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【サッカー日本代表vsサウジアラビア代表|徹底分析】西紙分析官も唸った森保監督の“絶対信仰”「個人技含めたすべてが歯車」「伊東を形容する言葉は枯渇」

 日本代表は2月1日、カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選でサウジアラビア代表に2-0で勝利した。スペイン紙『AS』の試合分析担当・ハビエル・シジェス氏は、指揮官の意志の強さとまたも輝いたヒーローに賛辞を贈っている。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■創造性でなく安定性が有効と確信

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 日本は「YES or YES」でカタールW杯の舞台に立たなくてはならない。確かに最初の数試合ではフットボールの方向性を見失い、不信を買ってしまった森保一監督だが、そこから見事に軌道を修正してきた。今回のサウジアラビアとの決戦で、日本は間違いなく勝利に値したし、その成長ぶりと勢いをまざまざと見せつけている。

 最初に言っておかねばならないのは、日本のプレーアイデア自体については最初のサウジアラビア戦からそこまで変わっていない、ということだ。森保監督は理解し得るものも首を傾げたくなるものもある、その病理的なまでの実用主義を貫き続けている。いずれにしても彼が自らの戦術プランに向けている確信、絶対信仰を批判するべきではない。

 森保監督はどれだけ非難の嵐にさらされようとも、己に忠実であろうとしている。外部からの批判は絶えず存在し続けるものだし、しかもそれは責任を伴わぬ気まぐれなものにしかなり得ない。そうした中で森保監督は自らの信念を貫き、そして選手たちも彼のプランを信じているようだ。それこそが何よりも大切なのである。

 日本はこのサウジアラビアとの事実上の決勝戦で、凄まじい集中力と競争力を発揮。チームがピッチから伝えるメッセージで、何よりも重きが置かれていたのは安定性だった。森保監督はカタールまでの道程を踏破することにおいて、創造性や軽いものにしかならないコレクティブな攻撃よりも、安定性が何よりも有効との確信を得ている。中国戦と同じだった今回のスタメンは試合状況に応じてプレー方法を変えて勝利に到達することを目指した。日本はいつプレスを仕掛け、いつ走り、いつポゼッションすべきなのかを選択していったのだ。

 立ち上がりは少しもたついた。日本はサウジアラビアにボールを譲り、ピッチ中央から少し後ろでブロックを形成したもののアグレッシブさが足りず。1-4-1-4-1のシステムで、大迫の背後に位置したアブドゥレラー・アルマルキを田中碧も守田英正もケアせず、ライン間で簡単にボールを受けさせてしまった。だがサウジアラビアが位置的優位性を取ったことも森保監督のプランの範疇であり、日本というチームは動じていなかった。中央を固め、ライン間を狭めて、谷口彰悟と板倉滉の鉄壁を頼りにしながら自分たちのチャンスを待ったのだった。

 チャンスを探っていた最初の段階で、日本の中盤はうまく機能していなかった。遠藤航は厳重警戒の対象となり、田中も守田もパスを受けるためにはサイドに開く必要があった。日本はボールを巡る戦いで敗れたわけだが、しかし森保監督率いるチームにとって一つの勝敗はさして重要ではない。ポゼッションで負けるならトランジションから点を狙えばいいのだから。ボールを奪って、隙が生じたところから前進し、サイドで深みを取る……。日本はサウジアラビアの守備の弱点、サイドバックがサイドをカバーし切れないことを理解していた(最初の対戦ではその弱点を突き切れていなかった)。サウジアラビアはアルマルキの負傷も相まって慌てふためき、日本がマニュアル的な速攻から南野拓実が先制点を決めている。

■伊東の名声はアジアやベルギーを越えるべき

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 伊東はまたしても決定的だった。このW杯予選で彼が行っていることを形容する言葉は、すでに枯渇している。彼はすべてをこなし、こなすことすべてが見事だ。極めて高いプレーリズム、心臓に毛が生えているかのような大胆さ、ゴール前最後の数メートルでの爆発力……伊東が手にすべき名声はアジアやベルギーを越えていかなくてはならない。今の日本は良質なフィジカルを備え、素早いトランジションを実行できる選手たちを必要としており、そのどちらも有しているヘンクFWの存在はあまりに喜ばしいニュースだ。

 日本の先制点の場面で、伊東は酒井の縦パスから右サイドを突破。その巧みなスペースの突き方によってサウジアラビアの左サイドバック、ヤシル・アルシャハラニの対応を滑稽なものにすると、飛び込んでくる南野をしっかりと感じながらグラウンダーのクロスを送っている。南野はほとんど何もしていなかったが、先制点でのフィニッシュワークが示していた通りに、選手としてのクラスには文句のつけようがない。

 この日本の先制点は、森保監督のプランにさらなる価値を与えると同時に、サウジアラビアを屈服させたも同然だった。エルベ・ルナール監督率いるチームはリアクションが取れなかったばかりか、方向を見失い、すべきことを間違えている。日本はその後も中盤でブロック形成し続けたが、相手陣地でボールを失った直後にプレスを仕掛けることも怠らなかった。こうして日本の未完となる攻撃は、サウジアラビアの悲劇に直結していく。遠藤はデリケートな場所で何度となくボールを奪い返し、新たな攻撃のチャンスを供給。伊東がセンターバックとサイドバックの間を縫う賢い動きから決定機を迎えるなど、日本はいつ追加点を決めてもおかしくなかった。

 そうして後半、伊東が今度こそチャンスをモノにして、試合を通じて見せた素晴らしいパフォーマンスを自ら祝福した。彼自身のアブドゥラー・アルハイバリに対するプレスによって遠藤がボールを奪うきっかけをつくると、冷静かつ大胆なボレーシュートでもってゴラッソを生み出している。いま、伊東を止められる選手は存在せず、日本はその恩恵を享受している。

 リードを広げた日本は、攻撃を放棄することなく残り時間を管理している。伊東は彼らしいプレーを続け、田中はペナルティーエリアへの飛び出しなどで存在感を発揮し、途中出場の前田大然、中山雄太、浅野拓磨もそれぞれ攻撃にプラスアルファを付け加えている。2点以上ゴールが決まらなかったのは、単に決まらなかったというだけで、決める状況自体は生み出せていた。今の日本は現代のフットボールシーンに対して、意義深いものを供せるチームだ。彼らは今回のサウジアラビア戦で、そのことを今一度示したのだった。

 日本は個人技だって持っている。が、森保監督はその戦術的信念によって、個人技含めたすべてをコレクティブの歯車を改善させるために使っていく。すべてをグループ全体の恩恵にしてしまえるならば、日本はもっと競争力のあるチームになれるはずだ。

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