チャンピオンズリーグの開幕に先立ち、『Goal』では歴代最強チームをご紹介。大会史上「最も強かった」と思うチームを回顧していく。第3弾は、史上初めて3連覇を達成したレアル・マドリーの中でも“最強”を誇った2016-17シーズンだ。
(文=江間慎一郎)
■不撓不屈の精神

レアル・マドリーの名は、チャンピオンズカップ/リーグで最多の優勝回数を誇ることで、フットボールにおける成功・栄光の象徴として欧州、ひいては世界に轟く。だがそうしたクラブであっても、いや、そうしたクラブであるからこそ、すべてが順風満帆なわけではない。
世界最高を自負するクラブは、世界最高クラスとされる選手たちの最高到達点であり、内部には慢心やエゴといったものを多分に孕んでいる。誇り高い選手たちが監督や会長と衝突したことは何度もあったし、また対戦相手を軽んじて足をすくわれることも数え切れないほどあった。極論を言ってしまえば、彼らは成功を手にするか、それとも慢心やエゴによって自壊していくかという二つの道をたどってきたのだ。例えば、マドリディスモ(マドリー主義)の根幹とされる不撓不屈の精神を生かした終了間際の逆転劇も、見方を変えれば「慢心から生まれてしまった点差を、誇りと地力の差でひっくり返している」と言えなくもない(とはいえ逆転を達成したベルナベウはスタンドが物理的に揺れ、心も動く)。
しかし、それでもマドリーはいつだって選手たちが中心なのだ。1950年代にディ・ステファノを中心としたチームがチャンピオンズカップ5連覇を果たしたことで受肉化されたこのクラブは、それからずっと選手至上主義を貫いてきたし、歴史的に彼らが戦術を進化させたこともない。
アリゴ・サッキのミラン、ペップ・グアルディオラのバルセロナのように相手にほぼ何もさせない、完璧というものに限りなく近づいたチームがこれまであった。が、マドリーは選手たちの気分次第という理由から生じる危機と叙事詩を好む劇的性格を保ち続けている。だから強さが安定せず、1シーズンに複数のメジャータイトルを獲得できない。事実、彼らがチャンピオンズで優勝するとき、大抵はその前にリーガ優勝の芽が潰れている。そこでも大きな意味では、不撓不屈の精神を生かした逆転劇を実現しているわけだ。
■最高到達点
Getty Imagesしかしながら最近、そんなマドリーが確実な強さを感じさせるシーズンがあった。59年ぶりにチャンピオンズとリーガの二冠を達成した2016-17シーズンである。このシーズンは、現時点ではジネディーヌ・ジダン率いるチームの最高到達点と言えるはずだ。
その前のシーズンと次のシーズンにもチャンピオンズリーグ優勝を果たしたジダン・マドリーだが、おそらく指揮官のカリスマ性が最大限に発揮され、陣容的にもモチベーション的にも最大限にみなぎっていたのが2016-17シーズンだった。ジダンはクリスティアーノ・ロナウドを含めて、エゴの強いマドリーの選手たちを従わせることが可能だが、あのシーズンには最も多くの選手たちのエゴ、そして野心を抱え込めていた。
「その前のシーズンから考えていたことだった。マドリーのトップチームの監督となったとき、ほかのチームであれば定期的に出場できるはずなのに、そうできない選手たちがいることを把握したんだ。だから自分自身に『これだけ選手層が厚く、全員が素晴らしい、本当に素晴らしい選手たちならば、それを生かさない手はないだろう?』と言い聞かせた。全監督がこれだけの選手たちを擁せるわけではなく、プレシーズンの段階から全選手を戦力として数えていくことを決めていたんだよ」
これはシーズン終了後にジダンが口にした言葉だが、彼はシーズンを通して本当に多くの選手たちを起用し、最後まで疲弊を防ぐことに成功した。C・ロナウド、トニ・クロース、セルヒオ・ラモス、ケイロール・ナバス、ナチョ、マルセロ、カルバハル、ラファエル・ヴァラン、カリム・ベンゼマ、ルカ・モドリッチ、マテオ・コバチッチ、イスコ、カセミロ、ギャレス・ベイル、ダニーロ、ルーカス・バスケス、アルバロ・モラタ、ハメス・ロドリゲス、ぺぺ、マルコ・アセンシオの20選手が1000分以上の出場機会を得て、リーガとチャンピオンズを並行して戦い抜くことに成功したのである。
ジダンはチャンピオンズがある週のリーガで準主力級の選手たちを積極的に起用し、そしてチャンピオンズで自身の考えるベストの布陣を敷いた。チャンピオンズでは決勝トーナメント1回戦でナポリ、準々決勝で欧州の宿敵バイエルン・ミュンヘン、準決勝で地元の宿敵アトレティコ・マドリーを打ち破り、そして最後に決勝でユヴェントスを下して大会連覇を果たした。特に準々決勝アトレティコ戦、ベルナベウでのファーストレグでC・ロナウドがハットトリックを達成して看板に座った姿と、今ではほとんど解体されてしまったビセンテ・カルデロンでのセカンドレグでベンゼマがアトレティコDF3人を抜き去る魔法のプレーからイスコがゴールを記録した瞬間は、強烈だった。
■必然
(C)Getty Imagesジダンは語る。「私にとって最も大切であるのは、グループというものをしっかりと扱っていくことにほかならない。それは戦術とかそういったものよりも大切だ。もちろん、すべてが大切な要素ではあるが、選手としてではなく、人としての彼らと接していくことの方が大切なんだよ」
そう、マドリーは奇抜、特異な戦術がなくても、後に大きな影響を与えることのない戦術を使っていたとしても、選手たちが素直に規律を守って(C・ロナウドだって守備をしていたのだ)、慢心なくその力を発揮すれば当たり前に強い。そしてジダンは規律を守らせながらも、自身も信じられないことをやってのけていた選手であったために、彼らの可能性を信じることができる。ジダンはそのカリスマ性でもってC・ロナウド、ベイルらにも守備の意識を植え付け、主要システムである4-3-3、さらにはより堅実で均等にスペースを埋められる4-4-2を駆使しながら二冠への階段を駆け上っていったのだった……。まあ、それでもリーガでは19試合で最少得点差で競り勝ち、その内9試合では最後の10分間まで決勝点を決めることができず結局いつもの劇的勝利を演じたのは、マドリーらしいご愛嬌というところだが。
ジダン・マドリーは、このシーズンを境にトーンダウンする。主力選手たちの野心は衰え、ハメスやモラタら準主力選手たちは常時出場がかなわないことに見切りをつけて退団の道を選び(ハメスは今季バイエルンから出戻った)、そうして臨んだ翌シーズンのリーガは最初からつまずきアトレティコより下の順位の3位で終えた。それでも大きい意味での不撓不屈の精神を発揮してCL三連覇は果たしたのだから、やはりC・ロナウドもいたジダン・マドリーは凄まじかったわけだが、野心とエゴを表面張力いっぱいまで満たして二冠を達成した前シーズンは圧巻そのものだった。
CL三連覇達成後のシーズン、C・ロナウドもジダンも去ったマドリーはついにメジャータイトルを一つも獲得することができず、一サイクルを終えたことを印象付けた。そのシーズンの終盤にはジダンが戻り、今季彼とともにまた新たなスタートを切ることになったが、あの頃の輝きに少しでも近づくことができるのだろうか。
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です



