■「弓矢」で「バズーカ」に対抗してきたクロップ
まだドルトムントの監督だった頃(2008~2015年)、ユルゲン・クロップはこんなことを言っていた。
「我々は弓矢を持っている。しっかり狙いを定めれば、ターゲットを射抜くことができる。問題はバイエルンがバズーカを持っているということだ。だが、ロビン・フッドだってうまくやったからね」
言葉の通り、ドイツのロビン・フッドたるドルトムントは、若々しさとハードなゲーゲンプレッシングによる一撃必中で、しばしば圧倒的に資金面で上をいくバイエルンを倒してきた。ブンデスリーガを2度制し、2012年のDFBポカール決勝でバイエルンを5-2で破って(この試合でハットトリックを達成したのが当時ドルトムントのロベルト・レヴァンドフスキだった)優勝したこともあった。ドルトムントでのクロップの対バイエルン戦績は22試合で9勝3分け10敗と、対絶対王者の数字と考えれば決して悪くなかった。
それでも、12-13シーズンのチャンピオンズリーグ決勝のような苦い敗北もあった。1-1のスコアで迎えた89分、バイエルンで最もクロップのチームからゴールを奪っている男(9得点)であるアリエン・ロッベンが決勝弾を叩き込み、クロップとドルトムントはウェンブリーの地で涙を飲んだ。この試合はクロップが「今も見返したことがない」という悔しい思い出のひとつである。
そんなクロップも今では職場が変わり、彼が言うところの「バズーカ」を持ったチーム、リヴァプールを率いるようになった。『transfermarkt』のデータを借りれば、リヴァプールの選手の市場価値合計はバルセロナ、マンチェスター・シティ、レアル・マドリーに次ぐ世界4位(9億2650万ユーロ:約1155億円)で、対するバイエルンは11位(7億4570万ユーロ:約931億円)。持たざる者として創意工夫を重ねて対抗してきた宿敵バイエルンを上回るチームを引き連れ、クロップはCLラウンド16で旧敵を久々に迎え撃つのだ。
■プレッシング戦術の基礎に立ち返った短期合宿
Gettyとはいえ、クロップと仲間たちは“持てる者”になっても「哲学」は変わらない。すでに今季のFAカップ戦で敗退したリヴァプールは、バイエルンとのファーストレグに向けた10日ほどのインターバルを利用して、暖かいスペインのマルベーリャで4日間のトレーニングキャンプを行った。そして、そこで実施されたのは「基本に立ち返る」セッションだった。
チームで戦術面の指導を担当しているアシスタントコーチのペップ・ラインダースによれば、「全方位型のプレッシング」と「カウンタープレス」というクロップ戦術の両輪について、そのプレー原則や意図を確認する場だったという。もちろんバイエルン対策のメニューもなくはなかったはず。だが、基本的には「自分たち自身、自分たちのアイデンティティに集中することが最も大事」であり、「こういう機会が大切なんだ。トレーニングしないものは失われてしまうものだからね」とラインダースは語っている。
だから、バイエルン戦もリヴァプールは、ハードなプレッシングで「組織化されたカオス」に相手を引きずりこむ自分たちのやり方を貫くだろう。ボール支配率で相手を上回り、なおかつタックル数やボールリカバーの数でも相手を上回るゲームが、リヴァプールにとってベストの展開だ。3-0で完勝した直近のプレミアリーグ第26節ボーンマス戦(支配率66%、タックル数とボールリカバーはそれぞれ相手より11回多かった)はまさにそんな内容で攻守の歯車が噛み合ったゲームだったが、チームの状態はすこぶるいい。
バイエルンは、プレーメイカーであるチアゴ・アルカンタラがアンカー、クリエイターのハメス・ロドリゲスとボックス・トゥ・ボックスのレオン・ゴレツカがその前に並ぶ4-3-3の中盤が予想されるが、この3センターは攻撃力こそ抜群だが最終ラインをプロテクトする力には乏しく、決してプレッシング&ショートカウンターに対する守備に長けているとは言えない。プレスから瞬時に攻撃態勢へとトランジションするジェイムズ・ミルナーやジョルジニオ・ワイナルドゥム、フリーロールを与えられて中盤に下りてくるロベルト・フィルミーノを彼らがうまくケアできないと、バイエルンは苦労を強いられることになるはずだ。
また昨季から現在に至るまで国内外であらゆる守備陣をズタズタに切り裂いてきたモハメド・サラー、サディオ・マネ、フィルミーノの“3本の矢”が現在も好調なフォームを維持している。右サイドのマネは目下4試合連続ゴール中で、左のサラーも今季ここまで公式戦20ゴールと勢いに陰りは見られない。「偽9番」のフィルミーノが作ったスペースにサラーとマネがアウトサイドからカットインする変幻自在のトリオムーブを90分間抑えるのはどんなチームにとっても至難の技だ(実際、今季のリヴァプールがリーグ戦で無得点だったのは、スコアレスドローだった10月7日第8節マンC戦の1試合だけ)。
バイエルンにはDFながら今季ここまで公式戦12アシストをマークしているジョシュア・キミッヒ、直近のアウクスブルク戦で決勝弾を決めているダヴィド・アラバという良質な両サイドバックがいるが、マネとサラーが彼らの裏を執拗に突くことで彼らのオーバーラップ抑止にもなるし、抜け出してスピード不足が指摘されるバイエルンのCB陣との対人勝負に持ち込めれば、ゴールを奪うのはそう難しくないだろう。
■今季初めて「究極のセンターバック」を欠く守備陣
Gettyとはいえ、国内リーグでの調子だけを根拠に「リヴァプール有利」とは決して言えない。チーム状態こそ良好だが、リヴァプールは特にアンフィールドでのファーストレグで攻撃を最大の防御としなければいけない“事情”がある。彼らが抱える心配事、それは守備の要でありチームリーダーの1人でもあるフィルジル・ファン・ダイクの出場停止である。
クラブのレジェンドでかつてのディフェンスリーダーだったサミ・ヒーピアは、最近の現地インタビューでファン・ダイクについてこう述べている。
「彼はすぐに守備をオーガナイズし、守備のリーダーになった。弱点を見つけることが難しい究極のCBだよ。常に落ち着いていて、決して慌てないし、ボールを持てば常に自信に満ちている。金額なんて関係ないくらいチームにとって重要な存在だ」
ヒーピアが言うように、昨年1月に加入したファン・ダイクは、今や誰もが認めるチームの絶対的な大黒柱だ。対人守備の強さやビルドアップの貢献はもちろん、比較的若いDFラインのメンバーに絶えず声をかけ、指示を飛ばし、仲間がミスをしても率先してカバーに奔走するファン・ダイクは、今季のリヴァプール好調の原動力である。今や彼抜きのチームが想像できないくらいの存在になっているおり、今季ここまでのプレミア+CL計32試合すべてに先発出場してきた「究極のCB」を欠いた際の影響が果たしてどれほど出るかはわからない。
■ファビーニョをCBにコンバート? その影響は?
Gettyさらに追い打ちをかけるように、今のリヴァプールは“CB危機”に襲われている。ファン・ダイクの相方だったジョー・ゴメスは脚の骨折により離脱中。デヤン・ロヴレンもハムストリングを負傷しており、前述したマルベーリャ合宿には帯同せずバイエルン戦に間に合わせるべく急ピッチでリハビリが進められているが、ファーストレグでの戦線復帰は微妙である。
フィットしたCBがジョエル・マティプただ1人という緊急事態に、クロップは以前にも試したことがあるファビーニョのCB起用を決断するかもしれない。バイエルンのエースであるレヴァンドフスキを見るのは、元シャルケでルール・ダービーの再現となるマティプになるだろうが、狡猾なポーランド代表の点取り屋が対人の場面でファビーニョを狙い撃ちするようだとリヴァプールは苦しみそうだ。
何より、ファビーニョを本職の中盤で使えないのがクロップにとっては痛い。攻撃的に試合を進める上で、相手のカウンターが発動する前に高い位置でその芽をいち早く摘み取るファビーニョのセンスは際立っている。敵陣の高い位置でボール奪取後すかさず前線に出すパスの質も高く、彼の存在がワイナルドゥムらの飛び出しを促進している部分もある。“攻撃的な守備的MF”として急速にチームにフィットしつつある彼が中盤から抜ける影響はどれほどか。
CLラウンド16きっての名門対決、その勝負の行方を大きく左右するファーストレグ。いよいよ始まる大舞台でも「自分たちのフットボール」を体現し、かつての宿敵を迎え撃つために、クロップはチームにどのような調整を施すだろうか。
文=寺沢 薫
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