盤石の試合運びを見せ、森保一監督があるべき形として定めていた「当然のように勝つ」という難しいミッションを見事にやり遂げた。
すべての選手が高い基準をもって終了までゴールを目指し続け、特に上田が抜群の決定力を発揮してハットトリックを達成。5人、あるいは7人でディフェンスラインを固める相手に対し、リード後に試合を支配することで満足してしまうという不安は一切抱かせなかった。
それどころか、日本の選手たちは何点リードしたとしても満足する様子は見せていない。途中出場からデビューを果たした佐野海舟が持ち味を発揮し、U-22世代から繰り上がりで追加招集された細谷真大も懸命にアピールへ走り回る。それらの選手だけではなく、南野拓実をはじめ、田中碧や毎熊晟矢ら既存の戦力たちも常にギラギラ感をみなぎらせていた。
相手との実力差やホームだったことを考えれば、5点差の勝利は驚くような結果ではない。それでも骨の髄まで植え付けられた競争心がくっきりと表れ、目の前の相手を見ながらも絵空事ではなくW杯優勝を目指していることはありありと見て取れた。ミャンマーのほかに日本は2次予選でシリア代表、北朝鮮代表と同組となっているが、各ホーム&アウェイの計6試合を終えて上位2カ国に入れば3次予選に進めるため、得失点差というシビアな計算が念頭にあったということはないだろう。
■約4年前のミャンマー戦でW杯予選デビュー
(C)Kenichi Araiそのメンタリティを育んだのは、やはりカタールW杯後からより徹底した森保監督の実力主義によるマネジメントだ。今回のミャンマー戦のスタメン選考は中4日で控えるシリア代表とのアウェイ戦を意識したものでもあるだろうが、親善試合であっても一貫して“その時のベストの選手たち”を招集し、試すべき選手を試してきた。久保建英のような名実伴ったタレントでも容赦なくベンチに座らせ、カタールで10番を背負っていた南野も調子を落としたと見るやメンバー外とし、調子を上げれば再招集。前回活動にあたる10月シリーズでは鎌田大地、そして堂安がメンバー外となった。
厳しい競争の中で「(10月に招集外だったことは)もちろん悔しいですよ。ストレス溜まってますし、(招集されても)スタメンじゃなければイライラします」と言って憚らない堂安。その矛先は指揮官ではなく、「全部自分のせい」とコンディションを落としていた自らに向けているが、その憤りあるいは危機感は今回のミャンマー戦にも表れていたように見える。
キックオフから再三の仕掛けを見せていた堂安は、2点リードして迎えた前半ATに精度の高いスルーパスで上田の2点目をアシスト。しかし、この得点関与ではまったく満足せず、後半に入ると前半以上にどん欲に、鬼気迫るほどの迫力でボックス内へと侵入していく。試合後には、自身の得点が生まれない時間が長引くことでも「ストレス」が溜まっていたことを明かしている。
振り返れば、堂安にとって初めてのW杯予選も2019年9月10日に行われたカタールW杯アジア2次予選初戦のミャンマー戦だった。その試合前、堂安は初の大舞台に胸を躍らせて「(公式戦の重みを)背負うことを先輩たちは期待してないだろうし、若者らしくのびのびとしたプレーを先輩たちは期待していると思います。そこまで過剰に考えすぎることはないと思います」と精神的な強さを覗かせつつもフレッシュな言葉を発している。
敵地で行われていたその一戦で中島翔哉と南野とともに“三銃士”と称された2列目を組織した堂安は、クロスで南野の追加点をアシスト。2-0での勝利に大きく貢献し、「試合が終わってからすごい舞台に立ってたんだなというのを感じさせられてます」と感慨深げに語っていた。
■1G1Aでもにじむ悔しさ
(C)Kenichi Araiその約4年後に行われた今回の一戦、堂安は積極的な姿勢が実って86分に巧みなトラップからチームの5点目を沈めた。1G1Aという結果を残すことに成功したが、試合後に残した言葉には悔しさと反省がにじんでいる。
「まだまだチームとしても、個人的にも改善できる点は多かったです。こういう相手とは最後のボックスでの精度がすべてだと思うんですけど、自分自身、前半はかなり質が低かったと思うので、まだまだ上げていかなくちゃなと思います」
堂安自身、代表に入りたてだったころとは立場が違い、背番号も伝統の10番。個人として背負うことが期待される選手になったということ以外にも、チームとしてのアジアでの戦いに対する意識もカタールまでとは様変わりした。
「監督も毎回言っていますけど、当たり前のことを当たり前にすれば負けない相手ではありますし、こうして大量得点で勝てる相手ではあるので、それを続けるだけです。毎回チームでも話しているのは自分の基準でやろうと。相手に合わせるのではなくて自分たちがよりどん欲にいくことが大事です」
ミャンマー戦ではっきりしたのは、日本はアジアにおいて白星だけではまったく満足できないチームになったということ。一貫して高い基準の要求がされる中、得意とする右サイドでは伊東や久保といった強烈なライバルとの競争に晒されている堂安。度々口にする「ストレス」に象徴されるが、「のびのび」と臨んだ4年前からの変貌ぶりは、日本のランクアップを実感させてくれる一例と言える。
