突きつけられた“現実”。長期プラン欠如するアーセナル、未来へ残された選択肢

コメント()
Michael Regan

フットボールは残酷だ。抱えた大量の問題にほんの少しの間目をつぶってくれるとしても、最後には“現実”をこれでもかと見せつける。大きな舞台となればなおさらだ。

5月29日、アゼルバイジャンのバクー・オリンピック・スタジアムで行われたヨーロッパリーグ(EL)決勝戦。チェルシー対アーセナル。立ち上がりこそ何度かゴールに迫ったアーセナルだったが、落ち着きを払ったチェルシーにうまくいなされ、固さが見られる選手たちは徐々にリズムを失う。後半は一方的だった。49分、我慢が必要な時間に耐えきれず失点。その後、自分たちのミス絡みで3失点。途中出場のアレックス・イウォビのスーパーボレーで1点を返したが、反撃はこれまで。4失点目後の20分間、選手たちの気持ちは完全に折れ、約6万人の観衆の前でチェルシーに弄ばれた。最終的なスコアは1-4。ELファイナルでの4失点は13年ぶりの出来事であり、まさに完敗だった。

77分に交代したメスト・エジルが、この日のアーセナルを象徴していた。交代を命じられた最高給選手は不満げな表情でうつむき、哀愁を漂わせながら歩いてピッチを後にした。アディショナルタイムを含めれば15分は残っていたはず。が、試合は終わっていたのだろう。

アーセナルにとって、この試合は今後を左右するほど大きなものが懸かっていた。EL初制覇、チャンピオンズリーグ出場権。奮い立たせるには十分すぎるほどの要素があった。さらに、プレミアリーグ史に残る偉大なGKペトル・チェフのラストマッチで、相手は11年所属し栄光を築いたチェルシーだ。美しいドラマであれば、37歳守護神の恩返しとなる大活躍でタイトルをもたらし、主将ローラン・コシールニーがカップを掲げる役をチェフやラムジーらに譲り、満面の笑顔でハッピーエンドを迎えたであろう。

だが、フットボールは残酷だ。“現実”を見せる。バクーのピッチに残された選手たちは、悲しみに包まれながら今季最終戦を終えた。

■変化

Sokratis Laurent Koscielny Arsenal Chelsea Europa League final 2019

58試合35勝10分13敗、得点112失点71。22年ぶりに指揮官が変わり、新たな船出を切ったアーセナルの2018-19シーズン全結果だ。プレミアリーグでは勝ち点70で5位。昨季から順位を1つ上げ、7ポイントを上積みした。そしてウナイ・エメリが最も得意とする大会で、決勝進出を果たしている。

長期政権後の1年目、非常に難しいタスクが与えられたエメリだが、奮闘した1年だった。開幕2連敗の後、8月後半から12月まで22試合無敗を記録し、さらに4月には本拠地エミレーツでのプレミアリーグ10連勝を達成。対ビッグ6では3勝3分4敗。昨季のちょうど倍となる12ポイントを獲得した。エミレーツの雰囲気は過去数シーズンとは変わり(これまでが異常ではあったが)、熱狂に包まれる試合もあった。明らかにバランスの悪いスカッドの中で、これまでくすぶっていた選手に奮起を促しつつ一歩ずつ成長させた。「アーセナルをカメレオンのようなチームにしたい」との言葉通り、ポゼッションの形だけではなく、シンプルに前線のスピードを活かしたロングパスやロングカウンターを狙いを持って実践するようになった。あらゆる布陣を試しながら、試行錯誤を続けている。

だが、最も変化が必要であった「メンタリティ」の部分は、1年という短い時間では変えられなかった。

リーグ戦3位フィニッシュのチャンスは十分にあった。トッテナムやチェルシーと比べ、終盤の対戦相手を見れば大きなアドバンテージもあっただろう。ところが、最後の7試合は2勝1分4敗。ライバルが同じタイミングで調子を崩していたにも関わらず、それを活かすことはできなかった。そして、最後の望みを懸けたELファイナルでも、同じロンドンに居を構えるライバルに惨敗し、目の前でカップを掲げるシーンを見ることになった。

かつてアーセナルで優勝も経験したOBエマニュエル・プティ氏は、今年1月のインタビューで「エメリはアーセンと同じ問題に直面している。クラブには革命を期待したのに、何も起こらない。アーセンを解任したが、エメリには権限を与えていない。正直言って何も変わっていないじゃないか」と、クラブの姿勢に疑問を投げかけていた。

結局、指揮官が変わっただけではすべてを変えることはできない。シーズンの最も重要な時期に、踏ん張ることはできなかった。

■計画

Unai Emery Mesut Ozil Arsenal 2018-19

振り返れば昨年4月にヴェンゲルの退任を発表したわけだが、『Goal』の取材では、ファンの解任要求を抑えきれなかったことが主な原因の1つであることがわかっている。後に本人も「彼らは満足していなかった。ただそれが私の仕事であるし、これは受け入れる」と語っている。

つまり、フロントに明確なプランがあったわけではない。今年11月にエメリの招へいを強く希望したイヴァン・ガジディス前CEOがミランへと去っていたことが、長期プランの欠如を物語っている。その後も優秀なチーフスカウトがクラブを去り、スポーツディレクターも未だ決まっていない。

今季のCL出場権獲得は至上命題。だからこそエメリは結果にこだわり、退団がわかっていたラムジー(もちろん今季はキャリアハイ級の活躍だったので、プレータイムを得るに値する)やクラブ側が放出したがっているエジルらを将来有望な若手選手よりも優先した。しかし、副キャプテンと背番号10を与えられた30歳は、指揮官の求める水準に最後まで達することができず、高い期待に応えられなかった。

ラムジーの退団は決まり、コシールニーも去ることが濃厚と言われ、上層部は膨らんだ年俸を減らすためにエジルやヘンリク・ムヒタリアン、シュコドラン・ムスタフィらの放出に動いていると、複数メディアが伝えている。買い手が見つかれば、すぐにでもオファーを受ける構えのようだ。上述の選手たちは、シーズン30試合以上に出場した主力たち。全員が退団することになれば大幅な戦力ダウンとなる。

では、その分大型補強に動くのか? それは難しい。CL出場権を逃したため、夏の補強資金はわずか4500万ポンド(約62億円)程度になると見込まれる。これだけの資金では、現代の市場価格ではビッグネーム1人を連れてくることすらできないだろう。上述の選手たちを放出すればいくらか売却益は入ってくるかもしれないが、年齢も年齢なので高額で売却できるとは考えにくい。そもそも、買い手がつくかも怪しい。フロント陣もそれは理解しているという。指揮官が望むターゲットに接触したとしても、競合となった場合、資金力の差で負けることも大いに考えられる(ちなみに2016年にムスタフィ獲得のために支払ったのは3500万ポンドだ)。

エメリはEL決勝後、補強について「アーセナルはビッグクラブだ。ここでプレーしたい選手は多くいる」と話した。もし上層部がこのような考えを持っていたとしたら、あまりに浅はかである。トッププレイヤーたちがCL出場権のないクラブを移籍先に選ぶとしたら、給与は大きな理由の1つとなる。ここが保証できなければ、魅力的な移籍先とはならないのが“現実”だ。

■希望

Bukayo Saka Matteo Guendouzi Joe Willock Arsenal

先の見えないアーセナルだが、希望の光もある。

ELファイナルでエジルと交代してピッチに入った19歳のジョー・ウィロックは、試合が決した中でも積極的な姿勢で前線へ飛び出しあわやというシーンも作るなど、惨敗のファイナルにおいて唯一のポジティブな要素だった。今季ホッフェンハイムにローンに出た19歳FWリース・ネルソンは、ブンデスリーガ23試合で7ゴール1アシストを記録して年間最優秀若手選手候補にノミネートされ、フラムにレンタルされたDFカラム・チェンバースはクラブのシーズンMVPに。今季コンスタントに出場機会を得たマテオ・ゲンドゥージ、イングランドU-20代表のFWエディ・エンケティアやトップチームに帯同していた17歳のウインガー、ブカヨ・サコなど、可能性を感じさせる若手選手は育ってきている。

資金のない以上、大型補強は望めない。だからこそ、来季は現有戦力と有望な若手選手たちと戦うことが必要になる。『Goal』アーセナル番記者チャールズ・ワッツは「冷酷になり、数人をフレッシュな血と交換する必要がある」と語ったが、まさに来季は絶好機となりそうだ。エメリ本人も「若い選手たちと共に継続して成長を続ける。恐らく、何人かの選手は去る必要があるだろう」と話しており、来季は若手選手にチャンスを与えること、そして数人を売却することを示唆している。

だが、不安は大きい。ライバルクラブたちは今夏も豊富な資金を使って数々のビッグネームを獲得するだろう。有望な若手選手とはいってもいきなりチームの主力に据えることは難しい。トップ4フィニッシュは今季以上に厳しい戦いになる。それでも、アーセナルはその可能性に懸ける必要がある。

プレミアリーグ優勝には、何シーズン掛かるかわからない。ビッグイヤー獲得は何シーズン後になるかわからない。ましてや、CL出場も何シーズン後になるかわからない。だが、選択肢は多くない。それが“現実”なのだ。

「若手選手とともに戦う将来をポジティブに捉えているよ」。こう語った指揮官の言葉を、信じるしかないのだ。

文=河又シュート(Goal編集部)

▶プレミアリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

▶UEFAチャンピオンズリーグ決勝特集!

Goal_UCL_banner

【関連記事】
DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
DAZN(ダゾーン)が「テレビで見れない」は嘘!6つの視聴方法とは?
新時代の幕開けだ!2019 Jリーグ開幕特集
【最新】Jリーグの試合日程・放送予定一覧/2019シーズン
Jリーグの無料視聴方法|2019シーズン開幕前に知っておくと得する4つのこと
白熱のJリーグ!2019シーズンの展望|優勝候補や得点王候補など

閉じる