日本代表は24日、カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選でオーストラリア代表に2-0で勝利し、本大会出場権を獲得した。その瞬間を現地で見守ったサッカージャーナリストの林遼平氏は、森保ジャパンが示した姿勢に感嘆している。
■ドーハの悲劇から約30年
(C)Getty images貫いた積極的な姿勢がゴールとなって結実したのは89分のことだった。原口元気から右サイドにボールが出ると、高い位置まで上がっていった山根視来はペナルティーエリア内に入った守田英正とのワンツーを選択。相手の急所を巧みに突くと、深い位置からラストパスを送った。このボールに反応したのは途中出場の三笘薫。冷静に右足で合わせたボールはゴール左へ決まり、日本に大きな先制点がもたらされた。その後、後半アディショナルタイムにも三笘が追加点を奪い、日本は宿敵・オーストラリアを破ることでW杯の出場権を獲得した。
あと一歩のところで日本サッカーの夢が潰えたドーハの悲劇から約30年。当時、選手としてピッチに立っていた森保一監督の下、今回の決戦に挑んだ選手たちは「つかみ取る」ことの意味を理解していた。かつて最後の最後に守りに入ってしまったことで手のひらからすり抜けたW杯の出場権。あの悔しさを知る指揮官だからこそ、チームに「W杯は相手から与えられるものではない」と強調した。
「シンプルに勝ち取りに行く、つかみ取りに行こうと。今日のミーティングでも『いろいろな難しい判断をしなければいけないけど、積極と消極があれば積極的な選択をしてほしい』と話しました」
自身の失敗談を交えて伝えたわけではない。それでも、自身の苦い思い出やコーチとして参加したロシアW杯の経験が言葉となってチームに示された。
この日、ピッチに立った選手、ベンチ入りした選手、ベンチ外になった選手。遠征に参加したすべての選手が勝利に向かって邁進していた。最前線に起用された浅野拓磨が攻守にスプリントを繰り返して相手のバックラインにボディブローを効かせれば、両サイドは人数をかけた攻撃で相手のゴール前を強襲。なかなかゴールは生まれなかったが、多くのチャンスを作り出すことにつながった。また、守備ではバイタルエリアに侵入される場面こそあったものの、ディフェンス陣が冷静な対応を続け、最後は体を張って対応。水を漏らさない守備を続けた。
■ベンチの選手も前のめりで声かけ
(C)Getty imagesゲーム終盤になっても日本の積極性が失われることはなかった。引き分けOKのメンタリティーならば、後ろへ意識が傾いてもおかしくなかったかもしれない。だが、“つかみ取る”ことを心に刻んでいた選手たちは、リスク管理を徹底しながらも果敢にゴールを目指した。迎えた先制点の場面。インサイドハーフの位置からゴール前に入っていた守田は、引き分けではなく、勝利のために最適なポジションへと動いていたことを明かした。
「個人的には勝てると思っていた。もちろん(引き分けの)選択肢はゼロではなかったけど、得点を奪える予感、匂いは感じていた。失点しない、ゼロに抑えることが一番大事。そのうえで得点を取って勝つことを考えていた」
前線に上がり、自身の特徴である攻撃力を発揮してアシストを記録した山根も続く。
「(三笘)薫が入ってきたのも一つのメッセージだと思った。今日は勝って決めると、90分間ブレることなくチーム全員が共有できていたと思います」
得点を奪った三笘は称賛されるべきだ。ただ、そこまでハードワークを続けた選手たち、勝利を信じてベンチで前のめりにピッチに向けて声をかけていた選手たちがいたからこそゴールという結果が生み出された。チーム全員でつかみ取った勝利であることは間違いない。
「今日、勝利を目指して戦ったうえで我々が勝ってW杯の出場をつかみ取ろうとチームにも選手にも伝えていた。そういったことを考えた結果の選手交代であったり、試合に向けての采配でした。私の采配よりも選手たちがこの試合で勝って決めようということを、先発、サブ、サポートに回った選手みんなが意思統一して戦ってくれた結果だと思います」(森保監督)
窮地に立たされたところから始まった最終予選。決して簡単な道のりではなかったかもしれない。それでも、日本サッカーの未来のため、そして自身の夢のために逆境の中でも戦い続けた男たちは、7大会連続となるW杯のチケットを手にした。
取材・文=林遼平
