まさに職人技。2-2で迎えた88分からピッチに立った鹿島アントラーズMF柴崎岳は、ひと振りでチームを勝利に導いた。
「自分が出てから作れるチャンスは、あっても一回かなと思っていました。スルーパスのようなゴールに直結するパスをイメージしていたんですけど、セットプレーでもいいかなと思っていたなかで、一本蹴る機会があった。これを仕留めようと」
この日は、観客席からビニール袋のゴミが風に乗ってピッチに飛んでいくなど、強風が吹き荒れていた埼スタ。風の影響については選手たちも口にしており、鹿島の鬼木達監督は「前半は自分たちもコーナーキックからやられましたが、やっぱりあっち側のコーナー(ビジター席側)は風もあって難しい状況だった」とコメントした。
実際に柴崎が投入されるまでの間に、両チーム通じてコーナーキックから4得点中2得点が生まれるなど、強風がゲーム展開に与えた影響は少なくなかった。
しかし、日本が誇るプレースキッカーの柴崎にとっては何の問題もなかったようだ。「そんなに風の影響は考えていなかった。自分のペースで蹴っただけです」と何食わぬ顔で90分に左コーナーキックから決勝点をアシストしてみせた。
柴崎の右足から放たれたボールは放物線を描きながら、ニアで待っていたFWチャヴリッチにピンポイント。これを背番号77がヘディングで合わせて、鹿島が逆転に成功した。
「(植田)直通と蹴る前に話して、そのまま決めた位置に蹴れた。直通が気を利かせて、キャプテンマークを渡してくれたので、それもあっていいボールを上げたいと思っていました」
風の影響を感じさせない見事な今季初アシストだったが、淡々とした口調で振り返るのだから恐れ入る。背番号10を背負うキャプテンは自身のキックではなく、戦い抜いたイレブンを称賛した。
「みんな本当に頑張っていた。守備でも攻撃でも本当によく走っていたと思うので、何とかしてチームの努力が報われるような形にしたかった。自分が入って得点を入れて勝たせたいと思っていたので、達成できて良かったです」
それまでポーカーフェイスだった柴崎の表情が、少しだけ崩れた瞬間だった。
取材・文=浅野凜太郎


