2022シーズン3月から5月にかけて、J1全18クラブとVTuber / バーチャルライバーグループ「にじさんじ」のコラボレーションが決行された。クラブチームのサポーターと、VTuberのファン。一見全く異なるファン層だが、結果として両者は温かく、自分たちが愛するコンテンツに対して互いにリスペクトを持ったコミュニケーションを図っていった。
VTuber「伏見ガク」が担当した清水エスパルスとのコラボレーションには、特に賑やかな交流が見られた。彼のリスナーとエスパルスのクラブサポーターが互いに知識をフォローし合い、毎試合後に は伏見ガクから熱心な感想が何度もSNSに投稿された。
伏見ガクのにじさんじ配信者としての活動は4年目。定番は朝6時45分から7時半頃までアクター(伏見ガクファンの呼称)と一緒に朝ご飯を食べる、通称「おはガク」配信だ。時にはホラーゲームの配信や他ライバーとのコラボ配信も積極的に行っており、親しみやすい性格で誰とでも分け隔てなく接する人柄が人気を集めている。
配信でも「みんなとの一体感を大切にしている」と言う伏見ガクに、コラボレーションへの思いを振り返ってもらった。
サッカー初心者からのスタートと、スタジアムでの感動
――今回の「Jリーグクラブコラボ」のオファーが来た時はどんな思いでしたか?
伏見:率直に言うと、「オレでいいんですか?」というのが第一印象でした。サッカーって世界中が熱狂する一大スポーツなわけで。そのコラボにお声かけいただけて不安半分……いや、不安“1/4”で、残りは全部嬉しさでした。でもオファーいただいた段階ではサッカーの知識が全くなくて、試合を90分フルで見たこともなかったんです。めちゃめちゃ楽しみに思うのと同時に、そんな俺が「サッカーのコミュニティ」に入っていいのか心配ではありましたね。
――担当された清水エスパルスへの、率直な印象をお願いします。
伏見:ほとんど知識がない自分でも知っている有名クラブなので、なおのこと「オレでいいのか!?」と戸惑いました。公式で担当が発表されてから試合やスタジアムの様子を見て、「一面のオレンジ色、めっちゃかっこいい!」って感動したのを覚えています。
――知識が無いなかでスタートして、どんな風にサッカーに関わっていきましたか?
伏見:サッカーに詳しい友人に清水エスパルスについて教えてもらいました。そこで「エスパルスのサポーターは優しい人が多いよ」とか「応援歌がサンバで、相手チームでも聞いていて気持ちがいいよ」と聞いて。まず応援の仕方から学んでいきましたね。
――初めて見た清水エスパルスの試合が、伏見ガクさんにとって「初めてのサッカー」となったんですね。
伏見:そうですね。初めて見たのは鹿島戦でした。アクターのみんなと一緒に試合を見る「同時視聴配信」をしたのですが、みんなが「鹿島は強い」とコメントしていて、どうなるんだろうってハラハラしたのを覚えています。まずベンジャミン・コロリ選手がヘッドを決めてエスパルスが一点取ったんですよ。その瞬間、もう勝つんじゃないか?って勢いになったんですけど、アディショナルタイムで入れられてしまって……。オレも含め、アクターのみんなもすごく悔しがってました。ほろ苦いですが、とにかく「カッコよかった!」と感激しました。ゲームのサッカーとは違う、プロ選手の方が本気でぶつかり合う姿がすごく熱かったです。
サッカーについて分からないことは、コメントでたくさん教えてもらいました。「この選手が見どころだよ」っていう補足をたくさん入れてくださって。あと初心者あるあるで「オフサイド」が自分なりに調べても分からなかったんですが、試合中にコメントで「今のがオフサイドだよ」と教えてもらって「オフサイドってこういうものなんだ」と実感できたり。
――スタジアムには行かれましたか?
伏見:ガンバ戦に行きました。めちゃめちゃ楽しかったですね!「(スタジアム)こんなに広いんだ!」って本当に驚きました。試合が始まると、中継では映らないーー例えば控えの選手が走り込みとかして準備している姿も見れて興奮したり。
印象に残っているのは、味方にボールが渡ると必ずサポーターから拍手が起こることですね。清水エスパルスでは「共に戦いましょう」っていうフレーズを使っているんですけど、本当にサポーターも一緒に戦っているような……いや、実際に戦っているんです。気合いれなきゃいけないシーンは拍手とサンバのリズムが止まらなくて。もちろんシュートが決まったらみんなで喜んで。こうした光景を目の当たりにして、感極まりました。
――他にサッカーを見ていて、楽しいなと感じたところはありましたか?
伏見:やっぱりゴール前の攻防ですね。攻めるのもそうですけど、コーナーキックからのヒリつきがめちゃめちゃ好きで。あとはカウンターで、相手選手がいないなか突き進んで行って、ゴール前に行った時に決められるかどうかとか。あとは、サイドで別方向からクロスが飛んできてヘディングするところが一番好きかもしれないです。
――サイド攻撃がお好きなんですね。好きな選手はできましたか?
伏見:ヴァウド選手と権田修一選手です。浦和レッズ戦で、山原選手のクロスからヴァウド選手がハンマーヘッドを決めたプレーがすごくカッコ良かったんですよね。権田選手は湘南戦のスーパーセーブがめちゃめちゃすごかった!相手が攻めてきてたところに権田選手がガッツリ前に出て止めたシーンがあって。「そんなセーブの仕方があるんだ!」って惚れてしまいましたね。
オンラインで生まれ広がっていったファン同士のポジティブな交流
――同時視聴配信には伏見ガクさんのファンだけでなく、清水ファンの方が入ってきたこともあったんでしょうか?
伏見:はい!「エスパルスサポーターです」とコメントくださって、「ここが見どころだよ」とか「このシーンが熱いよ」と教えてくださったりして。ずっとチームを応援しているサポーターの方のアドバイスってすごく心強いんですよね。
――いいですね。この頃、清水がなかなか勝てなくて苦しいシーズンが続きました。ですが伏見ガクさんは毎回すごくポジティブに「ここが良かった、次勝てるよ」等とツイートをされていて、清水ファンも勇気をもらえていたようです。あそこまでファンの気持ちを持ち上げられた理由は、なんだと思いますか?
伏見:応援しながら一緒に戦っている気持ちもありますが、一番悔しいのは選手だと思ったんです。もてる最大を尽くした選手にネガティブな気持ちは湧きませんでした。たとえ負け試合でもカッコよかったシーンがたくさんあったので、応援する気持ちが強かったです。
ただ、こういう考え方もサッカー初心者特有かもしれませんし、何年も応援し続けたらまた気持ちも変わってくるかもしれません。でも少なくとも今のオレには、カッコいい選手の動きが一番目に焼き付いていたので。
――全く違うコミュニティのファンが、伏見ガクさんを通して交流している様子を見てどういう印象を持たれましたか?
伏見:恐れ多いんですけど、オレをきっかけにこうした交流が生まれて本当に嬉しいです。「チケットってどう取ればいいんだろう」とか「サッカーの見どころが分からない」っていう方にTwitterのリプライとかで教えて下さる方もいらっしゃって。Twitterだけじゃなくて「伏見ガクさんのファンの方へ」って解説動画まで作って上げてくださって。
サッカーって少しハードルが高い部分があるじゃないですか。一般的なルールや選手の知識だけじゃなくて、暗黙の了解があるんじゃないかとか。そういう所も嚙み砕いて「清水エスパルス講座」として紹介してくださる方もいて。あるコンテンツを優しく教えて下さる方ってとても貴重ですし、清水エスパルスはもちろんのこと、エスパルスのファンの方には本当に頭が上がらないです。
――それは伏見さんがコラボレーションを心から楽しんで、ファンに届けてくださったからこそではないでしょうか。
伏見:サッカーの試合を見るのが嫌って思ったことは一度もなくて、本当にずっと楽しかったですね。僕自身、スポーツカフェとかでファン同士が盛り上がって応援しているのを見て、知らないながらに「いいな、いつかサッカーをきちんと知って好きになりたい」と思っていたので。そこで今回清水エスパルスとの機会を頂けてとても嬉しかったです。
――最後に。今回のコラボレーションを振り返って、サッカーを通してどんなものが得られましたか?
伏見:何も知らないペーペーだったのに、ファンの方々に終始温かく接していただきました。VTuberとJリーグって本来交わらないものじゃないですか。でもオレのファンは「サッカーを見に行きたい」って行動してくれて、エスパルスファンの方は「新しく入ってきた人たちに優しくしよう」って迎えてくださって。あとはやっぱりオレのファンと一緒に楽しめたのは良い思い出ですね。オレの「おはガク」っていう朝の配信でも、アクターの方がパルちゃんをイメージしたご飯を作ってくれたり、パルちゃんと一緒に撮った写真を送ってくれたこともありました。パルちゃん本当に可愛いので、いつかコラボしたいですね!
今回ファンの皆さんが交流してくださったように、会社や学校でも「サッカー」っていう共通の趣味で交流が広がって行くと嬉しいです。新しいコンテンツって自分の人生をより豊かにしてくれるんじゃないかなって。オレが少しでもそのきっかけになれたら本当に光栄です。
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