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【コラム】夢は「日本のW杯優勝」。バイエルン内定の福井太智が果たした恩返しと大志への研鑽

 サガン鳥栖U-18は11日、高円宮杯U-18プレミアリーグファイナルで川崎フロンターレU-18に3-2で勝利。主将としてチームをけん引した福井太智は非凡な輝きを放っていた。【取材・文=川端暁彦】

■課題克服のミドルが決勝点

「もし行けるのなら、行こうと思っています」

 バイエルン・ミュンヘンと契約できるかもしれない。そう提示された佐賀県の高校3年生が、大きな決断を下したのは今年の夏だった。安易な考えで決めたのではない。リスクについても分かっている。「Jリーグがダメだとか、鳥栖がどうとかいうわけじゃないんです」とも強調する。ただ、「このまま日本にいては追い付けない」とも感じた上での決断だった。

 12月11日、サガン鳥栖U-18の主将でもあるMF福井太智は「今年の大きな目標の一つだった」という高円宮杯U-18プレミアリーグファイナルのピッチに立っていた。クラブチームや高校サッカーといった枠組みを越えて年間を通して争われた東西リーグの王者が相撃つ日本一決定戦。「バイエルン内定のMF」として国立競技場に集まった観衆の視線も集める中で、特別な輝きを見せ付けた。

 現在の鳥栖U-18で任されているポジションは4−3−3のアンカー。ボールを引き出し、さばき、時には運び出す。守備に回れば穴を埋めつつ、インターセプトも狙い、こぼれ球を回収しつつ、時には跳ね返し役にもなる。

 この日は東の王者・川崎Fを相手に巧みなゲームコントロールを見せつつ、全3得点に絡んでみせた。特に抜きん出た輝きを見せたのは3点目のゴールだろう。「前の二人が限定してくれていたので」と、相手のパスワークを読み切ってのボール奪取から、そのままドリブルで前進。スペースがなさそうであるところを進んだが絶妙のコース取りを経て、右足のミドルシュート。かつて「課題」と語り、ずっと取り組んできた中距離からの一発は、この試合の決勝点となった。

■「鳥栖に恩返しがしたかった」

20221212_Fukui_U15(C)Akihiko Kawabata

▲U-15年代でもクラブユース選手権制覇

 中学時代は「上手いし、良い選手だけど……」といった「けど」の付く選手だった福井だが、U-18の3年間で田中智宗監督から「ボールを出すだけでなく、ゴールを狙える怖い選手になれ」「もっとボールを奪える選手になれ」と強調され続け、「僕自身もずっとそこが大事だと思ってきた」と取り組み、スケールアップを重ねてきた。

 トップチームの練習にも継続して参加し、トップのメンバーに入らなければ週末のU-18の試合に向けて合流するというサイクルをこなし続けた。そうなると、チームとの一体感を失ってしまうものだが、福井は違った。たとえトップの練習に出ていても「ユースの練習には必ず顔を出すようにしていた」(福井)し、また寮に戻れば仲間たちと議論を交わし続けた。「このチームのために頑張りたかった」とも言う。

「サガン鳥栖は自分にとって親みたいなもの」

 小学校3年生で神奈川県から父親の転勤に伴って引っ越してきた福井を受け入れ、共に高め合い、クラブの歴史を作るような栄冠も勝ち取ってきた仲間たちとの絆は特別なもの。「鳥栖に恩返しがしたかった」という言葉も掛け値なしの本音だろう。そしてその言葉どおり、チームにタイトルをもたらしてみせた。

■4年後のW杯へ強い思い

 来年1月にはドイツへと旅立ち、新たな生活を始めることとなる。目指すは子どもの時からずっと変わらず「日本のW杯優勝」である。

「4年後に自分の力であそこに行く。クロアチアに負けたときは本当に悔しかったし、『自分が日本を変えてやるんだ』という気持ちも芽生えた。『自分も絶対にあのピッチに立たないといけない』と思っています」

 元より無類の努力家で向上心の塊のような男である。この日、記者から出た「ドイツ語の勉強はしているの?」という質問には、ドイツ語での自己紹介を披露するという形で答えてもくれた。

 今年は渡欧に備えて筋力トレーニングにも注力しており、体付きも明らかに変わってきた。18歳で渡欧する若武者は大きな夢を抱くだけでなく、現実も見据えながら自分自身を磨くことを怠らない。

 この日の国立で福井太智の「恩返し」は終わり、夢への挑戦が始まる。

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