6万3638人が来場し、浮かされそうな熱気に包まれていた国立競技場。ピッチに立っていた日本代表はキリンチャレンジカップ2022でブラジル代表に0-1で敗戦したが、スター選手たちとの対峙後にも地に足をつけて前進しようとしている。
■強豪と戦うメンタリティは既にある
(C)Getty imagesやはりブラジルとの差は一目瞭然だった。スコアこそPKによるネイマールの1点のみの0-1にとどまったが、試合のスタート時から90分間を通じて多くのチャンスを作られており、少しボタンを掛け違えていれば大量失点を喫する可能性もあった試合だ。
カタール・ワールドカップ(W杯)でドイツ代表、スペイン代表と同居している日本にとって、グループステージをどう戦うかの試金石となったブラジル戦。GK権田修一や守備陣の奮闘があり、前半終了時まではスコアレスで推移した展開はプラン通りのもの。それでも本大会を想定すれば、得た結果が勝ち点0であるという事実は変わらない。
森保一監督は試合後に「現段階での力の差は認めないといけない」と語り、遠藤航、吉田麻也といったチームの根幹を担う選手たちも、明らかな差があったことを認めている。吉田に関しては「正直本番ではこんなものではないだろう」ともこぼしており、相手がさらなる底力を秘めていると感じたようだ。
とはいえ、だからこそ強化試合としてはこれ以上ないものになった。勝利もしくは引き分けで強豪相手に結果が残せる自信をつけることもひとつの収穫になり得たが、ネイマールに対する鋭いチェックや序盤に伊東純也が見せた仕掛け、終盤に投入された三笘薫とミリトンの勝負、ディフェンスラインでの繋ぎなど、チャレンジする姿勢も多く見せた。そういったプレーについて、森保監督はチームが既に強豪に立ち向かっていくメンタリティを備えていると評価する。
「FIFAランク1位のブラジルに対しても、FIFAランク一桁台の上位の強豪と戦っても、メンタル的には負けていないという頼もしさというか、自信はすごく見せてくれたと思っています。厳しいのは当たり前で、完全に理想とはいかなくても互角に戦えるんだということは、選手たちがこれまでのW杯での経験で持ってくれているのかなと思います」
また、ベテランにしてヴィニシウスをほぼ封殺していた長友も、戦えていたという手応えを口にした。
「今まで対戦したブラジルは手も足も出なかった、太刀打ちがまったくできなかったという状態だったと思います。だからブラジル戦後は常に悲壮感を感じていたし、何もできない自分に腹も立っていました。でも今日、もちろん一点差で負けてしまった、一点差以上の差はあったと思います。ただ今までの何もできなかったブラジル戦と比べると僕自身の手応えもありました」
これまで伝統的に課題としてきた強豪をリスペクトし過ぎるという点については改善が見えた。現在の日本代表はそこをベースにしながらも、新たな課題を見つけること、現代表チームで勝ち点を得る確率を上げるための材料を集めることに腐心していた。
■本大会で戦う材料を集めた
(C)Getty images伊東は序盤に数度の仕掛けを見せた後、アジアでの戦いのように抜き切ることができないと悟ると長友の上がりを生かす回数を増やし、中盤も遠藤を軸に後半からボールを落ち着ける時間を大事にした。それも、ギリギリまで均衡状態を保ち、勝ち点を得る確率を高めるために選ばれたオプションだ。
吉田も「本戦だったら0-0で終えないといけない試合だった」と振り返りながら、「代わる選手たちに良い形でボールを配給してサイドの一対一のチャンスももっと作らせる形も作りたかったと思いますし、最後に(三笘)薫が2回くらいありましたが、ああいうシーンがもっとあれば後半スペースが空いた中で自分たちの特徴が生かせるんじゃないかなと思います」と、本大会に照準を合わせて“良い試合をした”という抽象的なものではなく具体的な改善案に落とし込んでいる。
これらの実感は森保ジャパン発足当初から掲げていた、状況を見ながら臨機応変に対応するためのオプションを増やしていくための材料となる。セットプレーも含めてすぐに改善することは容易ではないが、本大会で勝つために確実にチームに共有される課題であり、収穫そのものだ。
一方で、次の試合でも確認できそうな部分が個の部分だ。特に日本がこれまで武器としていたサイド攻撃でこれまで通りのプレーができず、アタッカーたちはさらに高い基準を身体にしみ込ませた。
アジア最終予選で途中出場から眩い輝きを放ってきた三笘も「自分のドリブルがどれだけ通用するか知りたいところはありました。でも二本くらい止められていたので、そういう実力だなと改めて分かった」と肩を落とす反面、ドリブラーとしての幅を広げようとしている。
「仕掛けるところとパスするところの判断をしていかないといけないと思います。時間もなかったので仕掛けることを意識していましたがそこでも流れを変えることができなかったので、もっともっとスピードだったりフィジカルのところを上げるべきだと思います」
これについては、かつてインテルで長きにわたって世界基準を経験した長友も「薫とミリトンの一対一も、ミリトンも世界レベルの守備の強度というのを僕も見ましたけど、中にサポートがいたり、色んな所にサポートがいる中での一対一だと剥がせるときもあるんじゃないかなとは感じました」と同様の見解を口にしている。
PKによる0-1の敗戦で、見る人によっては悔しさや惜しいという感情で占められたかもしれないブラジル戦。しかし、選手たちはW杯ベスト8以上という高い目標にブレ続けることなく進んでおり、悔やみながらも冷静に糧としていく姿は期待を抱かせるものだ。続く10日に行われるキリンカップのガーナ代表戦、ブラジルとはギャップのある相手だが、肌で覚えた高い基準を表現することが次の一歩となる。
取材・文=上村迪助(GOAL編集部)
