サガン鳥栖は、スペイン人指揮官ルイス・カレーラスの下、新たなスタイルの構築を目指して2019シーズンをスタートさせたが、開幕5試合でわずか1勝と苦しんでいる。それでも、この5試合を戦って見えてきた部分もある。深刻な得点力不足に陥った要因、そして選手が語る新スタイルへの手応えとは。【取材・文=青山知雄】
■開幕5試合で結果が出ていない鳥栖
©J.LEAGUEフェルナンド・トーレスというワールドクラスのストライカーを擁しながら、サガン鳥栖が開幕5試合で挙げた得点はわずか1。チームとしても1勝1分3敗の15位と苦しんでいる。そのトーレスも第4節で負傷交代。第5節の横浜F・マリノス戦はベンチ入りすることもできなかった。果たして鳥栖は大丈夫なのだろうか。
クラブは今季、従来の堅守速攻スタイルから主導権を握って戦うサッカーに方向転換すべく、スペイン人のルイス・カレーラス監督を招へい。現役時代にアトレティコ・マドリーでトーレスとチームメートだった指揮官とともに、新たなスタイルを目指してシーズンをスタートさせた。
しかし、チームは開幕から結果を出せず、練習はずっと非公開。メディアが取材する機会は基本的に公式戦当日だけに限られており、監督の考え方や選手たちの声が表に出てくることは決して多くない。試合を見ていても明確な形は打ち出せておらず、カレーラス監督の目指すサッカーが見えてこないのが現状だ。チームが目指す新スタイルは、まだベールに包まれていると言っていい。
■指揮官が目指すのは“ポジショナルプレー”
©J.LEAGUEなかなか核心を突くことができないなか、横浜FMとスコアレスドローに終わった第5節終了後、ボランチでプレーする高橋秀人に話を聞く機会に恵まれた。“知性派MF”としてピッチに立つ彼が、カレーラス監督のスタイルと鳥栖の可能性をどう見ているのかが気になったのだ。
まずカレーラス監督が目指しているのは、“ポジショナルプレー”だという。プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティのようにピッチ内で均等なポジション取りをした上で、選手たちには“質的優位”で攻めることを求めているようだ。
では、“質的優位”とは何なのか。
例えば、攻撃と守備が2対2の状況になった場合の攻め方について考えてみる。ボールを持っている側が周囲のサポートを受けて3対2の状況を作り出すのが“数的優位”。だが、そこで2対2の状況のまま勝負させていくのが、カレーラス監督の目指す“ポジショナルプレー”、つまり“質的優位”ということになる。高橋秀も「変にサポートとか、フォローをしないことがポジショナルプレーの原則。監督もそれをやりたがっていた」と説明する。
だが、この新スタイルを導入するにあたり、難しさが出てしまった。堅守速攻から攻撃的なサッカーへの転換がうまくいかないという簡単な話ではなく、そもそもクラブが伝統的に特長としてきた戦い方とのギャップが生まれてしまったのだ。高橋秀が続ける。
「もともと鳥栖は伝統的にフィジカルで走り勝つことで数的優位を作って、結果を出してきたチーム。キャンプから戦術を落とし込んできたけど、いざリーグ戦が始まって相手と対峙すると、自分たちにはポジショナルプレーを発揮できるだけの“個の力”がなかった。チームや選手が従来持っていた良さを監督が徐々に取り入れながら、少し戦い方が落ち着いてきたところ。ボールをつなげるようにもなってきたので、ここから徐々にポジショナルプレーに戻していこうとしている段階です」
チームはキャンプから積み上げてきたものを緩やかに推し進めつつ、別のアプローチを始めていた。これなら現時点でうまく結果が出ていない理由もうなずける。苦しい状況にあることは変わりないが。早い時点で方向修正を図れたのは、シーズン全体を見据えてもポジティブに捉えていい。となると、一番の問題はやはり得点力不足の改善に関してだろう。
■得点力不足を打開するために必要なこと

チームはトーレス、豊田陽平というストライカーを最前線に置いて戦っているが、攻撃面において彼らは基本的にフィニッシャーであり、いかに好機を多く生み出すかがポイントとなる。昨季はチャンスメイクに苦しんで得点力不足に陥り、何とかギリギリでJ1残留を勝ち取った経緯があった。試合に勝つためには“点取り屋”に仕事をしてもらうための演出が必要となる。高橋秀はその可能性についても触れてくれた。
「今年から加入したイサック・クエンカが、もっと長い時間プレーできるようになったり、小野裕二やビクトル・イバルボのように個で仕掛けられる選手が戦列に復帰すれば、このチームはもっと良くなる気がする」
指揮官はもちろんポジショナルプレーで勝負したい。それを具現化できる選手たちが戻ってくれば、カレーラス監督が掲げる“質的優位”の実現に近づけるはず。そうなれば、追いかける形で積み上げ始めた従来の良さである“数的優位”との融合も可能になる。もちろん理想論ではあるが、個の力で勝負させながら必要に応じて数的優位を作っていけば、今まで以上に主導権を握ってチャンスを増やせることにつながることが期待できるだろう。
この融合が成功に向かう裏付けとして、選手と監督のコミュニケーションと相互理解がある。指揮官は選手たちに「自分のやり方に適応してくれ」と求めながら、一方で自らもJリーグへ適応するように努力していることが選手たちに伝わっている。
決して一方的ではないことが見えているからこそ、選手たちも「すごく求心力があると思って、監督について行っている」(高橋秀)という。当たり前のようで難しい関係性がしっかりと成立しているのは、今後に向けて明るい材料と言っていい。
今はとにかく“個”を持った離脱者の復帰が待たれるばかりだが、それだけでは群雄割拠の戦国Jリーグに置いていかれてしまう。今は一丸になって“数的優位”のスタイルでベースを作る時期。産みの苦しみとでも言おうか。ここでしっかりチーム力と勝ち点を積み上げておくことで、負傷者が戻ってきた先に“質的優位”だけでも“数的優位”だけでもない、サガン鳥栖の新スタイルが待っているはずだ。
取材・文=青山知雄

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