■バルサにあってリヴァプールになかったもの
決して試合内容は悪くなかった。だがそれでも、スコアは絶望的なものになった。バルセロナ相手に、第1戦で0-3。いくら次は本拠地アンフィールドで戦えるとはいえ、逆転の可能性は非常に薄いと言わざるをえない。
カンプ・ノウで何が起こったのだろうか? ユルゲン・クロップとリヴァプールはベストを尽くした。試合後、クロップ監督は「今季だけでなく昨季を含めても、チャンピオンズリーグ(CL)のアウェーゲームでベストな出来だったと思う」と話したが、その言葉は単なる強がりではなかったはずだ。ロベルト・フィルミーノがケガの影響で先発できない中、代役にストライカーではなくジョルジニオ・ワイナルドゥムを抜擢してセルヒオ・ブスケツ周りのスペースを見させつつ、彼のフォアチェックをスイッチにしてジョーダン・ヘンダーソン、ジェイムズ・ミルナー、ファビーニョの中盤がバルサのビルドアップ部隊に襲いかかる全体のプレッシングの強度も維持する策は、大成功ではなかったかもしれないが大失敗にも見えなかった。
26分にルイス・スアレスに一瞬の隙を突かれて見事なワンタッチゴールを決められたものの、それでもリヴァプールは果敢なプレッシングでボールを奪い、ショートカウンターに転じる攻撃の形も作れていた。実際、前半にヘンダーソンのアーリークロスからサディオ・マネが迎えた決定機をはじめ、後半にもミルナーやモハメド・サラーがゴールを脅かしたシーンもあり、どれかひとつでもゴールに結びつけることができていれば、展開は大きく変わっただろう。だが、決定的にフィニッシュの落ち着きが足りなかった。
そして、一方でバルセロナには決定力の“化け物”がいた。そう、リオネル・メッシだ。後半リヴァプールに傾きかけていた流れを、バルサの背番号10が圧倒的な個の力でねじ伏せる。75分、自らのスルーパスで演出したチャンスからこぼれ球を拾ってゴールを決めると、82分にも完璧な直接FKを決めて、スコアは3-0となった。クロップも「一瞬でも隙を与えれば、バルサにとってはそれで十分」と舌を巻いたが、まさにその言葉の通りになってしまった格好だ。
■3点ビハインドの記憶、それはイスタンブール
(C)Getty Imagesこうして、アンフィールドでの第2戦、リヴァプールは3点ビハインドを90分間で追いつかなければいけないという苦境に置かれた。
ただ、リヴァプールのファンの脳裏には最低3ゴールが必要という窮地を切り抜けた過去2度の「奇跡」が浮かんでいるはずだ。一度目は、言わずと知れた「イスタンブールの奇跡」。2005年5月25日、トルコで行われたCL決勝で、リヴァプールは前半開始早々にセットプレーからパオロ・マルディーニに先制点を許すと、その後もエルナン・クレスポに2発を決められ、前半だけで3点ビハインドという絶望の淵に立たされた。
ところが、54分に当時のキャプテンだったスティーヴン・ジェラードがヘディングシュートを決め、両腕を大きく振りかざして観客を煽るとスタジアムの空気が一変。2分後にはウラジミール・スミチェルがボックス外から強烈なミドルを叩き込み、さらに60分にはジェラードが倒されて得たPKを、シャビ・アロンソが一度はシュートをGKジーダに阻まれながらもリバウンドを押し込み、スコアはとうとうタイに。その後は延長までもつれ込む死闘を耐え凌ぎ、最後はPK戦を制して、誰もが諦めかけた状況からリヴァプールは逆転優勝を果たしたのだ。
■二度目の奇跡、ドルトムント戦の逆転劇
Getty Imagesそして二度目の奇跡は、クロップ就任後の16年4月14日、ヨーロッパリーグ準々決勝ドルトムント戦のセカンドレグだった。初戦を敵地で1-1と引き分けたリヴァプールだったが、アンフィールドでの第2戦ではわずか10分でヘンリク・ムヒタリアン、ピエール・エメリク・オーバメヤンに連続ゴールを許し、0-2でまたも45分間で最低3ゴールが必要なシチュエーションに追い込まれてしまった。
絶望感が立ち込めるハーフタイム、クロップは「イスタンブールの奇跡」を引き合いに出して、「難しくても逆転は可能だ。チャレンジしよう。子供たちや孫に語り継げるような瞬間を作ろう」と選手たちに発破をかけた。後半に入り、48分にディヴォック・オリギのゴールで1点を返すも57分にはマルコ・ロイスに決められ、なおも絶体絶命だったリヴァプールだが、クロップの喝を受けた選手たちは決して諦めなかった。
66分にフィリペ・コウチーニョ、78分にママドゥ・サコーのゴールでスコアを3-3にすると、最後は後半アディショナルタイムにドラマが待っていた。ミルナーのピンポイントのクロスに、デヤン・ロヴレンが強烈なヘディングシュートで合わせて、ネットが揺れる。2試合トータル5-4となり、GKだったシモン・ミニョレまでもが反対のゴールまで駆け上がって歓喜の輪に加わり、コップ(リヴァプールファンの愛称)の熱狂は頂点に達した。
試合後、敵将トーマス・トゥヘルは「スタジアムにいたサポーター全員が、土壇場にラッキーパンチを繰り出せることを知っていたかのようだった。起こるべくして起こったことのようだった」と肩を落としたが、選手はもちろん、アンフィールドの観衆は逆転を信じてやまなかった。窮地でも決して望みを捨てず、勇猛果敢に戦い続けるのがリヴァプールなのだということが証明された夜だった。
■三度目の“ミッション・インポッシブル”
Gettyだから今回も、リヴァプールの選手たちとアンフィールドは、決して諦めていない。誰もが奇跡を信じ、唯一無二の雰囲気を作り出して、バルセロナを迎え撃つことだろう。
とはいえ、「奇跡」はそう簡単に何度も起こらないから「奇跡」という。過去の2回と比べても、今回ばかりは本当に難しい戦いが予想される。メッシが絶好調のバルサではなにせ相手が悪いし、すでにリーグ優勝を決めている彼らは直前のリーグ戦で大幅なターンオーバーを敷いており、主力組のフィットネスもバッチリだ(※リーガ36節ではメッシ、スアレス、ピケらがメンバー外)。
これに対して、プレミアリーグでもマンチェスター・シティと超ハイレベルな首位争いをしているリヴァプールは毎試合が“決勝戦”で満身創痍だ。このセカンドレグの3日前には、ニューカッスル相手に敵地でガチンコ勝負を演じ、終了間際のオリギのゴールで3-2となんとか競り勝ったものの、消耗は決して少なくない。しかもその試合では、サラーが相手GKとの接触で脳震盪を起こして交代を強いられており、バルサ戦の出場は難しいとクロップが明言している。また第1戦は途中出場、ニューカッスル戦は欠場だったフィルミーノを欠くことも濃厚で、「最強の矛」と言われてきた3トップのうち、クロップが言うところの「世界最高のストライカーの2人」を欠いた状態で決戦に臨もうという非常事態に置かれている。さらに守備の要ヴィルヒル・ファン・ダイクが前日の全体練習を欠席して個別調整を行うなど、ディフェンス面でも大きな不安が広がっている。
そんな中で最低3ゴールが必要になるだけでなく、アウェーゴールのルールにより、1失点でもすれば必要なゴール数は「5」に増える。相手はノーゴールの試合の方が珍しいバルサなのだから、まさに“ミッション・インポッシブル”である。オリギやダニエル・スタリッジ、ジェルダン・シャキリといったメンツが代わりに先発することになるだろうが、正直に言って分が悪すぎる。
それでも、クロップは言う。「トライしよう。それこそいつも我々がやってきたやり方だし、再びやるべきことだ」と。絶体絶命の状況で、クロップと仲間たちはどんなパフォーマンスを見せるのか。クロップ政権で最大とも言えるチャレンジに挑むリヴァプールの勇姿を、目に焼き付けたい。
文=寺沢薫
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の記事です





