ヴァイッド・ハリルホジッチ氏の解任からロシア・ワールドカップ(W杯)での奮闘、そして森保ジャパンでの新たなスタート――。2018年も多くのサッカーファンが日本代表の戦いに一喜一憂した。
『Goal』では、日本代表を長年取材する北條聡氏、飯尾篤史氏、川端暁彦氏という3名のサッカーライターに、2018年のサムライブルーを総括してもらった。「ロシアW杯」「森保ジャパン」「アジアカップ2019」という大テーマをもとにした鼎談(ていだん)の模様を前編・中編・後編としてお届けする。
中編では、ロシアW杯後に日本代表指揮官に就任した森保一監督とそのチームを振り返る。代表を間近で見続ける3人の“森保ジャパン”の印象は――。
【前編】2018年の日本代表総括…現場記者が裏話を交えながらハリル解任、西野ジャパン、ロシアW杯を回顧
■“意図しての”世代交代

飯尾:7月26日に森保監督が就任して最初のメンバー発表は、8月30日インドネシアでU-21代表が参加していたアジア大会の場でした。川端さんと僕も取材していた大会でしたね。
北條:飯尾さんは森保監督の最初のメンバーについて、どのように感じました?
飯尾:発表直前まで森保監督は、ロシア・ワールドカップのメンバーで行こうかどうか悩んでいたそうです。ワールドカップを多くの方たちがテレビの前で応援してくださった。その凱旋試合といった「応援ありがとうございました」という意味合いのゲームにするべきなんじゃないか? という考えがあったそうなんです。
迷いに迷って大きく世代交代したあのメンバーになったんですね。結果的にはその決断が大きかったと思います。先日、遠藤航も言っていたのですが、ワールドカップのメンバーで9月シリーズを戦って、10月シリーズで南野拓実や中島翔哉、堂安律が加わったら、今までと変わらなかった。ベースがある中に若い選手が入ってくると、先輩たちのサッカーに合わせるといった形になる。
堂安、中島、南野、(遠藤)航たちで森保監督の初陣を戦って、良いゲームができて、10月に彼ら(ロシア組)が入ってきた。若い選手のパフォーマンスを生かそういったイメージで10月シリーズに入れた。遠藤は「逆だったら難しかったと思う」と言っていました。そこは森保監督が持つ、“決断の法則”だったと思います。
川端:代表チームというものは、レーゾンデートルというか、無意識なピラミッドというものをみんな持ってしまっているんですよ。それを最初に壊せたことは大きいと思います。実は森保監督は東京五輪代表でも同じことをやっているんです。
森保監督率いる五輪代表の初の活動となったタイ遠征(2017/12/6~17)は、2017年のU-20W杯韓国大会(同年5/20~6/11・内山篤監督)に出場したメンバーを一切選びませんでした。森保ジャパンのスタートポジションでU-20W杯メンバーが排除されたことで「フラットな競争をするんだぞ」というメッセージが選手たちに伝わったんですよね。これでU-20W杯のメンバーたちには危機感が芽生えたし、それ以外の選手たちには「俺たちもやれるぞ」というムードになった。
加えて、森保監督の戦術理解といった部分ではU-20W杯メンバーより先輩になりました。その逆転現象を作ることによって、U-21代表のその後の競争につなげていけたんです。最初から意図的にそうやったというより、結果的にそうなったという部分もある流れでしたが、A代表に関してはその経験を踏まえて考えた部分もあると思います。
飯尾:9月シリーズから選ばれた選手からは、実際そういう声が出てましたよ。
■日本代表が引き継いでいく「ドラマ」
(C)Getty Images北條:僕は「森保さんが代表監督になった」という事実が一番大きいと思っています。今は誰もが自然なことだと思っていますが、日本人監督に任せます、といって最初から託されたのは加茂さん(※)以外いないわけですから。
※加茂周監督。98年フランスW杯出場を目指し1994年12月に就任するも、W杯アジア予選での成績を問われ1997年に解任、岡田武史監督が就任し、98年日本にとって初のW杯出場を決める。
川端:加茂さんもドーハの悲劇後から指揮を執ったわけではなく、まずファルカン監督(※)がバトンを受け取って、それを引き継いだ形ですよね。
※現役時代にブラジル代表でプレーし、1982年W杯でジーコ、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾと共に“黄金のカルテット”を形成。1994年にハンス・オフト氏の後任として日本代表監督に就任したが、同年に広島で開催されたアジア競技大会の準々決勝で韓国代表に敗れた後に解任された。
北條:ということは、いわば日本代表にとって(最初から日本人監督に託されるのは)初めてだってことですよね。ただし、ロシア大会の結果がなかったら森保監督だったかどうかは分かりませんが。これは連続している話であって、筋が通っている。森保監督はコーチとしてロシアW杯に行っています。いろんなものが引き継がれている流れに日本代表もやっとなってきたんですよね。
世代交代もそうなんですが、代表でだいたいどこも失敗するのは「全とっかえ」なんですよ。本当は全部代えてはダメで、やはり「語り部」を残しておくのが必要なんです。そうしないと代表がつながっていかないから。先ほど話に出た「ドーハの悲劇」ではないけれど、やっぱりああいったものは「物語」として共有しているものが伝わっていかないといけないと思います。
今回は、吉田、大迫、長友、こういう選手たちが残ってることに意味がある。そこに新しい世代が加わってよい流れができていて、そして、ドラマが続いている。森保監督自身がドラマの続きの担い手だったわけですから。
川端:森保監督はドーハの悲劇の当事者ですしね。
北條:森保監督は五輪代表では、広島時代のスタイルでやっていますが、この代表ではやっていない。すごくいいことだと思っています。それは「連ドラだ」っていう意識が森保監督にあるからだと思うんですよね。
自分が広島で成功した形をわざわざやらなくても「日本代表としての資産があるじゃん」っていう。ロシアでやったばかりのね。無理やり自分の持っているものを押しつけることもなく、すごく自然に世代交代を図りつつ、代表は続いていますよ、っていう部分をひっくるめて今取り組んでいる。これは監督の人事から含めてうまく回っている理由の一つだと思います。飯尾さんは森保ジャパンになって、雰囲気の変化なんか感じますか?
飯尾:フレッシュになりましたよね。若い子たちがのびのびやっている雰囲気もある。一方でやはり、吉田や長友には「包容力」を感じます。もちろん、2人とも長谷部誠というキャプテンと、長友にとっては本田圭佑という同級生がいなくなったことも影響していると思います。
川端:冨安健洋に対する吉田のコメントもものすごく面白いですよね。
飯尾:まさに、そうですね。吉田に関しては、長谷部がいなくなってキャプテンマークを背負っている思いもあるだろうし、長友は本田がいなくなって「自分が引っ張らなきゃ」っていう使命感みたいなものもあると思う。彼らは本当に経験があるから、がむしゃらに引っ張るんじゃなくて、自信満々なんだけどすごく落ち着いている雰囲気がある。
川端:自信満々だけど高圧的じゃない。
飯尾:ミックスゾーンで向かい合って話を聞いていると「ああすごくいいキャリアの重ね方をしてきているな、吉田と長友には本当に任せられるな」といったものをすごく感じます。
北條:それはやっぱり、長谷部を見てきているからなんだろうね。
飯尾:そうでしょうね。長谷部がいなくなったこと、本田がいなくなったことはすごくある。先ほど北條さんがおっしゃったように、とてもよい「ドラマ」の流れがある。それでいて彼らは主役になろうとは思っていなくて、「主役は翔哉や南野や律でいいだろう」みたいな、“名脇役”的な感じがすごくいいんですよ。
■今年の日本代表、漢字一文字で表すなら…
(C)Getty Images飯尾:それでは最後に。2018年の日本代表を漢字一文字で表すとしたらいかがでしょうか?
川端:僕は「続」ですね。継続の「続」。もしかすると、Jリーグが始まった1990年代以降の代表チームで初めて「続いたチーム」なんじゃないのかという点で。
今まではW杯が終わって、「(2002年日韓大会の)フィリップ・トルシエのああいうサッカーではダメだ! 次はジーコだ!」みたいな転換がW杯ごとにあった。「あっちだ!こっちだ!いや、それは違う、今度はあっちだ!」みたいになっていたんですけど、今回初めて「大枠ではこんな感じでいいよね」となった。その上で、もっと「緻密にやらなきゃダメだよね」ということで森保監督にバトンが渡されて。そういう中で選手構成含めてあの(ロシア大会の)チームが続いているなっていう感触を僕らは持っています。これは初めての挑戦です。
日本人監督から日本人監督っていう意味でも初めてだし、良くも悪くも4年後だけを見ていないチームがようやく初めてスタートしたんだな、っていう気がします。
(アジアカップに向けた)合宿のトレーニングパートナーに若い世代の選手を6名(※)呼びましたけど、ああいうことができるのも日本人の監督だからですね。そういう新しい流れ、続きものになった初めての経験を2018年の僕らはしているんだなと思っています。
※U-21日本代表MF三苫薫(筑波大)、同FW旗手怜央(順天堂大)、同FW上田綺世(法政大)、U-19日本代表MF伊藤洋輝(磐田)、同DF菅原由勢(名古屋U-18)、同DF小林友希(神戸U-18)
北條:僕は「信」。信じるの「信」。これは別に代表に限らず全部そうで。ハリルホジッチ監督の件に関しては「不信任」の信。「信じられません」ということで、西野朗監督に代わったわけです。逆に西野監督は日本のサッカーを信じていた。「俺たちは積み上げてきたものがある」って言って。
それはクラブチームでも一緒なんです。例えば鹿島アントラーズ。ジーコ以来ずっと「ジーコスピリッツ」を信じてきて、今回アジアチャンピオンになりました。川崎フロンターレもそう。フロンターレは去年(2017年)優勝したサッカーを信じて、今年も「俺たちはこれでいこう」って信じて連覇を達成した。信頼、信じる、自信。今年のサッカー界全部を含めて考えるとそうかなっていう気がするんです。「これでいいんだ」とね。
【後編】アジアカップ戴冠へ…日本代表記者が討論。2019年の森保ジャパンに期待することは?
【記者プロフィール】
北條聡
1968年生まれ。栃木県出身。1993年、ベースボールマガジン社に入社し『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。日本代表や五輪代表などの担当を歴任。2009年~2013年まで編集長。1996年アトランタ五輪、2002年日韓ワールドカップなど取材実績多数。2013年以降はフリーランスとして活動。古巣の『サッカーマガジン』や『Number』(文芸春秋)などに寄稿。著書に『サッカーは5で考える』(プレジデント社)など。
飯尾篤史
1975年生まれ。東京都出身。『週刊サッカーダイジェスト』編集部から2012年に独立して、フリーランスのスポーツライターに。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)『残心 中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)など。
川端暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、後に編集長を務めた。2013年8月にフリーランスとしての活動を再開。各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。
▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【DAZN関連記事】
● DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
● DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
● DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
● 野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ

